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15話 勝利の女神は誰を見た




「さあてと、そろそろ行くか。さすがに平民の俺達が貴族よりも後に行ったらまずいだろうよ、さっさと準備しろ!」


 マノックは両手でパチパチと手を鳴らしてせかしながら、いまだカードゲームを楽しんでいる乗組員達をせかす。


 マノックはいつになく小奇麗なきちんとした服を着こんでいる。


 その隣りにちょこんと立つミルもダボダボの船員服ではなくきちんとした服を着ている。

 それは胸元にリボンが付いた青色のワンピースだった。

 ミルは初め、赤やピンクがいいと言ったのだが、『女王様』と被るからよせとマノックが言ったら即、違うのを選んだのだった。


 実はエリスと分かれた後、まともな服を街の商店で探したのだが、サイスが合う礼服などなかなか売ってる店は無く、やむを得ず他の乗組員は全員平民が着る服の中でもできるだけ上等そうなものを買ったのだった。


 当然マノックの着る服も平民が着るものだが、他の船員よりはちょっと高い服、言ってみれば豪商が着るような服だ。


「よおおし! 皆、覚悟は出来たか、これより敵の本陣へ乗り込む。目標は『すべて残さず平らげて、あわよくば持ち帰ろ』だ! いいか、忘れるなよ!」


「「「「「おおおおおっしゃぁぁああ!」」」」」


「今の掛け声よく合わせられたな! ミル、天才!」


「ふっ、私もやるときはやるのよ」


「ふふふ、それじゃあ突撃だ!」


「「「「「「突撃~~」」」」」


 ステーン!


「うぐ、痛い……うっうっ」


 子供の様にド派手に転んでスカートがまくれ上がってしまい、涙ぐむミルだった……。




 マノック達が領主の屋敷にちょうど到着した時、後ろからサンドランナー4頭で引く豪華な客車が到着した。

 門の前で止まると客車の窓から豪勢な赤いドレスを着たエリスが顔をのぞかせる。


「あらぁレイ、いいタイミングじゃないのぉ、それじゃあ、またあとでねぇ」


 それだけ言うと、獣車は走り出して門をくぐって庭の中を走って行ってしまいそうになる。


 マノック達は初めから一緒じゃないとボロが出てしまいそうで、慌ててその獣車に追随するのだが、豪華な獣車の後を走って追う姿は、誰が見ても奴隷か下男くらいにしか見えなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ、そ、そんなに飛ばすこたぁないだろ」


 獣車がやっと止まった。


 マノックは両手を両の足の膝の上に置いて、肩を激しく上下に動かして呼吸を整えている最中だ。


 かなり遅れてから、必死の形相で走ってミルが到着。


「ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、な、なんで、お~い~て~く~の~よ~!」


「はぁ、はぁ、悪かったよ、でも、皆を見て、見ろよ」


 他の乗組員もすでにボロボロだった。


 そこで獣車の扉が従者によって開かれると、中から赤いドレス姿のエリスのお出ましである。


 そこへ待ってましたとばかりに、エリスの前まで来る紳士がいた。


「ようこそ我が屋敷へ、エリス・マッカーデン様、そしてお久しぶりでございます」


 どうやらこの紳士がドロップポイントの領主の様であった。


 よくある貴族が着そうな服装ではあるが、装飾品が見たこともない物ばかりであり、マノック達にとっては一生円もない物であろうことは想像できた。


「そうねぇ、2年ぶりかしらぁ、元気そうねぇカール・フォン・ブラウン。たまたま近くまで来たんでぇ、寄ってみたんだけどねぇ、まさか知り合いがいるとは思わなくてねぇ。晩餐会まで呼んでもらってぇ、悪いわねぇ」


「とんでもございません、エリス様、お顔を拝見できて私は幸せでございます。それでは早速中の方へどうぞお入りください、そういえば勇者達がまだ来ていませんけど」


「あらぁ、そちらの方々がそうよぉ、知り合いって言うのもそちらの方々よぉ」


 エリスは手招きするようにマノック達を紹介するのだが、汗だくで服装も乱れ切ったマノック達は、取りつくろう気力もなく泥沼な展開となってしまっていた。


「はぁはぁ、俺、いや拙者がレイ・マノックと申す? いや、なんか違うか」


「なんだかお疲れの様ですな、まだ晩餐会まで時間がありますので、別室で落ち着いてきたらいかがでしょうか」


「はぁはぁ、ありがたや、かたじけない? いや、そうさせてください、助かります」


 こうしてとりあえずマノックと乗組員4名とミルは、別室に通されるのだった。


 別室では、執事やメイドがテキパキとそれぞれのサイズを測り、できるだけサイズの近い礼服を持ってきて、乗組員全員に着替えさせてしまった。


 当然マノックも着替えさせられるのだが、ちょい身分の高い系の服装を着させられた。艇長であるということだからだろうか。

  

