162話 親分の決闘は狭い甲板で始まった
短めとなっています。
クラ・ガルフが余裕そうに笑いだす。
「ぐはははは。そんなモノは俺には効かぬ!」
それとは反対に20㎜砲を放ったビッチ姉妹は信じられないといった形相だ。
「ソニア姉さま、今の見ました? 20㎜砲弾を跳ね返しましたわよ」
「レベッカ、当らなかっただけじゃないのかしら。もう一度お見舞いしなさい」
ソニアの言葉にレベッカはさらに20㎜砲弾を1連射叩き込む。
しかしまたもその全弾が命中する直前で消滅した。
「ソニア姉さま、消えましたわ! やはり当たる直前で消えているのですわ!」
「むう、確かにそのようですね。魔法の防御なのか固有能力なのかわかりませんけど、かなり厄介という事はわかりましたわ」
その頃になってなんとかビッチ姉妹に追い付いた俺の突撃艇!だが、やはり乗組員の誰もが驚愕(驚愕)の表情をしている。
ビッチ姉妹の装甲多脚機のすぐ横に艇を止めてマノックが話しかける。
「おい、レベッカ、ソニア。どうなってる? 当ってるはずだろ。魔法防御か何かか?」
マノックの声に気が付いたたレベッカが砲塔ハッチから上半身を乗り出す。そして視線はクラ・ガルフに固定したまま返答する。
「当る寸前で砲弾が消えたように見えましたわよ。これでは手も足も出ませんわ」
「くそ、一応こっちも撃ってみるか。攻撃力が上がれば効果があるかもしれん――ロリっ子、撃て!」
「へっ? いきなりなのっ!」
シェリーは慌てて照準眼鏡に目を当てると76㎜砲の引き金を引いた。
発射した弾丸は対人用の散弾である。
直径1㎝ほどの無数の散弾がクラ・ガルフ目掛けて飛んでいく。
しかしクラ・ガルフは笑みを浮かべたままそこから動こうとしない。
そしてやはり命中する直前ですべての散弾は一瞬で消滅した。
「何度やっても効かぬ。効かぬのだよ。ぐはははははは」
クラ・ガルフは高らかに笑う姿にマノックが苛立ちながらつぶやく。
「くそっ、76㎜砲でも効かねえのかよ。どうしろってんだよ、ったく」
そこへ後方からロックランド旗を掲げた大型突撃艇が到着する。
「レイさ~~~~~ん!!」
聞き覚えのある声にマノックが振り向く。
「おお、天の助け! いいところへ来たな」
向かってくる大型突撃艇の船首から手を振るのはミルだ。
マノック達のすぐ横まで来ると、ミルはヒョイッと俺の突撃艇!へと乗り移る。そして真っ先にマノックに抱き着くのだった。
「レイさん、やっと会えた。心配したんだから……」
マノックは涙ぐむミルの両肩を掴んで引き離し、顔を覗き込んで言った。
「ミル、いきなりでわりいけどよ、魔物召喚してくれねえか。あのオークキングをぶったおしてえんだよ」
一瞬驚いた表情を見せるミルだったが、オークキングであるクラ・ガルフに視線を移すとすぐに理解したらしく大きく頷いた。
「はい、わかりました。レイさんの敵は私の敵です。ものすごい魔物さんを召喚しますね」
ミルはいつもの様にポケットから召喚用のメモ用紙を取り出して天に掲げる。
メモ用紙に魔力が注ぎ込まれて空間に亀裂が生じる。
そしてその亀裂から這い出る様にして出て来た魔物、それはなんと身長3mのオークキングであった。
それにはちょっと複雑そうな表情を見せるクラ・ガルフ。
オークキングが砂海を走りだす。
途中、砂中から飛び出す魔物をも蹴散らしながらなんとか破壊された連絡艇に到着する。
オークキングは船体の突起に手を掛けると、弾みをつけて一気に甲板に飛び乗った。
そして天に向かって雄叫びを上げた。
それをずっと腕を組んでみていたクラ・ガルフがつぶやく。
『オークキング種か。だがな、無駄だ』
その言葉にオークキングが嬉しそうに答える。
『獣人に呼び出されて戦う相手が同族とはな。まあいい、相手にとって不足なし!』
オークキングが渾身の力で殴りかかる。
だが、クラ・ガルフは無表情のまま腕を組んで動かない。
そこへオークキングの拳がクラ・ガルフの顔面をとらえた――はずだった。しかし、当たる直前で砲弾同様に忽然と消えたのだ。
消えたとは、オークキングそのもの姿が消滅したのだった。
ミルが驚きの声を上げる。
「消えたの? えっと、私と召喚魔物とのつながりが消えました。完全にこの世界から消滅したみたいです」
当のクラ・ガルフはと言えば、相変わらず腕を組んで高笑いをしている。
何時の間にか、ロックランド連合の小型艇が彼らの周りに集まり出している。小型艇ばかりなのは、途中沈没した陸戦艇などが邪魔をして小型艇しか入って来れないようである。
