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21話 束の間の休息

すいません、ちょっと長くなってしまいました。






 店の看板には『チョコレート』と書いてあるのだが、マノックのような厳つい男が入るようなたたずまいではなく、もっと気品のある人たちがつどいそうな雰囲気といったらいいだろうか。


 恐らくこの店を利用する人は従者や執事を連れてくるような貴族たちではないだろうか。


 マノックが外の窓から中をそっと覗いてみると、中はガラス張りのショウウィンドーがあって、その中に商品が並べられているらしい。しかしそれがよく見えない。


 少し考えたのち、マノックは意を決して扉を開けた。


「お、おう、ちょ、ちょっと邪魔するぜ」


「お邪魔します」


 店内には客が2人だけだったのだが、マノック達が入って行くなり、怪訝けげんそうな目で見られる。間違いなくマノック達は場違いなんだろう。しかしそれが分かったうえでの突入だったので、心構えは出来ており、敢えて堂々と背筋を張ってカウンターまで行く。


「店主はおまえか?」


 静まり返る店内でマノックの声だけが響く。


「ひっ! 私は下働きです、店長すぐ呼びます!」


 なぜか店員の女性が慌てた様子で裏へ引っ込んでしまった。


 同時に先にいた貴族っぽい女性客2人も、慌てるようにして店内から出て行ってしまう。


 そして少しすると、恐る恐る店主らしい人物が裏の扉から出てくる。


 マノックよりも結構年上のようで、白髪交じりの黒い髪の毛をしたコックの恰好をした男だった。

 その店主のすぐ後ろには、先ほどカウンターにいた下働きだという女性が隠れるようにして、店主の横から顔だけ出していた。

 

「あ、あの、どういったご用件でしょう、か?、ご、轟雷……」


「ああ、チョコレートだっけ? それを買いに来ただけなんだがな。なんか勘違いしてね~か? 強盗とかじゃねーぞ、俺達。砂人やってるんでこんな格好しているだけだよ。まあ、その後ろに隠しているショットガンは必要ないと思うぞ」


「へ? あ、はははは、そ、そうでしたか。これこれは大変失礼しました」


 扉の向こうの見えないところで『ゴトリ』と銃を置く音が聞こえ、店主は少しだけ安心した様子でカウンターまで来た。下働きの女性はまだ、扉の陰から首だけ出している状態ではあるが。


「分かってくれたようだな。じゃあチョコレートをくれ」


「はい、このショーウィンドーにあるものすべてがチョコレートです。どれにいたしますか?」


「このちっせえ粒がチョコレートか、ってまてよ、この値段ってこの1粒での値段なのかよ! ゼロが多くねえかこれ」


「それでしたらこちらの詰め合わせなどいかがでしょうか。味が違う種類の4粒入りで千シエルとお手ごろな値段となっております」


「ってことはだ、一番安いのでも1粒で250シエルってことかよ。か~すげーな!」


「男性向けですとこれなどいかがでしょうか。ウイスキー入りのチョコレートでございます。これ以外にもワイン入りや、ラム酒入りなど各種取り揃えておりますよ。詰め合わせもありまして、こちらですと5種類のお酒が味わえまして5粒入りで3千シエルとなっております。いかがでしょうか?」


「おお、酒入りいいねえ。んじゃ俺はそれにするか。ミルはどれがいい、好きなの選んでいいぞ。今回はミルが稼いだみたいなもんだしな」


「はい! それじゃあ私これがいいです!」


 ミルが指さしたものは5粒入りで5千シエルする、超高級品だった。



「「ありがとうございました~!!」」


 初め店に入って行った時とは、声のトーンが1段も2段も違う見送りをされながら店を出る2人。その手にはそれぞれ小さな包みを手にしていた。女王蟻の魔石に匹敵する値段の包みを。


「港丘公園にでも行ってこれ食ってみるか」


「はい、どんな味するのか楽しみです!」


 港の近くにあるちょっと高台になった公園で、そこからは港が見渡せる眺めの良い場所であり、お昼時ともなると港を眺めながら食事をとる人達で賑わう場所であった。


「ミル、尻尾隠してるのか?」


「はい、変な目で見られたりするのは慣れているんですけど、その、マノックさんを巻き込みたくないんで……」


「馬鹿言ってんじゃねーよ。巻き込んでるのはいつも俺じゃねーか。んな事気にしてんじゃねーよ。文句言う奴がいたら俺が轟雷でーー」


「ほら、そうやって巻き込んじゃうじゃないですか~」


「うへ、巻き込むってゆうよりもなんか2人とも、トラブルメーカーっぽくねーか?」


「はい、確かにそうかも!」


「ははは、俺達やばい奴かもな! 実はさっきのチョコレート屋の店主な、俺の事知ってたみたいでな、銃を用意してやがったしな。所詮はな、そういう扱いなんだよ、俺は、ははははは」


