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130話 木の魔物の土産はミイラだった




 

「轟雷」


 マノックは悩んだ挙句に発動した魔法がこれだった。

 8匹を一度に倒さなければ逆に襲い掛かられる危険があるので威力もそこそこあり、8匹分のいる範囲もカバーできる程度の魔力も必要。しかし威力がありすぎると船体がまた傾きかねない。

 そこのバランスが非常に難しい。

 マノックは慎重に轟雷魔法を発動させたはずだったのだが。


「くっそ、1匹やりそこなったか!」


 マノックは慌てて拳銃を構えて、生き残ったナイトウルフに照準を合わせる。


「悪いがこれで終わりだ」


 マノックは弱って動きもままならないナイトウルフに向かって、拳銃の引き金を引いた。


 通路に銃声が鳴り響く。


 銃弾はナイトウルフの眉間に命中するはずだったのだが、命中する寸前であたかも画像にノイズが入ったように見えて弾丸は壁に突き刺さって止まった。


「こいつ、弾の軌道を捻じ曲げやがったのか! 面倒くせえ!!」


 マノックは尚も狙いを定めて引き金を引き続ける。


『パン、パン、パン』


 リボルバー拳銃の弾丸を撃ち終わると、直ぐに弾倉シリンダーを左にスイングアウトさせて空の薬莢やっきょうを排出。そして新たに6発の弾丸を込める。


「なんだってんだよ。くそ、全弾狙いをらしやがった」


 しかしながらナイトウルフはというと、先ほどの轟雷魔法での傷が影響しているようで、立ち上がるのも困難なようであった。


 マノックはサーベルを杖代わりにして、腰の曲がったおじいちゃんのようによぼよぼとした足取りで接近して行く。


 それを見たナイトウルフは必死に立ち上がろうとするのだが、そのたびに転んで再び床に伏せる形となっていた。

 どうやら前脚2つが致命的な損傷を受けている様だった。

 そんなナイトウルフに今できる事は、唸り声を上げることだけだった。


「ガルルルルル……」


「すまんな」


 マノックは一言告げてから、至近距離から6発の弾丸を叩き込んだ。


 初弾が外れただけで、残りの5発はナイトウルフの身体に食い込んでいった。


 6発目を撃った頃には完全にナイトウルフの息はなかった。


 マノックはナイトウルフの魔石を回収すると、最後に倒した個体だけが他とは違う色をした魔石であり、その魔石をしばし見つめた後バックにしまい再び歩を進めるのだった。


 地図を確認すると扉が壊れている箇所がいくつもあり、外に出るにはかなりの迂回をしなくてはいけない。


 そしてマノックは広い船倉にたどり着くのだが、船倉内を魔法の光球で照らし出してみて驚く。


 そこには樹木の魔物である“トレント”が根を張っていた。


 それは船倉内一杯に枝葉を伸ばし、根は船壁を突き破って地中の奥深くまで伸びていると思われた。つまり船倉一杯にそれは広がっていたのだ。


 この砂に埋まった陸戦艇の内部でまさか植物系の魔物がいるとは誰も想像もしない。それも陸上で見る通常の樹木よりも、あまりに力強くそして生き生きとしていた。


「すっげぇぜ。こんな地中深くで成長するもんじゃないぜこれは……」


 マノックは思わず言葉をこぼした。


 マノックのその言葉に反応してか、そのトレントの魔物が目覚めてマノックに言葉をかけてきた。


「おお、ヒューマンかと思ったら我が同胞の加護を受けている加護を持つ者ではないか」


 まさかしゃべりかけてくるとは思わず、マノックはしばし言葉に詰まる。

 返答がないようだと理解したトレントはさらに言葉を続ける。


「うむ、ヒューマンよ。お前は加護持ちではなかったのか?」


 その質問にやっと頭が回転しだしたマノックが返答する。


「そ、そうだ。樹木の精霊の加護を受けている。俺はマノックという人間だ」


 マノックは“ドリュアス”という樹木の精霊の加護を受けている、数少ない人間の1人であった。

 エルフで加護持ちは話を聞くこともあるのだが、人間で精霊の加護を持つ者は非常に少なく、マノックは聞いたことさえない。それ故、このことに関しては知人にもあまり知られていない。いや、ミルには少しだけ話してしまっていたとマノックは思い出す。


