153話 砂海に球体は弾んだ
お待たせしました。
誤字脱字多いかも。
順次修正します。
多分……
「それじゃあそろそろ出発するか」
このマノックの軽い一言でロックランド連合艦隊の全艇が動き出す。
目指すのはオークの首都であるバンカーヒルである。
もちろん近道である白骨回廊を通って最短距離で首都を目指す。
ロックランド連合艦隊は単縦陣隊形で航行を始めたら。
しばらくしてからの事。マノックはオークの支配地域の地図を何気なく眺めて時間を潰していたのだが、ある街の名前を見て固まった。
現在進行しているのは白骨回廊を目指す航路だ。
首都への近道であるこの回廊を占有するために、わざわざガボットの街の艦隊を壊滅させたのだが、地図を見ていて固まっていたマノックが突如、座っていた椅子から勢いよく立ち上がって言った。
「よし、やっぱ遠回りしよう。シルテ。進路を変更する。白骨回廊は避けていくぞ。北西に進路を取れ」
シルテにとったらマノックは単なる上官ではない。通常だったら会話さえできないほどの雲の上の存在だ。
らしくはないのだろうがマノックは『王』とも呼べる存在。
舵を取るシルテも突然の事に驚きつつも命令に従うしかない。
「へ? は、はい。了解しました。それでは北西に進路をとります」
先頭を航行する旗艦『俺の突撃艇!』が突如予告なく進路を変更したのだ。当然のことながら後続の陸戦艇群は大慌てとなる。
最後尾に近い所を航行していたバトルシップでくつろいでいたラクも、部下の報告に慌て始める。とりあえず後に続けと言う命令を他の艇に伝えて、マノックに発光信号で連絡を取らせる。
しばらくしてラクの元に返信の連絡を伝えに下士官が来る。
「シュナンゴ様、マノック様から返信が来ました」
「何と言ってきたんだ?」
「はい、西にあるベニントンの街を占領するそうです。直ぐに偵察を出せと言ってます」
「もしかして、ベニントンが拳銃とワインで有名だからか……」
それを聞いたゴブリン下士官が物凄い表情でラクに尋ねる。
「ま、まさかそれだけの為に遠回りするんですか? いえ、きっと別に理由が――」
「いや、あいつはそう言う奴だ。ま、しょうがねえだろ。あそこのワインは絶品だからな」
ゴブリン軍は総大将であるラクの言葉で全てが決定する。すなわち、進路変更にゴブリン軍は問題なくなった。
ゴブリン族はそういう種族だ。
しかしシェリーだけは納得がいかないとマノックに猛反対した。
「なんで白骨回廊通らないのよっ! あんた馬鹿じゃないのっ?!」
「あ、いやな。あんな狭い回廊で挟み撃ちでもされでもしたらよ、大変じゃねえか。両面からの攻撃にはさすがにこの数だと耐えきれねえからよ。涙を忍んで遠回りを選択したんだよ」
「うそばっかりっ。どうせ旨い酒の製造場所か何かなんでしょっ。あそこを通らないと2週間は余計にかかるのよ! 2週間よっ? 補給はどうするのっ? それに敵に戦力の補充をさせる時間を与える気なのっ?」
シェリーが結構まともな事を言うので、マノックは返答できずに困ってしまう。
しかしマノックが言う様に挟み撃ちの可能性も高い。
仮に挟み撃ちされなくても幅が1㎞ほどしかない狭い場所での戦闘の場合、大きな回避行動もできないので双方にかなりの被害が出る可能性が高い。
その名の通り白骨の回廊になりかねないのだ。
しかしシェリーが何を言おうと最早遠回りすることは決定事項となっている。その証拠に陸戦艇群はすでに白骨回廊への航路から外れている。
最終的には「もういいわよっ」とシェリーは言って、76㎜砲の射手席に座る。
マノックとシェリーの口論の場合、大抵このパターンで終わることが多い。
ちなみにだが、マノック達が向かっているベニントンという街は、オーク世界では小火器とワインで有名である。たまに盗賊や密輸経路でそれが人族世界にも出回ることがあり、それを知る者は少なくない。
なかでも拳銃に関しては、オーク世界の拳銃の70%以上をシェアにおさめるほどの規模を持ち、多くの街ではオーク街軍の正式拳銃にもなっているほどである。
人族の間ではその拳銃が入手困難に加えて高性能ということもあって、コレクターズアイテムとして高価取引されている。
つまり、マノックはその拳銃がほしかったのだ。
現在マノックの脳内では、旨いワインを飲みながらベニントン製の拳銃を磨いている画像が浮かんでいる。
マノックが遠くを見ながらニヤニヤする姿を見て、乗組員の誰もが「だめだこりゃ」と、ちいさくつぶやくのだった。