「ほんとにマノックさんって有名ですよね」


「いやいや、有名とはちょっと違うぞ。こういう場合はな、『悪名』っていうんだよ。はははははは!」


「ふふふ、面白い」


 行きかう人達にジロジロ見られながらも、長い坂道を上って港丘公園に到着する。


 公園からは港が端から端まで眺望でき、ソレニアの街も見ることができた。昼時過ぎとあって、比較的すいていたので木で作られた椅子に座ることができた。


 公園内には屋台がいくつか出ており、そこでサンドイッチ2つとハーブティーとワインを購入する。

 港を眺めながら少し遅い昼食を、ゆったりと取るマノックとミルだった。


「凄い、なにこれ! 美味しい!!」


 チョコレートを人生で初めて食べたミルの感想がこれだった。

 目を丸くして、両手で小さな粒をかじるその姿は、まるでリスのようだ。


「そんない凄いのか? じゃあ俺もいってみるか! 『カリッ』、んぐ、んぐ」


「どう?」


「おおおおおお! こいつはすげ~っ! 食べる酒じゃね~か、いやカクテルに近いか。どっちにしろ衝撃的すぎるなこれ。これがもっと安かったら大人買いするのになあ、残念! これ食いながらワインを飲む。なんて贅沢な俺!」


 しかしそんな贅沢な時間は長くは続かなかった。非常警報のサイレンがけたたましく鳴り始めたのだ。


「今度はこの街でもかよ、何が襲ってきやがったんだいったい?」


「魔物が攻めて来たんですかね?」


「可能性としてはそれが一番なんだがな、オークやゴブリンどもが攻めてくることもあるからな、それだと俺達も駆り出される可能性もあるな」


「オークとかゴブリンが攻めてくるんですか? この街へ?」


「ああ、この街から5日近くいったところには、オークやゴブリンの街があってな、奴らが時々この街へ攻めてきやがるんだよ。記録によると過去に7回も攻めて来てるらしいんだが、すべて返り討ちにしてるんだよ。よくまありずに攻めてくるよな」


「そうなんですね、それだけ攻められてるのに、なんでこっちからは攻めないんですか?」


「ああ、それが3回ほど攻めてるんだけど奴らの街は広大で兵士数が多い。だから上陸しても攻めきれないらしいんだよ。それでいつも撤退してくるらしい。奴らの繁殖力は人の数倍あるからな。数で攻められるとかなわない。だけど攻めてくるには砂海を越えるための陸戦艇がいる、だけど奴らはそれを大量に用意するほどの工業力がないからな。結局は小規模で攻めてくるしかなく、撃退されるんだよ。この街の軍隊も強力だしな。ま、そういった理由でお互いに攻めきれない事情があるんだよ」


「ふ~ん、よくわかんないけど」


「ああ、それでいい。大人達の事情だからな。一応家に戻っておこうか」


 こうして2人は港丘公園をの長い坂道を下りて、巨木の家へと帰って行った。


 巨木の家に帰ってくるとすぐにドリュアスが出迎えてくれる。そして何かをマノックに渡す。


「お帰りなさい、マノックにミルちゃん。先ほど届いた伝文です」


「伝文? 誰からだいったい」


 マノックはドリュアスに渡された伝文を開き、中を真剣な様子で読み始める。


「何が書いてあるんですか?」


「くっそ、ちょっとやばい雰囲気になってきやがったよ。俺まで駆り出すとはな」


「え、え、どういうことです?」


 ミルが心配そうにマノックを見つめる。


「ゴブリンとオークが攻めて来たんがな、数がいつもとは比較にならないくらいすごうらしい。詳しくは書かれてないけどな、俺まで召集されたってことは、この街の軍隊だけでは足りないと上層部が判断したんだから、大軍で攻めてきたんだろう」