「そうか、それは良い所にきてくれた」


「ん? どういうことだ」


「本来根を張ってはいけない場所で我は根を張ってしまったのだ。あれはほんの数年前のことだ――」


 そのトレントは自分がここで成長するまでの話をし始めるのだった。


 一番最初は小さな普通の苗木だったそうだ。

 その苗木をこの輸送艇で運搬中にワームに襲われて艇は沈没。たまたまこの場所はピンポイントで魔力溜まりだった。

 それで苗木だった小さな樹木は魔力を吸い取って急激に魔物へと変化していった。


 そのうち徐々に輸送艇は魔力によりダンジョン化していき、魔物が棲み始めていったという。その魔物をも自分の養分のかてとして、次第に強力な魔物へと進化していった。


 その間にも魔物と化した“トレント”は水を求めて地中深くにまで根を広げていき、とうとう地中深くにある小さな地底湖へと到達した。


 そして光を求めて徐々に上へと枝を伸ばしていった。


 しかし枝の先がいくつか船体を突き出して陽の光に到達した頃、このダンジョンと化した輸送艇は崩壊を始めたという。


 それは水と光を求めて船体に穴を開けまくった報いだとトレントは言う。


 輸送艇は砂海によって徐々に砂に埋もれていくため、その船体にかかる砂の圧力も崩壊の助長に力を貸した。


 その頃になるとトレントはたくさんの魔力を吸い取り、さらにはこのダンジョンに迷い込んだ魔物や侵入してきた人属を倒して急速に成長をしていった。


 しかしそれと共にこの輸送艇の崩壊の限界も近づいた。


 ここまで黙って話を聞いていたマノックが唐突に「それで俺にどうしろというんだ?」と質問をした。

 

 するとトレントは質問に返す。


「我はこれ以上こんな閉鎖された場所にはいたくない。ましてやこんな場所で砂海へと埋もれたくはない。それでだ……」



 最後までトレントの言葉を聞いたマノックが一瞬黙り込む。


 そしいて一息ついた後しゃべり出す。


「それでいいのかよ? それでお前は本当にいいのか!?」


「我々は“樹木の為”を優先させるんでな。それゆえに我が出した答えがそれなだ」


「ああ、そういえばお前ら精霊族は“樹木の為に生きて樹木と共に死んでいく、それが定め”だったな。つまりお前が出した答えというのが今言った定めということか」


「うむ、そうだ。頼めるか、加護を持つ者よ」


 マノックはため息をつきながら首を縦に振るのだった。


 そしてマノックはバックパックを下ろすと、バックの奥の方から酒の小瓶を引っ張り出し、さらにはマッチを取り出した。


「最後の最後まで取って置いたアルコール度60%もあるウォッカだぜ。か~、もったいねえがしょうがねえやな」


 マノックは名残惜しそうに、そのウォッカの小瓶をトレントの根元の降り注ぐ。


「んじゃあ、あばよ。トレント」


 マノックはそう言うと、って火の着いたマッチ棒を降り注いだウォッカの上に投げつけた。


 初めは小さなマッチの火だったのだが、高濃度のアルコールに着火すると一気に炎が大きくなって音を立てて燃え始める。


 炎は徐々に大きくなってその巨大な幹を炭と化していく最中、トレントがマノックへと最後の言葉を発した。


「加護を持つ者よ、確かマノックと言ったな。我が今お前に出来ることのこれが精一杯だ」


 そう言うとトレントは燃え盛る炎の中から枝を伸ばし、火のついた枝葉でマノックに“ミイラ化した片手”のようなものを渡した。

 マノックは慌ててそれを受け取ると、その枝葉は炎によって埋もれてしまう。


 そして一言だけ「ありがとう」と言い残して炎で見えなくなった。


 その頃になると船倉は炎に包まれていて、煙と酸欠で息苦しくなっており、急いで隔壁を閉めながらその部屋から出て行くマノック。

 幸いにも古くなった船倉で、トレント以外に燃えそうなものはない。トレントが燃え尽きたら火災も収まるとマノックは判断するのだった。



「あっぶねえ、煙に包まれて死ぬとこだったじゃねえか――しかしこのミイラの手はなんなんだよ」


 色々とミイラの片手を調べていると、その手に何かが握られているのに気が付く。


 強引にその手から『何か』を引っ張り出す。すると握っていたのは1本の鍵のようであった。どうやらこのダンジョンに入って来た冒険者の片手のようで、トレントが返り討ちにしたのだろうか。


