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148話 砂海に輸送艇団は沈んだ






 マノック達の艦隊スコードロンは、オーク艇の撃沈に大盛り上がりのままさらにオーク支配地域の奥深くへと侵入していく。

 なんだかんだ言っても、英雄扱いされるマノック自身も悪い気はしない。その証拠に、にやけ顔のまま砂海の風を浴びている。


 それを見ていたシェリーは「キモッ」と思うのだが、当然のことながら言葉にはしない。


 マノックはというと、にやけ顔のまま意気揚々と航行速度を上げていくのだが、何故かその速度にゴブリン艇がついて来ない。

 どういう訳だと疑問に思った頃に、ちょうどゴブリン艇から連絡が入る。


「マノック伯爵、ゴブリン艇からの連絡です。“輸送艇の合流が遅れているので航行速度を抑えてほしい”とのことです」


 マノックは渋い表情で答える。


「ああ~、くそっ、そういうことか。でも今は臨戦態勢だ。ここで速度を落とすことはできねえからなあ。輸送艇とはあとから合流しよう」


 しかしそれが後にマノック達に幸運をもたらす事になる。




 現在マノック達が目指している地点は、オークの首都であるバンカーヒルである。


 幸いにもゴブリン支配地域からでもそれほど遠い場所ではない。


 しかしどうしても一つは避けられない強力な都市がある。


 カボットという中規模の街である。


 そのガボットの街はちょうど白骨回廊の入り口付近にある。

 白骨回廊とはクロアタン山脈の切れ目にある幅が1㎞ほどの回廊である。この回廊を通らないとオークの首都までの道のりが極端に遠くなる。

 仮にクロアタン山脈を避けて通るとなると2週間以上余計にかかる上に、数々のオーク拠点付近を通過することにもなる。

 だからどうしてもこの白骨回廊を通って行きたいのだ。


 しかしその回廊入り口付近にガボットの街はある為、発見されずに通り抜けることは困難であった。


 つまりガボットの街軍との接敵の可能性は非常に高い。


 ゴブリン軍にガボットの兵力を聞くとその数20隻ほどで、常時動かせるのはその半分くらいではなかろうかという。

 主力はクルーザー級が半分を占めるとのことだ。


 戦力を見るとマノック側が不利な状況である。


 こちらが有利なところと言えば、マザーシップがあるということくらいだろうか。戦闘艇ではマノック側はデストロイヤー級が主力。オーク側はクルーザー級が主力。こちらが有利に戦闘を進めるにはやはり奇襲するのが得策なのだろうが、これだけの隻数がオーク支配地域を航行してればいずれは発見される。

 すでに民間であはるがオークの輸送艇に出くわしているくらいだ。

 さらにオーク支配地域奥深くまで航行すれば必ず発見される。そして確実にその報告は各都市に報告されるだろう。その辺はゴブリン支配地域とは大きく違うところである。


 となると奇襲作戦は難しい。


 でもマノックはあっけらかんと言う。


「まあ、なんとかなるんじゃねえの? だめか?」


 しかしそのマノックの言葉に意義を唱えられる者がいない。

 いや、シェリーがいるのだが、彼女に同意してマノックに反対意見を言える者はいないのだ。

 轟雷伯爵に反対できる者などここにはいないのと同じであった。


 その唯一のシェリーが反対意見を口にする。


「またお気軽なご都合主義者が言う意見よねっ。誰がどう考えても無理じゃないのよっ。たまに凄い作戦で驚かせられるんだけどねっ、なんでこういう時に限ってそれなのよっ」


「それじゃあロリっ子、なんか良い作戦でもあるか?」


 マノックの言葉にシェリーは返す言葉に詰まる。


「うぬぬぬっ、あれば言ってるわよっ」


「それじゃあこのまま突っ込むしかねえだろ?」


「ぐぬぬぬぬっ、なんでそうなるのかわからないんですけどっ」


「そういえばだな、さっき撃沈した輸送艇だけどよ。魔鳩を飛ばしたと思うか?」


 要はマノック達の侵入を知らせる連絡用の魔鳩を飛ばしていれば、直ぐに討伐用の戦闘艇が出てくるはずだからだ。


「当り前じゃないの。いきなりゴブリン艇から攻撃を受けたんだからっ」


「そうだよな。そうなると奴らの連絡を受けて戦闘態勢を整えるまでにどれくらいかかると思う?」


「そうねえっ、1日もあれば巡視艇くらい出航させてくるんじゃないのっ?」


 それを聞いたマノックがシルテ伍長に声を掛ける。


「おい、この速度でいくとガボットまでどれくらいで到着できる?」


「そうですね、明後日の昼頃には到着できますかね」


「そうなると敵の偵察艇とちょうどかち合っちまうな。よし、迂回するぞ」


「迂回するんですか? そうするとガボットの到着は1日ほど余計にかかりますよ」


「このまま行っても偵察艇に発見されて総攻撃を喰らっちまうだろ。それだったら迂回した方がまだ望みはあるだろ。直ちに迂回路を設定しろ」


 マノックの号令にシルテ伍長が地図とにらめっこを始める。そして、しばらくしてからなんとか新しい航路を設定して航路を変えていく。


 しかしマノック達の艦隊スコードロンを追う輸送艇団はそんなことは知らされていない。一応マノックは航路変更命令書を持たせた連絡艇を発進させたのだが、その連絡艇は輸送艇に合流することが出来なかった。というのも数隻のオークの狩猟艇に出くわしてしまったからだ。


 連絡艇の装備など貧弱そのもの。


 あっという間に撃沈されてしまい、乗組員全員が砂海へと埋もれてしまう。

 そうなると連絡が届かない輸送艇団は、何も知らずにそのままガボットの街の正面付近へと航行していく。


 