「マノックさん、私も行っていいですか?」


「ああ、だが危険だぞ。下手したらゴブリンやオークどもに拉致られて、子種を仕込まれるぞ。その覚悟はあるのか?」


「マノックさんがそんなことはさせないですよね? ね?」


「けっ、人だよりかよ。ま、その前に俺がミルに助けられそうだがな」


「そうですね、それじゃあマノックさんの面倒はわたしが見ますから」


「ふはははは、急いで準備しろ!」


「はい!」


 2人は準備を急ぎ、バタバタと家を出ていくのであった。


「ドリュアス、すまんがまた留守を頼むぞ」


「はい、お任せを。2人に樹木のめぐみのご加護があらんことを」



 2人が港に到着し、『俺の陸戦艇』に乗り込もうとすると港の船員がすでに整備をしていて、マノックに気が付き話しかけてくる。


「あ、マノックさん緊急事態だったんで先に整備させていただきました。いつでも出航できます。それと緊急作戦会議をするそうなので、港の会議所に行ってもらえますか」


「ああ、わかった。弾は多めに積んでおいてもらえるか。それとヒールポーションに保存食にワインと、それと柄付雷電弾があったら手に入れてほしい、できるか?」


「あああ、柄付雷電弾は手に入るかどうか分かりませんが、一応手配してみます」


「そうか、すまんが頼むよ」


 こいった緊急招集の場合の弾薬類は街の費用で賄われるので、ここぞとばかりに弾薬を頼むのだが、整備員も軍の所属ではないのでそこんところは協力的だった。


 マノックが足早に会議所に向かい、会議所の扉を開くと街の兵士に奥の部屋に案内された。

 案内された部屋には、15人ほどの指揮官クラスの軍人がいて、その半分ほどの顔には見覚えがあった。


「マノック、久しぶりだな。また一緒に戦えるとはな」


 マノックに真っ先に話かけてきたのはフランク・レイコック伯爵という、歴戦の戦士であり、この街の最高司令官でもあった。顔には大きな傷と老齢によるシワがいい感じに走っており、おそらく60歳は超えているだろうと思われる。


「はい、お久しぶりですね。まさかまた・・呼ばれるとは思いませんでしたよ」


「よし、これで全員がそろったな。それでは緊急会議を始める」


 マノックは初めて見るのだが、参謀らしい人物が会議をすすめる。


 簡単な自己紹介から始まり、今回の緊急招集についての説明がはじまった。


 マノック以外にも一般人の召集は3人いて、マノックの隣に並んで座っている。


 マノックは知らない顔なのだが、向こう3人は名前くらいは知っているらしく「轟雷の……」などとひそひそ話が聞こえて来た。


 「今回の緊急招集の理由だが、もう噂は広まっていると思うがゴブリンとオークの軍隊がソレリアの街とこのトレシアの街へと、進軍してきたことがわが軍の偵察艇によって判明した。おそらく明日朝には街に到着するかと予想される。ただ、いつもと様子が違うことが偵察艇の持ち帰った情報からも推察できたのだが、その内容というのが『角トカゲ』が奴らに加わっているかもしれないということだ」


 角トカゲが戦列に加わる可能性は確かにあった。それは過去の戦いでもそうだったのだが『モンスターテイマー』の存在だ。


 オークやゴブリンの中には、このモンスターテイマーというスキルを持った奴らが少数だが存在することがある。人属がせいぜい猛獣クラスまでのテイムなのに対して、奴らは大型の魔物まで飼い馴らせる事ができる奴が時々でてくる。


 ただし、角トカゲほどの大型のテイムを確認したことは今までは極少数であった。なので今回の偵察艇の情報の信頼度はどれくらいかは分らないのだが、可能性としてはあるということだった。


「偵察艇によると角トカゲらしい影は2匹確認、大きさは不明。それとイエロースパイダ―が複数体も確認、巡視艇クラスが5隻、コルベット級が2隻、フリゲート級2隻、その他未確認の船影3隻となっている。しかも後方には輸送艇が複数確認されている。かつてないほどの規模で攻めてくるつもりらしい」


「ちょっと待ってくださいよ。俺の船はたかが小型のオンボロ陸戦艇ですよ。どう太刀打ちしろっていうんですか」


話を途中まで聞いていたマノックだが、堪らず椅子から立ち上がって話に割って入る。


「マノックよ、レタシア沖でのワーム戦や、ドロップポイントでの角トカゲ戦の情報は入っているんだよ。そのオンボロ陸戦艇で戦って倒したんだろ」


 レイコック伯爵のその一言で、その情報を知らなかった指揮官達が驚いた顔でマノックを一斉に見つめる。


「レイコック伯爵、さすが情報は早いんですね。それを言われると何も言えませんよ」


 諦めて椅子に再び座るマノックであった。





読んで頂き有り難うございました。


今後ともよろしくお願いいたします。



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