 マノックは鍵をひっくり返して見ると、そこには『格納②』と書かれている。


「格納②って……」とマノックは地図を広げてみる。すると今出てきた船倉が第一格納庫と書いてある。

 そして今いる場所からすぐ近くに第2格納庫と書かれている場所があった。


「お、あるじゃねえか第2格納庫が! ん~でも×と書かれているんだよな。ま、とりあえず行ってみるか。なんかお宝が残ってるかもしれねえ」


 その場所へと到着したマノックは落胆する。

 ×と書かれていたのは通行できないという意味だったようだ。


「なんだよ! 砂海に埋もれちまってるじゃねえか。ああくっそ! これじゃあ鍵を持ってても誰もこの先へは――そうか。この先へは誰も行ってねえ可能性が高い。ってことは手付かずのお宝をゲットできる可能性も高いってことだよな」


 そう考えたらマノックの目の色が変わる。


 マノックは半ばやけくそで痛い腰をかばいながら手で砂を掘り返す。


「くっそぉ! 忌々しい砂海の砂共めっ。掘っても砂がまた流れ込んじまうっ。ええい邪魔だ、消し飛べ!」


 自棄やけになったマノックが砂を思いっきり手で払う。その空中を舞う砂を見たマノックが何かを思いついたらしい。


 そしてしゃがみ込んで床に散らばっている砂を手に取る。


「なんだ、これがあるじゃねえか! はっははははは」


 手に握りしめた砂をサラサラと床に落としながらマノックが笑い始める。


 マノックはゆっくりと立ち上がると地図を取り出して再び進路を選び出す。そんな時、静まっていた船体が再び傾き始める。それも物凄い軋み音を上げてだ。


「うわっ、ちょっとやばくなってきやがったか。ここから一番近いルートだとこの通路か。よし、この輸送艇が砂海へと沈んで行くのが先か、俺がここから脱出するのが先か勝負だっ」


 地図をしまうとマノックは凄い勢いで先を進み始めた。


 マノックは走るように階段を降りて行く。どうやらマノックが目指している場所は最下層、つまり船底のようだ。


 こうしてマノックはお宝がある事を信じて、傾きが厳しくなる輸送艇の船底を目指すのだった。



















マノックは空を飛んでいた。



「はははははは、俺は大空の騎士だ!」


 マノックの愛機は真っ黄色な複葉機に稲妻のマークを描いたフォッカーⅦという機体であった。


 そこへ正面から変わった形の複葉機が1機迫って来た。

 機体の後ろ側にプロペラが付いた飛行機で、DH2という戦闘機である。そのコクピットに座っているのは言わずと知れたロリっ子、シェリーであった。


「決闘の続きよっ、私が見事あなたを撃墜してみせるわっ」


「望むところだ! これでも喰らえ」


 マノックは引き金を引くと、機首に装備した2丁の固定機関銃が火を噴く。


「私だってっ」


 ロリっ子も負けじと引き金を引くのだが、弾が数発で止まってしまう。

 排莢不良である。


「どうしたロリっ子? 撃ってこないのか?」


「ちょっとタイムよっ、タイムっ! ジャミングしたのよっ。直し方教えなさいよっ」


「決闘中だぞ? 何言ってやがる! 蜂の巣にしてやる」


「うううううっ、パラシュート脱出するわっ……待って、後ろにプロペラがあるじゃないのっ。脱出したらプロペラの回転に巻き込まれるじゃないのよっ」


「そうだな、俺に撃墜されるかプロペラの餌食か選択しな」


「ぐぬぬぬぬっ、私の答えはこうよっ!」


「プロペラの餌食を選びやがったか。はっはははは」


「とっ、思わせてっ――緊急着陸よっ」


「させるかよ」


 タタタタタタ!


 マノックが放った弾丸がロリっ子の機体を穴だらけにした。


「ひっ、ひ~~~落ちるじゃないのっ!」


 ロリっ子の機体は火を噴きながら低空飛行をし始めた。


「ははははは、あ~気持ちがいい。よし、とどめだ!」


 マノックが引き金を引こうとした時、愛機フォッカーⅦに着弾の振動がいくつも伝わる。


 その一撃でマノックの機体は操縦装置に致命的損害を被り墜落を始めた。


「マノック伯爵っ、どうやら相打ちのようねっ」


「ロリっ子! てめえ対空機関銃をいくつも配置してやがったな、きったねえぞっ」


「なんとでもいいなさいっ。負けなければいいのよっ。お~っほっほほほほっ」


 こうして2機はの戦闘機は墜落したのだった。



 


 つ、続く……





次回もよろしくお願いします!



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