ロックランド連合の兵士に緊張が走る。
そしてその中の焦ったゴブリン兵の1人が引き金を引いてしまった。
それを合図に緊張の糸が一気に切れた。
機関銃に機関砲。そして40㎜程度の小口径砲が一斉にクラ・ガルフ目掛けて発射された。
だが結果は同じであった。
一瞬ですべての攻撃を消しさられ、その存在感と恐怖に引き金を引く手が弱まり、静寂が訪れる。
その静寂にクラ・ガルフは高笑いだ。
「何度やっても結果は同じ事。ぐははははは」
そこでマノックが口を開く。
「なあ、ミル。そういえばよ、さっきから攻撃を受けてはいるけどよ。一向に攻撃を仕掛けてこねえよな。おかしくねえか?」
集まったロックランド連合の兵士達の視線が2人の会話に集まる。
マノックの言葉にミルは納得するような表情で答えた。
「確かにそうですね。武器を持ってないんですかね?」
「どうなんだろう? よし、近くに行ってみるか」
「えええ、だいじょうぶなんですか!」
「でもよ、なにかしなくちゃ終われねえだろ」
そう言うとマノックは俺の突撃艇!をゆっくりと前進させる。
それに合わせる様に他のロックランド連合の小型艇も、クラ・ガルフを囲む輪を狭めていく。
露骨に焦り出すクラ・ガルフ。
「き、貴様らそれ以上近づくんじゃない。それ以上近づいてみろ……」
「ほれ、それ以上近づいたぞ。さあ、どうするんだ?」
マノックが挑発した。
するとクラ・ガルフは腰に差したサーベルを引き抜く。
そこへミルが水の魔法を放つ。
「ウォーターカッター!」
水でできた三日月状の刃がクラ・ガルフを襲う。
しかし結果は同じで、魔法攻撃でさえも消滅してしまう。
「う~ん、魔法も効かないみたいですね」
ミルは残念そうだ。
そこでマノックがまたしても変なことを言う。
「なあ、もしかして奴は“魔法が効かない”んじゃねえのか?」
「どういう事ですか?」
「つまりよ、銃弾、砲弾、召喚された魔物、魔法攻撃、全部魔法じゃねえか。魔法関連は効かねえってことじゃねえのか。そういう固有能力なんじゃね?」
「えっと、もしそうならどうすればいいんですか?」
「簡単なことだろ。魔法以外で攻撃すればいいじゃねえか?」
そう言うと、マノックは俺の突撃艇!をクラ・ガルフの壊れた連絡艇に接近させる。
そして何やらほざくクラ・ガルフは無視して艇を接弦させた。
接弦するとすぐにマノックは連絡艇へと乗り移る。
するとクラ・ガルフは慌てふためく。
「き、貴様! 何故乗り移って来るか! 下がれ、下がるんだ!!」
その声を全く気にも留めず、いや、むしろ楽しそうに甲板の上に立つマノック。
「はい、はい。オークの親玉さん。まずは自己紹介するぜ。俺はレイ・マノック、轟雷のマノックと言った方が有名かな。ロックランドの領主をしてる。それでお前は?」
「き、貴様が轟雷か! 俺はオークの王、そしてオーク軍提督のクラ・ガルフ。“魔法消しキング”と言えば俺の事だ」
「やっぱり親玉だったみてえだな。それに二つ名が魔法消し、っておい。やっぱり魔法が効かねえって事か!」
「うわ、し、しまった……」
「ならば話は簡単だ。この場で倒してやるぜ」
ここへきてマノック対クラ・ガルフ戦いが始まるのだった。
オリンピックでの泣ける話
マノック:「そういえば来年オリンピックだよな」
ミル:「そうですね、レイさんは出ないんですか?」
マノック:「俺は無理だよ。そいうえばレラーニが以前アーチェリーで挑戦したとか言ってたな」
ミル:「へえ、それでどうなったんですか?」
マノック:「選考会っていうのがあってよ。そこでの試合で魔法の弓で的を吹き飛ばしたらしくてな、それ以来アーチェリー関係は出入り禁止だってよ」
ミル:「ある意味、世界記録だしたんですね」
マノック:「ああ、それからラクは予選までいったそうだぞ」
ミル:「何の競技ですか?」
マノック:「砲丸投げだよ」
ミル:「やっぱりそれですよね。予選までいってどうなったんですか?」
マノック:「それがよ。興奮したラクが砲丸と砲弾を間違えて投げちまってよ。会場は大騒ぎになったらしくてな。もちろん永久追放だよ」
ミル:「世界記録じゃなくて、伝説をを残したんですね……」
マノック:「そういえば、シェリーも挑戦したんだってよ。フェンシングでな」
ミル:「そういえば、剣の腕は師範代って言ってましたもんね。それでどうなったんですか?」
マノック:「それがよ『保護者を連れてきなさい』って会場からつまみ出されたって言ってた……」
ミル:「な、泣ける話ですね」
ということで、次回もよろしくお願いします。