しかしさすがにオーク支配地域、それもかなり奥まで入り込んでいるオーク以外の艇となると、あまりにも目立つ。それも艦隊規模となるといやでも目立つ。
さらにオークの街でドンパチをやらかしているのだ。間違いなく追撃の部隊を派遣してくるはずである。
しかし3日ほど航行しているのだが、マノック達が遭遇したのはオークの貨物艇や貨客艇が遠くを航行する姿であった。
追手が全く来ないのである。
あまりにも不気味であるので、自分達が航行してきた後方へ高速偵察艇をだすほどである。
しかし追撃してくる様子は皆無であった。
マノックは不思議そうな表情でポンプアクション式のショットガンを構える。
「なんで追手がこないんだよな――はいっ」
マノックの掛け声に合わせて砂海上に皿が飛ぶ。
その皿を追う様にショットガンの銃口も動く。
そして砂海に銃声が響くと空中を飛ぶ皿が砕ける。
敵地のど真ん中でクレー射撃をして遊ぶシェリーとマノックだ。
戦闘がほとんどない状態で時間だけが過ぎていくので、緊張が抜けてしまったようである。
良く言えば肝が据わっている。悪く言えば呑気なだけというところだろうか。
「どんなもんだ、ロリっ子。次にお前が外したら俺の勝だかんな」
マノックがショットガンを肩に乗せながら自慢げにシェリーに言うと、悔しそうにシェリーが言い返す。
「ふんっ、見てなさいよっ。私の発現した固有能力の凄さを思い知るがいいわっ!」
シェリーが言う固有能力とは、ここ最近で射撃能力が急激に上がって来たからで、それをシェリーは固有能力の発現と考えている。確かにこの異常なまでの上達ぶりは固有能力が発現したと考えてもおかしくはない。
しかしながらまだ詳しく調べてみないとどんな条件が必要とか、デメリットがあるとか、そう単純な能力とは限らないのである。
たとえば1日に1回しか使えないとか、2時間のクールタイムが発生するとか色々である。また魔法と同じで魔力を消費するといった場合もある。
人によって違う、まさに固有能力なのである。
シェリーが水平2連のショットガンを構える。
反動が少なく撃ちやすいと言われるショットガンである。
「はぁいっ!」
シェリーが合図をすると、的となる皿が空中を舞う。
シェリーの構えるショットガンが、その皿の軌道の未来位置に向かって散弾を撒き散らす。
思った通りに撃てたのか、一瞬シェリーがにやりとする。
しかし皿は粉々には砕けず、砂海へと形をとどめたまま落下した。
そして代わりにもう少しでかい何かが砂海へとボトリと落ちた。
マノックが双眼鏡を覗きこみながらシェリーに言った。
「ロリっ子? 何を撃ちやがったんだ?」
「お、おかしいわねっ。皿を狙ったんだけどっ……」
「おい、あれは皿なんかじゃねえぞ。魔物だ!」
マノックが叫んだ途端に、砂海の中に潜んでいた魔物達が次々に飛び出した。
飛び出したのは1mほどの球体のスライムに属する魔物だ。その名もバルーンスライム。
そしてその魔物に跨る身長70cmほどの緑色の亜人。
スナップゴブリンと呼ばれる世界最小の亜人種である。
数百年前にオークに滅ぼされたと言われている種族である。
どうやら砂海に半分埋まった状態で待ち伏せしていたようだ。
バルーンスライムはまるでボールのように砂海上を跳ね回る。馬に付ける鞍に似た騎乗具を備えていて、スナップゴブリンは振り落とされずに上手く乗りこなしている。
「くそっ、待ち伏せか。ロリっ子、この至近距離だと76㎜砲じゃ奴らの動きを追えねえ。船尾の機関銃を使え」
マノックの言葉にシェリーは急いで船尾へと走る。
俺の突撃艇!の後ろに続くゴブリンの陸戦艇群は、突如砂海から現れた敵に面喰ってしまい、すぐには攻撃態勢に入れないでいた。
マノック達のすぐ後ろを航行していたコルベットなどは、スナップゴブリンの攻撃圏内だったらしく、バインバインと跳ね回る魔物上からのライフル攻撃が時折船体に当たり鈍い音を立てる。
たったそれだけで乗組員のゴブリン達は混乱状態となっていく。
そう、見た目は不気味な魔物であるのだが、攻撃手段は小型のライフル銃。
そして時たまライフルグレネードを放ってくる程度なのだ。
これでどうやって多数の陸戦艇を沈めようというのだろうか。
的がガンボートや突撃艇程度ならば効果もあるだろうが、コルベットともなるとほとんど効果は望めないはずである。
しかしそれでもスナップゴブリンは果敢に攻めてくる。
それを見てマノックはポロリと言葉を漏らす。
「同じゴブリン属だけど全然違うんだな。ちいせぇのに頑張るよな、ロリっ子?」
