13話 角トカゲは砂海に沈む
「マノック艇長、プランBってなんですか? 逃げるんですか?」
パットが舵を切りながらも一応聞きなおす。
「そうだ、反転しろ、急げ。角トカゲに船尾を向けるんだ。早くしろ!」
「よく分かりませんが了解しました! 反転して速度上げます」
首を傾げながらも、言われた通りにパットは舵を切り、急速反転して速度を上げていく。その頃になってやっと角トカゲは陸戦艇の存在に気が付いたのか、街へ向けていた眼光が陸戦艇へと向く。
「気が付いたみたいだな、追ってくるから気を付けろ。マックス、船尾15㎜機関砲に付いてくれ。ただ、俺が合図するまでは絶対に撃つなよ」
「了解しました! 船尾砲塔に入ります!」
「パット、あまり速度は上げるな、引き離さず、追いつかれずってところで頼む」
「難しいご要望ですな、 よ~そろ~」
「ミル、パットに角トカゲの状況を逐次伝えてやってくれるか」
「はい、マノック艇長ぉ、了解しました!」
「よし、それじゃあ俺は釣りでもするか」
マノックは甲板上に置いてあった木箱の蓋を開けると、中には2つの機雷があった。
「マノック艇長、機雷全部仕掛けたんじゃなかったんですか?」
舵を取りつつもパットが木箱を漁るマノックを見て、疑問を投げかける。
「そうなんだよな、いざとなったら全部仕掛けて使っちまうの勿体ないと思ってな、『轟炎』の2つだけしか仕掛けなかったんだよ。だがな、おかげでいいアイデアがひらめいたんだよ」
「何かおっぱじめようってんですか?」
「まぁ見てろよ!」
そう言うと、マノックは箱の中から『轟雷』の機雷を取り出し、船倉に入って行く。
そして船倉から再び出てきた時には、ワームの肉の塊を機雷に巻き付けたものを抱えていた。
その機雷の信管に当たる部分には、長いワイヤーロープがつけられており、それを使って角トカゲの口の中で轟雷を発動させ、胃袋尾の中に入っている轟炎の機雷を、誘爆させようというのであった。
こうして大物を賭けた『釣り』が始まる。
「これから釣りを始める! 見ての通り機雷を奴に食わせて腹の中の機雷共々誘爆させる作戦だ。奴が追って来ないとこの作戦はうまくいかねえ。奴との距離も遠からず近からず、奴からしたら手が届きそうで届かない距離がベストだ。皆、頼むぞ!」
「「「「了解!っ」」」」
「はい、了解です……またずれた」
ミルだけ声がずれるのは、もはやお約束だ。
言い終わるとマノックは船尾に立ち、ワイヤーに繋がれた機雷入りの餌を砂海に放った。
放った瞬間、角トカゲの目線が即座にその機雷入りの餌をに向く。
どうやら興味を示したようだった。
「よし! 行けそうだ。ゆっくり速度を落とせ」
「了解、速度落とします」
陸戦艇の速度が徐々に落ちてくると、機雷入りの餌が徐々に角トカゲの目の前に転がっていく。マノックが絶妙なワイヤーさばきもあって、ちょうど角トカゲの口が届きそうな位置にきた。
さらにマノックは右腕を大きく左右へと振りながら、ワイヤー操作で角トカゲの気を引こうとしている。
「くそ、目の前に持ってきてるのに、食い付きやしねえ。目で餌を追ってはいるんだがな」
じれったくなったマノックは思わずぼやく。
餌を変えようかとワイヤーを手繰り寄せ始めたその時だった。
突然角トカゲが餌にかぶりついたのだった。
「かかったぞ!」
マノックは急いでワイヤーにつなげられた特殊な箱のスイッチを押す。
するとワイヤーに電流の様なものが流れ、餌の中の機雷の信管に作用する。
角トカゲは餌を飲み込む習性があるため、信管が作用した時には喉のあたりに機雷は来ていた。
その位置で轟雷の魔法が発動したからたまらない。
バチバチッともの凄い音がして、角トカゲの体中に電気が走るように火花が飛び散り、角トカゲはその場で痺れて動けなくなる。
それに一瞬遅れて腹と喉が急激に膨れ上がり、まるでブレスを吐くかのように『ゴ~』っと口から轟炎の炎を吐き出した。胃袋の中の機雷が誘爆したのだ。
しばらく口から炎を吐き出したのち、角トカゲは砂海に腹をピタリとつけてピクピクと痙攣をはじめる。
「やったぞ! 止めを刺すぞ、頭を潰すから近づいてくれるか。警戒はしてろよ。俺は船首の37㎜砲塔に入る」
マノックは走って37㎜砲塔に入ると、嬉しそうな表情のまま37㎜徹甲弾を込める。
陸戦艇は徐々に速度を緩めながら、倒れて痙攣状態の角トカゲの頭に近づく。
「できるだけ近づいてくれ! 零距離射撃じゃねぇとこいつの鱗は抜けねえからな」
「まだこいつ生きてますから気を付けてくださいよ、マノック艇長!」
そんなパットとマノックの会話に声を荒げたミルが入って来た。
「マニアックさん、角トカゲが起き上がろうとしてます!」
「マニアックじゃねぁ! マノック! ああどうでもいい、距離50まで接近してくれ、頼む!」
「了解、でも距離50で即座に反転して、急速離脱しますよ」
「分かった、それでいい、頼む」
マノックは会話をしつつも覗き込んだ照準器から目を放さない。
「マノック艇長、これが限界です。反転して急速離脱します」
「マノックさん、もうだめ、起き上がっちゃう!」
ドンッ!
