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17話 少女は望郷を知らない



 朝の食事を終えるとマノック一行は『俺の陸戦艇』が係留されている港へと向かうのだが、その道中でもマノック達の英雄ぶりは発揮されて彼らはたくさんの土産物を抱えて港に着いた。


「いやあ、笑いがとまりませんよね。盗賊と紙一重みたいな俺達が英雄扱いですぜ」


 山賊のような操舵手のパットが言うのだが、それはあまりにも説得力があり、皆が首を大きく縦に振っている。


「パット、お前だけは特に解せんよ」


 レフがパットの言葉に突っ込むと、それに合わせてマノックがボケる。


「そりゃそうだ、領主の牢屋の方がぴったり似合ってるからな」


 一同大爆笑であった。


 ほどなくして港に到着すると港で働く人達が手を振る中、颯爽さっそうとピカピカに磨き込まれた陸戦艇に乗り込み港を出航していくのだった。


 港の係留係や警備の人達が、街を救った陸戦艇をきれいに磨き上げてくれたらしい。


 意気揚々と防護壁の門を潜り抜けると、銃塔から顔を出し手を振ってくる若い女性守備兵にも見送られて、再び砂の世界へと足を踏み入れるのであった。


「ああ、またじゃりじゃりした生活に戻るわけだな。最後にもう一回くらい朝水浴びしとくんだったな」


「私が魔法でお水出そうか?」


 マノックがボソッと言った独り言にミルが返答したのだが、それを聞いたマノックは驚いた表情でミルを見る。


「ミル、『クリエイトウォーター』の魔法なんか使えるのかよ」


「うん、使えるよ。水系魔法は上級まで使えるよ」


「皆、聞いたか! これから毎日水浴びできるぞっ!」


「「「「おおおおおお!」」」」


 砂海の上で暮らすことが長い砂人達にとって、水魔法が使える人は引っ張りだこであった。


 この砂ばかりの世界では真水は貴重であって、水を飲むのにさえ金がかかるのが常識であり、水浴びなどは平民にとっては滅多にできるものではない。


 しかし水魔法ができる人間が1人でも船上にいれば様相は一変する。水は貴族並みに使い放題、場合によっては売ることさえできるのだ。


 それは乗組員達が大喜びするのも当然であった。


 街から出航してまだ間もないというのに、船上では水浴び大会が開催されていた。


 船倉に積んでいた水が入った樽をすべて使い切って、甲板で水浴びをすることになったのだ。空になったらミルに魔法で水を詰めてもらえばいいのだ。


 大の大人が大はしゃぎで水の掛け合いなどをしている姿はなんとも恥ずかしい光景ではあるが、それがむさくるしい男達であるとそれは犯罪レベルの光景となる。


 しかしここは砂海の上であって見る人は誰もいないとばかりに、はしゃぎまわる面々なのであった。


 そこへミルが加わってしばらくすると、男どもの様子が徐々に変わっていく。


 大はしゃぎしていた大人たちは、我に返るようにお互いの顔を見合わせてから、最終的にマノックへと耳打ちする。


 それを聞いたマノックは大きくため息をするとミルに話かける。


「えっとなミル、水に服が濡れるとだな、こうなんといったらいいのかな、若い女がこういった状態だとな、周りにいる男達がこう困るんだよな。目のやり場っちゅうかな、そういうところにだな、分るよな?」


「……」


 ミルは無言で頭を傾げてみせる。


「そうだ、こうしよう。ここに布を張るから皆1人づつ順番で水浴びしようか。船の航行の仕事もあるしな。先に進みながら順番で水浴びしよう、どうだ?」


「う~ん、なんとなくわかった様な……」


「っよおおし! そういうことだ。船を動かすぞ! 微速前進、我らの街へ戻るぞ」


 我らの街とは『ソレリア』という小さな街。


 乗組員達はこの街に住居を構え、家族を養っている。


 最年少の18歳マックスでさえ結婚して妻がいるのだが、マノックだけはいまだ独身であった。


 このソレニアの街から船で数時間のところには『トレシア』という大きな街がある。マノックだけはそのトレシアに住んでいた。というのも、トレシアには魔物の素材や魔石、陸戦艇の整備などの店が多くあり、マノックにとっては仕事上住みやすい土地だったからというのと、もともとこの街で生まれ育ったからでもあった。


 マノックはトレシアの外壁近くの貧民街で生まれた。幼少期からかなり悪ガキだったらしく、悪いことも数々しでかしたらしい。

 あるとき、貧民街の縄張り争いに巻き込まれて両親は死亡、その後ストリートチルドレンとなったマノックだが、教会の炊き出しに頻繁に顔を出すようになって教会に住み付くようになる。