 その頃、ガボットの街ではマノックが撃沈した狩猟艇からの連絡を受けて、多数の陸戦艇が緊急発進していた。

 ちょうど最近ゴブリンが人族に従属したという情報が入ったばかりで、オークの支配地域では不穏な空気が流れていたところだ。

 そんな矢先にゴブリンの識別旗を掲げた多数の陸戦艇が、オーク支配地域へ侵入してきたと連絡が入ったのだ。


 戦闘種族であるオーク達が我慢できる訳も無く、その時点で発進できる陸戦艇のほぼすべてが出航していった。


 それは軍以外の狩猟艇も多数含まれており、マノック達が予想していた隻数よりも遙かに多い。

 ただしほとんどが軍艇ではなく狩猟艇であって砂人である。


 そしてそのオークの意気盛んな陸戦艇群とかち合ったのは、運悪くマノック達に合流しようとしていいた輸送艇団であった。

 内訳は中型輸送艇2隻に小型輸送艇2隻、そして護衛のコルベット級3隻の合計7隻である。


 発見された輸送艇団は直ちに逃走するが、如何せん荷物満載で速度が出ない。

 慌てて荷物を投棄とうきするのだがその時はもう遅く、次々に砲弾が輸送艇に降り注ぐ。


 初めはコルベット級も果敢かかんにも応戦していたのだが、コルベットが1隻撃沈された途端だった。

 残った2隻のコルベット級は護衛を諦めて、輸送艇を置き去りのまま逃走を始めた。


 ここでもゴブリンの悪い特性が出てしまったのだ。

 押している内は強いのだが、押され始めると滅法弱い。

 弱い相手にはやたら強いが、強い相手には滅法弱いのである。


 そうなると護衛のいない輸送艇など恰好の的である。


 あっとという間にオークの砂人達の陸戦艇に取り囲まれてしまい、次々に移動不能にされて補給物質の略奪に合う。


 乗組員のゴブリン達は次々に砂海へと脱出するのだが、オーク達はそれをも見逃さない。

 次々と銃砲撃の的となり、砂海の魔物の餌となっていった。


 そこには食い残された骨と、略奪されつくした輸送艇の残骸が残るだけとなる。


 かくしてマノック達の知らないうちに輸送艇団は、護衛艇以外はすべて撃滅されてしまった。


 それを知らないマノックはひたすら迂回路を航行する。


 マノック達の輸送艇団を撃滅させたガボットの戦闘団は、獲物満載で街へと寄港する。

 輸送艇4隻分の大量の戦利品である。


 そうなると街では大騒ぎとなり、お祭りモード突入であった。


 そのお祭りの最中、マノック達の艦隊スコードロンが接近したのだ。


 マノックが双眼鏡を覗き込みながらつぶやく。


「なんか様子が変じゃねえか? 花火とか打ち上げてねえか」

 

 同じくシェリーも双眼鏡を覗きながら同意する。


「確かによねっ。まるでお祭り騒ぎじゃないのっ?」


「臨戦状態の敵の後ろから喰いついてやろうかと思ったのによお。えっと――3隻だけか?」


 マノックが確認したのはコルベットクラスの巡視艇が3隻だけだ。


 ゴブリンの護衛艇からどうするのかと連絡が入る。


 それに対してマノックは迷わず突撃の合図を出す。


「突撃!」


 合図とともに俺の突撃艇!が真っ先に突進する。


 しかし予想以上に敵が気が付くのが早く、オークのコルベット級3隻は直ぐに陣形を取り始める。


 しかしその陣形が整う前に俺の突撃艇!が突っ込んで行く。


 オーク艇は早くも突撃してくるマノックの艇に攻撃を始める。


 しかしマノックの後ろには1直線にゴブリン艇が並び、一斉に援護砲撃を始める。


 その時マザーシップだけはその列には加わわっておらず、街の裏側へと場所を移していた。


 マザーシップの艇長が頃合いを見て、はるか彼方に見えるホガットの街へと魔物を排出する。


「ゴブリンライダー全機発進。続いて鎧トカゲも発進させろ!」


 マザーシップからはイエロースパイダーに乗り込んだゴブリン達が、次々に砂海へと降り立っていく。

 黄色の体の大きな蜘蛛の魔物。

 その背中にはゴブリンが3人ほど乗れる戦闘室と呼ばれる箱が設置されている。


 その戦闘室に魔物使いと砲手と戦闘長が乗る。

 戦闘室には機関銃か小口径の短砲などが装備されている。


 鎧トカゲも同様に戦闘室が背中に設けられている。ただし鎧トカゲの大きさは巨大である為、イエロースパイダーよりも大きな戦闘室が設置できる。その為乗組員も4~5人と多く、武装も機関銃以外にも大型武器も搭載できる。

 ただし動きは鈍く敵弾の恰好の的となるという欠点を持ち合わせる。

 しかし鎧トカゲの皮膚は硬い。小口径くらいの砲撃ならば当たりどころにもよるが耐えられる。

 

 そんな魔物のイエロースパイダーが16匹と鎧トカゲ2匹が発進した。

 もちろん重武装での出撃だ。


 ガボットの街を取り囲む城壁の監視塔の一つが、鎧トカゲの接近を発見して叫ぶ。


「魔物発見! 2匹いるぞ……トカゲ系魔物だ。すぐに本部に連絡をいれろ!」


 そこへすでに城壁近くまで隠密接近していたイエロースパイダーからの短砲射撃が始まった。

 

 急にどこからか分からないところから攻撃をされて驚くオーク監視兵。


「なんだ、今の砲撃は! どこから撃って――ぐわああ!」


 その内の1発が監視塔に直撃した。


 こうしてガボット攻略戦が始まるのだった。














 という事で次回もよろしくお願いいたします。






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