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133話 轟雷は改装した艇に爪痕残した





「なあ、しかしよお。外見はおろか乗り心地も全く別もんじゃねえかこれ」


 そうぼやくのはマノックである。


 ロックランドが襲撃を受けたと聞いて、ケルベニアから大急ぎで出航したマノック達なのだが、ケルベニアに修理に出していた“俺の陸戦艇Ⅰ”の変わりように驚きを隠せないでいた。

 

「確かにこの外見は酷いわねっ。でも速度といい武装といい前のオンボロ艇の数段上をいくと思うわよっ」


 童顔で150cmにも満たない身長のなのだが、誰よりも偉そうに腕を組んでそう言い放ったのはシェリーだ。

 その姿はまるでこの艇のオーナーにさえ見える。


 その言葉に対してマノックは、船体の半分以上を占めるであろう主砲の砲身に手を掛けて言葉を続ける。


「確かにロリっ子の言う通り、魔道エンジンがパワーアップした分速度が増した。さらにこの長砲身76㎜砲だ。この速度と火力ならデストロイヤーとも渡り合えるかもな」


 しかしながら船体の大きさの割に大きな砲を積んでしまっているため、バランスが悪く小回りが利かない。さらにこの狭い船体にこの76㎜砲の他に機関銃1丁とカタパルトランチャーが1基搭載されていた。ちょっと詰め込み過ぎにも見える。

 

「お、恐ろしい事言わないでよねっ。デストロイヤー相手なんて無理に決まってるじゃないのっ」


「ははは、例えばの話だよ。わざわざ自分からは行かねえよ……たぶん、な」


 その言葉に呆れた表情を見せるシェリーだったが、すぐにため息をついた後一つの質問を投げかける。


「で、大幅改装したんだから艇名も変えたのかしらっ?」


「おお、良い事を聞いてくれたなあ。ちゃんと登録名を変えて来たぞ。なんだと思う?」


 シェリーは少し考えた挙句に恐る恐るマノックの質問に答える。


「だいたいは想像出来るんだけどねっ。なんか聞くんじゃなかったと後悔しそうになってきたわっ。なんか……怖い物見たさみたいな気持ちよっ」


「へへへ、驚くなよ。名称はなあ――」


 マノックはそう言うと甲板に置いてあった1枚の包みを持ち上げ、その包んである布を取り払う。するとその布の下からは1枚の艇名を書き込こんだ板が出てきた。


「――これが艇名だ!」


 マノックが自慢げに掲げたその板には、黄色い字で“俺の突撃艇!”と書かれていた。


 その名称を見たシェリーが直ぐに片手で自分の顔を覆いやると、下を向いてしまい震えだす。


「やっぱり聞くんじゃなかったわねっ。少しでも期待した私がバカだったわっ」


「ちゃんと今後の事も考えてだな、『Ⅰ』を入れたんだよ。関心しただろ。ふはははは」


「マノック伯爵っ、あなた救いようがないアホねっ。よく艇名を見てみなさいよっ」


 マノックはシェリーの指摘に何のことかと艇名が書かれた板を覗き込む。


 すると徐々に顔色が青ざめていく。


「し、しまった! 『Ⅰ』じゃなくて『!』ビックリマークになってるじゃねえか!」


「ケルベニアへはもう引き返す余裕はないわよっ。諦めなさいっ」


 そのシェリーの一言に、マノックはがっくりと両手を甲板についてしばらく黙り込む。


 そんなマノックに残念な視線を送り続けるシェリーだった。





 