距離50、この時を待っていたとばかりにマノック発射レバーを引いた。発射の際の激しい反動がマノックのいる砲塔全体に衝撃となって伝わる。
砲口から発射炎と共に37㎜徹甲弾は角トカゲの頭部へと放たれた。そして徹甲弾は角トカゲの体の中で最も薄い箇所、眼に着弾するとそのまま頭蓋骨内へ侵入して、脳を破壊して反対側の側頭部から弾頭の先を少しだけ突き出して止まった。
その瞬間、持ち上げていた頭はガクンと地面に落ちて、二度と動かなくなった。
「角トカゲ、動かなくなりました! 倒しました! えっと、討伐完了です!」
最初に声を上げたのはミルであった。
「「「「おおおおお!!」」」」
船内から大きな歓声が上がる。乗組員達はお互いの肩を叩きあって功をねぎらっている。
「それじゃあ、素材剥ぎ取って肉取って、魔石回収したら街戻っ戦勝会だな!」
「マニアック艇長の奢りですよね?」
「パット! てめえその呼び方今度したらな、次の角トカゲの時の餌にするからな!」
「それは怖い怖い、皆も気を付けろよ。変態なマニアック艇長を怒らせないようにな」
「んぐぐぐ……」
「楽しそうなところすいませんけど、2時方向に角トカゲらしい影が見えます。それと4時方に船影らしいのも見えます。パットさんはやっぱり餌ですか?」
甲板上でじゃれ合ってる乗組員を尻目に、ミルはしっかりと偵察を業務をこなしていた。
「全員戦闘態勢だ! マックス、船首砲塔。レフは右舷カタパルトランチャーに煙幕弾を装填」
「「了解」」
即座にマックスと長老のレフは動き出す。
「ミル、船影と角トカゲはどこへ向かってるか分かるか」
ミルは見張り台の望遠鏡を見ながらその状況を言葉で伝えようとする。
「たぶん……船影はドロップポイントに向かってるんだと思います。位置的に角トカゲに気が付いていてもおかしくないんですが。このままだと街に到着する前に角トカゲとあの船はぶつかっちゃうと思います」
「そうなると、助けなきゃいけねぇか。角トカゲの大きさと船の規模はわかるか」
「えっと、近くに比較するものが見えないとちょっと分からない……」
「ああ、そうか。ミルには測距離道具の使い方を教えてなかったな。待ってろ上に登る」
マノックは梯子をつたって見張り台に登るのだが、登ってみて見張り台が非常に狭いことを思い出す。
比較的大柄な部類に入るマノックが、その狭いところに入ってきたら当然ミルとは密着状態となってしまい気まずいのだが、今更降りろとはいえない。
やむを得ずその状態のまま説明を続けると案の定、ヤジが飛ぶわけだがそれは無視して使用方法を教える。
教えている最中にも望遠鏡内の船影の挙動が変化していった。
角トカゲに徐々に船影に接近していくようである、と思った瞬間に砲煙と閃光を確認した。
「ん、船影から砲煙。砲撃したのか、あの距離で」
角トカゲと船影からは結構な距離があり、その距離での砲撃するということは結構な火力の砲を備えているということだ。
しかも着弾が角トカゲのかなり至近距離とあって、その砲の性能や射手の腕もかなり高いことが伺える。
「意外とあの船はでけぇみてぇだな。この距離だとまだ分からんがコルベット級以上はあるな」
「マノックさん、あの船影ですけどなんか見覚えないですか?」
ミルは体をマノックの方へと向けて話をするのだが、動かれると色々とマノックの体が反応してきそうで、マノックは気をそらすためにも再び望遠鏡を覗く。
「そ、そうだな、あ、あの船影だな。ん? ハニークイーン号か!」
「そうです、ハニークイーン号に似てると思いません?」
「似てるんじゃなくて、確定だろうな。あの距離での砲撃とあの性能ならばな。これなら助けなくても大丈夫だろう」
そのあとすぐに船影は角トカゲを遠距離からの砲撃で仕留めてしまい、その素材を回収し始めていた。
その頃になると、船影がハッキリとしていて『ハニークイーン』号の識別旗も見てとれた。
「ハニークイーンなのは分かったんだがな、依頼は完了しているし、こっちから行く手間が省けたったもんだ。だがな……」
マノックは考え込むのだった。ミルに関しては今回の依頼には含まれておらず、そうした場合、ミルの扱いをどうすればいいのかということだった。
読んで頂き有り難うございました。
週に2~3回投稿を目指しています、今後ともよろしくお願いいたします。