 ある日、教会の紹介で生まれて初めて仕事をこなす。その仕事というのが魔物へと変化したドブネズミ退治だった。

 30㎝ほどの大きさのジャイアントラットを3匹叩き潰したのが初討伐だった。


 それ以来、陸戦艇に雇ってもらっての魔物の討伐を繰り返すようになり、その期間に知りあったのが『ボール商会』のジョージで、マノックは13歳の時だった。


 ジョージもその頃はまだ駆け出しの砂人で魔物を狩って生活していたが、のちに父親の店を継ぐことになる。

 

 マノックにはそんなものがあるわけでもなく、ひたすら魔物を倒して日銭を稼いでの生活だった。

 そんなある日街で、面白半分で魔法測定器で自分を測ったところ『雷魔法』の高適性が判明。そこからマノックの生活はがらりと変わった。


 魔法が使える人は極限られており、どこへ行っても仕事には困らないのだが、マノックは砂人にこだわり魔物を狩り続けた。そして16歳の時には『轟雷のマノック』と言われ、轟雷魔法1発でブラックバーンを撃ち落としたとか、1人でワームを黒焦げにしたとか、噂が1人歩きをして恐れられた。


 そして18歳の若さで自分の陸戦艇を持つようになるが、そこからは鳴かず飛ばずでパッとしない時を過ごし、いつしか恐れられた『轟雷のマノック』と言う二つ名も聞かれなくなった。そして現在に至るわけだ。


 そんな彼らの街に向かう心情は、マイホームに帰れるという安堵であった。

 


 はるか地平線の彼方に、対をなす『ソレリア』と『トレシア』の街が見えてきた時には、乗組員達からは歓声があがった。ただ1人を除いてだが。


 乗組員が歓声を上げる中、ミルは一人街とは違う方向を見ていた。


 その表情は物悲しくもあり、いやな思い出を垣間見るようでもあった。マノックはそれに気が付くものの、何と声をかけていいか分からず、時間だけが過ぎて行った。

 特異種であるミルの過去なんて良い思い出なんてあるわけもなく、ましてや帰る場所もないことくらいはマノックでも分かる。


 分かるから余計に声をかけられなかったのだ。

 




 陸戦艇は初めにソレリアの街に到着すると、レフ、パット、キース、マックスの4人を下ろし、3日後に迎えに来ると伝えると今度はトレシアの街へと出航する。ゆっくりと走っても5時間ほどで到着する距離だった。


「なあミル、トレシア着いたらまずは宿探さなきゃいけねえよな。よかったら俺の知り合い――」


「私、マノックさんの家に行っていいかな」


 途中まで言いかけた言葉は、ミルの言葉で遮られた。


「ば、ばっかじゃね~の! お、おまえ、お、俺は、ど、独身のおっさんだぞ。そんな危険な場所に自ら入り込もうなんてのはア、アホだぞ」


「アホでもいいもん。だから私はマノックさんの家に泊めてもらうから」


「あああああっと、どうしたもんかな。若い女を泊めるとなるとあれをまず隠さなくちゃいけねぇしな。まてよ、あれはどうしたらいいかな」


 マノックが何やらぶつぶつと言ってる間にも、陸戦艇はトレシアの港に到着するのだった。港に着くと、すぐに港で荷物を売り払ってしまい金に換えるのだが、スコーピオンマンの素材と魔石が消えていた。

(そうか、召喚時間過ぎると素材や魔石も消えちまうのか、くそ)



 トレシアに上陸するとすぐに店を探すことにした。


 トレシアの街はそこそこの大きさの都市であり、数々の店もあって見て回るだけでもあっという間に時間は過ぎてしまうほどだった。


 まずはミルの服を買うために女性が行きそうな店を探すのだが、マノックには全く分からない。ミルも同様に詳しくなく、最終的に行きつけの店へと足を向けてしまう。

 そこは探索者やハンターなどの砂人達が集う店だった。


「ミルすまねぇな、こういう店しか知らないんでよ。でもここなら機能重視の服が老若男女問わず置いてあるからよ。俺のお勧めの店だよ」


 入ってみると意外と広い店内には、数多くの品が置かれている。服や装備品に日常品までなんでもあった。


「うん、ありがと。ここでかっこいいの探すね」


 ミルはパッと走るように店の奥へと入って行ってしまった。それを見てちょっと安堵するマノックだった。

(どうやら気に入ってくれたか、よかった……)


 ミルが服を選んでいる間にも、陸戦艇に乗せる保存食や日用品の買い出しを済ませ、船に運ばせる手配をしていた。そんな雑務が終わる頃、ミルがちょうど戻って来た。


「これどうかな?」


 マノックはミルの呼びかける方へと目を向けて、思わず声を出してしまう。


「はあ! どうしたミル? 誰に騙された?」






読んで頂き有り難うございました。


週に2~3回投稿目指していますので、今後とも宜しくお願い致します。

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[気になる点] 14話と17話の後書き 呼んで頂き有り難うございました。 読んで [一言] 吹きましたw
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