「な、なんで小さいで私に振るのよっ! 失礼でしょっ!!」
「ちげーよ。小さくても頑張ってるで振ったんだよ」
「もっと酷いわよっ!」
混乱状態になったコルベットに、突如巨大な砲であろう至近弾が炸裂した。
その至近弾で砂が空中を舞い、甲板で混乱状態のゴブリン達に降り注ぐ。
撃ったのはゴブリン王『ラク・シュナンゴ』が座乗するバトルシップだ。
なんとその一撃で混乱に陥っていたコルベットが持ち直す。
徐々に機関銃での迎撃射撃が始まる。
コルベットのゴブリン達は我に返ったというよりも、より強い恐怖に従ったという方が良いかもしれない。
そんな中、スナップゴブリンの動きに変化が生じた。
見張り台のブエラが一早くその変化に気が付きマノックに報告する。
「マノック伯爵、敵の動きがおかしいです!」
その言葉にマノックも「確かに」と小声で頷き、空に向かって攻撃中止の信号弾を撃ちあげる。
さらにマノックは双眼鏡で敵情を確認した後、両手を大きく振って攻撃中止をアピールする。
「撃ち方やめ~~! 攻撃中止!!」
合図の後しばらくするとなんとか味方の攻撃が止んでいく。
シェリーだけそれに気が付かず、1人機関銃を撃ちまくる。
そこへマノックが近寄りシェリーの頭を「ペシッ」と引っ叩く。
「攻撃中止って言ってんだろ!!」
「痛いわねっ、何するのよっ」
叩かれてやっと周りの状況を把握し始めるシェリー。
「って、あらっ。いやに静かじゃないのっ」
「攻撃中止だよ。あれを見ろ」
マノックが指さす方向にシェリーが視線を移すと、そこには30人ほどのスナップゴブリンが、見事なほどの隊列を組んでいる。その隊列の中からゆっくりとこちらに向かって来る者がいた。
その手には白旗が握られている。
恐らく指揮官クラスであろうそのスナップゴブリンは、他の兵士達のものよりも明らかに豪華な装飾のバルーンスライムに跨っている。そして両脇には隊長クラスであろう護衛の兵士が白旗を持って付き従っている。
「どうやら大将がお出ましの様だな。しょうがねえ、俺も準備するか」
マノックはそう言うと、船倉の中からロックランドの指揮官用の制服を取り出し始める。
マノックが着替え終わった頃、ゴブリン王であるラクも連絡艇で俺の突撃艇!の横に停船する。
ラクは連絡艇の甲板に腕を組んで立つ。両脇にはやはり部下を立たせている。
もちろん服装は総大将っぽい制服である。
二つ名の『グレネーダー』としてのいつものラクの戦闘服とは大違いである。
それを見たマノックは思わず吹き出しそうになるのを堪えつつ、自分も服装を気にしながら俺の突撃艇!の船首に立つ。
狭い場所なので両脇に部下は立てず、かろうじて少し後ろにゴブリンであるブエラに立ってもらう。スナップゴブリンはゴブリン語を話すので、ブエラにそれを通訳をさせるためでもある。
スナップゴブリンがマノック達の前で止まる。
そして白旗を持った部下らしき者が、バルーンスライムに跨ったまま1人前に進んでくる。
一瞬迷った挙句、ラクの連絡艇に向かってそのスナップゴブリンは言葉を発する。
その言葉はやはりゴブリン語である。
ブエラはその言葉を人属語に訳してマノックに伝える。
するとそれを聞いたマノックが驚いた表情で声を上げる。
「えええ、まじか!」
人物紹介
ミル
年齢:不明。見た目は15歳くらいに見える。
種族:一応獣人属だが、特異種に分類される。獣人属との違いは獣耳がないこと。
外見:少女。尻尾を隠すと人間と区別がつかない。緑色かかった髪の毛。いつも片掛けバックを持ち歩く。腰のホルスターにはマノックに買って貰った拳銃が入っている。
趣味:レイ・マノック
性格:ちょいおバカ。やや天然のところあり。
出生:不明
幼い頃の記憶はほとんどなく、物心ついた頃にはゴサークという貴族の家で住み込みで働いていたようである。
しかし扱いはかなり酷かったようで賃金の支払いはされず、食事と寝床だけ与えられる生活だったようである。
ある時その生活に耐えられず、小型偵察艇を盗んで逃げだした。しかし直ぐに武装した陸戦艇の追手に見つかってしまう。そこで隠していた魔物召喚で呼び出した魔物を使って逆に追手を壊滅させてしまったという。
しかしそこで燃料も切れてしまい、やむなく召喚した魔物にのって砂海をさまよっていた時にエリス・マッカーデンの艇と遭遇した。
そしてエリスとの生活を経て、現在のロックランドでの生活に至る。
ということで次回もよろしくお願いします。