 “俺の突撃艇Ⅰ”いや『俺の突撃艇!』が走る最中、待望の魔物が出現する。

 というのは、マノックがずっと魔物相手に主砲の76㎜砲を撃ちたがっていたからだ。寄り道している余裕はないので、進行方向に自ら魔物が出現するのを待っていたのだ。


「徹甲弾装填しろ! 目標は前方の岩トカゲっ。ロリっ子、寄り道する余裕はねえから撃つタイミングは1回だけだ。外すんじゃねえぞ」


 マノックの激に砲手席に乗り込んだシェリーが渋い表情をしながら小さくつぶやく。


「そんな事言われてもっ……」


 そこへゴブリンのブエラ1等陸戦兵から装填完了そうてんかんりょうの合図。するとそれを聞いたマノックが叫ぶ。


「距離よし! ロリっ子、自分のタイミングで撃っていいぞ!」


 シェリーは自分の心臓の鼓動の大きさに驚きながらも、こめかみを流れる汗を感じるほどに落ち着いていた。


「当たりなさいっ!」


 叫び声と共に引き金を引いた。


 シェリーは想像以上の射撃反動を体に感じながらも、急いで着けていたゴーグルを外して砲身の防循ぼうじゅんから身を乗り出す。着弾を確認するためだ。


「どうっ? 当たったのっ?」


 見張り台の上から双眼鏡を覗いているマノックがぼそりとつぶやく。


「本当にこの距離で当てやがったのかよ……」


「聞こえないわよっ! もっと大きい声で言いなさいよっ、なんて言ったのっ!」


 マノックは覗いていた双眼鏡を外すとシェリーに視線を移した。

 そして親指を立てて命中したことを示す。


「えっ、本当にっ? 当たったのっ?」


 横で装填をしていたブエラがシェリーに告げる。


「シェリー殿、驚きました。この距離で当てられるなんて熟練者以上の腕ですよ」


 その言葉にシェリーはもっと褒めろと言わんばかりに、両腕を腰に当ててニコニコうなずきながらご満悦だ。


 しばらく進むと頭部に76㎜徹甲弾で潰された20mはある岩トカゲの死骸が、“俺の突撃艇!”の横を通り過ぎていく。


「まさかあの距離で頭部に命中させるとはな。ま、偶然だろうな。それともまさか……」


 と通り過ぎ際にマノックがつぶやいたのだが、大喜びするシェリーの声にそれはかき消されるのだった。





 そしてやっとのことでロックランドへと近づいたのだが、ロックランドからは多数の煙が上がっているのが見て取れた。


 しかし辺りには敵影は全く見えない。

 見えるのは敵味方の陸戦艇の残骸と多数の魔物の死骸だ。


 警戒態勢のまま徐々にロックランドへと接近して行く。


 すると1隻の巡視艇を発見する。


「味方の巡視艇だ。シルテ伍長接近しろ」


 マノックが発行信号で巡視艇とやり取りして2艇は接舷する。


 巡視艇の乗組員達は、ずっと姿を消していたマノック達に驚きの表情を隠せない。

 巡視艇の艇長らしき中年の人間の男がマノックに対応する。


「本当にマノック伯爵殿でしょうか? これは驚きです。よくご無事で!」


「ああ、すまなかったな。それよりこの有様の説明を聞きたい。何があったんだ?」


「はい、とりあえずロックランドに上陸しましょう。またいつ敵が攻めて来るとは限りません」


 巡視艇の艇長は説明の為に下士官を1人マノックの艇へと乗り込ませると、敵や味方の陸戦艇の残骸ざんがいの間をってロックランドへと艇を進ませた。


 その下士官の話によるとゴブリンとオークの陸戦艇多数と魔物の軍勢が、突如ロックランドに攻めて来たそうだ。


 そこまでは実は時々ある話なのだが、その規模の大きさがかつてないほどだったという。


 コルベット以上の陸戦艇でも30隻以上。

 補助の陸戦艇や輸送艇も含めると実に50隻超す大艦隊だったという。


 ゴブリンやオークがそんな大艦隊など用意できるとは考えていないので、ロックランドの防備もいつもと同様レベルでしかなかった。

 そこへそんな大艦隊が攻めて来たのだからたまったもんではない。


 幸運だったのは敵艦隊の発見が早かった事だという。


 発見が早かったので近隣の街の援助も受けて、総力を挙げて迎え撃つ事が出来たのだが、それでも数に押されてロックランドは大打撃を喰らってしまった。


 長時間の砲撃で街はおろか、防御用の砲台のほとんどは破壊されてしまい、陸戦艇の数も半減してしまった。


 ロックランドの住人たちは一番頑丈だと思われる魔物ダンジョン、つまりランドト―タスに逃げ込んでかなりの人数が助かったらしいが、それでも死傷者数はかつてないほどだった。


 マノック達が港湾内へと入って行くと、かつて最新式の施設や真新しい建物がそびえ立っていた街の面影はなく、その残骸と瓦礫がれきに埋もれた廃墟はいきょが目に飛び込んできた。そのあちこちで上がる煙と炎は、今だ生々しい戦闘の激しさを感じさせた。


 その光景を目にしたブエラ1等陸戦兵が「ひっでぇ」と思わず口にする。そしてシルテ伍長が「家族は……」と妻と子供への心配の言葉を漏らす。


 それを聞いたマノックの頭にはある光景が真っ先に浮かぶ。


 それはミルとレラーニが泣いたり笑ったりしている姿であった。


 マノックにしたら、なぜ真っ先にそんな思い出が頭に浮かんできたのか不思議でならなかった。


 そして今まで感じたことのない感情が胸に込み上げてくるのをこらえようと、胸元を右手で強く握りしめるのだった。


「くっそお。どうしちまったんだ俺は」


 そんな言葉を漏らすマノックだった。













司会者:「この度はケルベニアを地走りから救っていただいてありがとうございます。さすが轟雷伯爵ですね。おかげで街の若い女性の間では轟雷伯爵人気が物凄い事になってますよ」


マノック:「へえ、そうなのか。そいつはすげえな。わはははは」


司会者:「それで今度は陸戦艇ダンジョンに潜ったそうですね」


マノック:「なんだ、その話かよ。その話は今度にしようぜ」


司会者:「いやいや、その時のご活躍も凄かったって聞いてますよ」


マノック:「え? そうなのか? 俺が活躍したのか」


司会者:「はい。なんでもダンジョン内で現れたロリ魔物を片っ端から引っ叩いて吹き飛ばしたそうですね」


マノック:「ロリ魔物……あ、ああそうだな。ロリ魔物な。ビンタ食らわしたったぜ」


司会者:「さらに最後には1人だけ居残って中の魔物を全滅させたんですよね?」


マノック:「は? 全滅、そうだな。結果的にはそうなるんだが……」


司会者:「なんでもダンジョン内で轟雷魔法を放ったそうで?」


マノック:「ええ? えっと確かに轟雷魔法は使ったんだが。なんか俺を変に誘導してねえか?」


司会者:「その魔法で陸戦艇ダンジョンは砂海へ沈没したんですよね?」


マノック:「いやな、あれはたまたまだな――」


司会者:「たまたま轟雷魔法を艇内でぶっ放したんですか? そしたらケルベニア名物のドッペルゲンガーのダンジョンがこれまたたまたま沈没してしまったと?」


マノック:「そ、それはだな……」


司会者:「違いますか? 伯爵の轟雷魔法でケルベニアの名物ダンジョンが沈んだんですよね?」


マノック:「えっと……」


司会者:「伯爵、お答えください!」


マノック:「ミルえもん~~、こいつがいじめるよ~」


ミル:「レイさん、任せて! カール60cm自走臼砲召喚!」


司会者:「えええ! いつもの“轟雷”魔法の“落ち”かと思ったのに!」


マノック:「わりぃな。今日はミル落ちだ。60cm臼砲発射!」


すべてが消し飛んだ……







ということで、今後ともよろしくお願いいたします。








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