「俺はこんなの着るの初めてだぞ、なん堅っ苦しいなあ、酒の味が分からなくなりそうだよ」


 首や肩を回しながら文句を言うのはパットだ。


 その後、マノック達全員は簡単なマナーなどをトレーニングされたのち晩餐会へと赴くのだった。


 晩餐会といっても、このような人口も少なく狭い街で急な催しとあって、参加者はマノック達を入れても20数人だけの、こじんまりとしたものだったのだ。

 それでもマノック達にとっては魔の時間だったようで、終始エリスのすぐ後ろをこそこそと挨拶に回るだけだった。

 食事は立食だったのがまだ救いで、テーブルマナーは思ったほど必要ないようで助かっていた。

 

 しかし晩餐会でのエリスの立ち回りがすごかったのだが、まるで彼女が主役であるかのようで、どの招待客もすべて真っ先にエリスに挨拶していく。

 マノック達は初めの紹介で大々的に呼ばれただけで、あとはいてもいなくても同じだったと思ってしまう。とにかく最後までマノック達は借りて来た猫状態だったのだ。


「ふああ~、想像以上に疲れるんだなぁ。全然食い物の味が分からなかったぜ、まいったよ。だけどこれでエリスが言ったように、ドロップポイントとの『コネ』ができたみたいだし、色々と売り買いで役立つみてーだしな、苦労した甲斐がなけりゃやってらんないねぇ」


 宿屋までの帰り道、トボトボと歩きながら乗組員達は疲れ切った様子で会話しているのだが、ミルだけが何やら手に持った物に夢中になっている。


「ミル、なんだそれ、どこで見つけた?」


「うん、さっきの領主の御屋敷の変わった部屋の中にあったの。でもどうやって使うのか分からない」


「え、ミル、お前勝手に持ってきちまいやがったのか、あちゃ~~」


「え~だって皆もだよ~」


 ミルは砲手のマックスのポケットを指さす。するとマックスは申し訳なさそうにそっとポケットから骨付き肉と銀のフォークを取り出す。


 そしてマックスは機関手のキースのポケットを指さす。するとキースも申し訳なさそうにポケットから銀の皿とワインのボトルを取り出して見せる。


 そしてキースが今度は両手でそれぞれ操舵手のパットと航砂海士のレフを指さす。するとパットとレフはお互いを見ながら半笑いでポケットからワインやらウイスキーのボトルを取り出す。


 そして最後に全員がマノックを指さして、鬼の視線を送る。


 するとマノックは全員の顔を1人づつ見てから、勝ち誇ったようにポケットから高級ワイン、懐からウイスキーと高級シャンパンを取り出し、最後にニヤリとしたかと思うと後ろの腰に差していた小剣を取り出す。


 その小剣には魔石が填められており、魔術文字も書かれている、つまり魔法の剣であった。


 それを出した途端、皆は驚きとそれをうらやむ表情を見せる。


 それを見たマノックはさらに鼻高々に「どうた」と言わんばかりの顔をするのだが、それも長続きはしなかった。


「あ、これこうやって動かすんだ!」


 ミルがそう叫ぶと、ミルの持っていた器具に光点が出ていて、それはマノックが持っている小剣を指し示していた。


 つまりその魔道具・・・はマジックアイテム探査機だったのだ。


 それを見た全員が目を飛び出るんじゃないかという位の驚きの表情に包まれ、ただ黙ってその魔道具をうらやましそうに見つめるのであった。


 ここで敢えて言おう! 勝利者ミル! と。


 その後、宿屋に着くまで会話が一切なかったのはどうしてだろうか。


 その頃、領主の御屋敷内では『マジックアイテム探査機』捜索隊が結成されたとかされなかったとか。








読んで頂き有り難うございました。


ちょっといつもの雰囲気とは違った流れで書いてみました。


週に2~3回投稿を目指していますので今後とも宜しくお願い致します。



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― 新着の感想 ―
[良い点] マノックたちは良い小悪党ですね!
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