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11話 俺は変態じゃない

 


 砂人達の朝は早い。


 夜明けとともに起きて、出発の準備だった。


 男たちは大部屋に宿泊|(もちろん安いからだ)していたので、1人が起きれば他も叩き起こされる。ミルはさすがに大部屋は無理なので、マノックから離れたがらないのを強引にレフに引き離されて、個室で夜を明かしてもらっていた、はずだった……。


 いつも最初に気持ちよく目が覚めるのはマノックだったのだが、今朝は右肩に違和感を感じて目覚める。はっきりしない意識の中で、自分の右肩に目線を向けると緑色の髪の毛が目に入る。


 そこにはマノックの右肩を枕に、スヤスヤと気持ちよさそうに眠るミルがいた。


 その安心しきった寝顔と伝わってくる温もりに、マノックは寝起きではっきりしない意識の中で、安らぎに似たものを感じていた。


 徐々に意識が戻ってくると今寝ている場所が大部屋であって、男ばかりなことを思い出し、ぱっと目が覚める。


 (この状況をあいつらに見られたら1日何を言われるか分からない、どうする俺!)


 マノックの頭の中で思考が錯綜さくそうし始めるが、この心地よい状況をもっと噛みしめていたいという感情もあり、でも一刻も早く証拠を残さず何もなったような状況で朝を迎えたい、この2つの感情がせめぎ合う。


 そんな中でもマノックの視線は少女から離れない。


(やばいな、下着じゃねぇか。この状況だと完全に俺は変態扱いじゃねえか!)


 ミルは下着同然の姿でマノックに寄り添って寝ているのだ。夢を見ているのか、獣人特有の尻尾が時々ヒョコヒョコとマノックにまとわりつく。


 名残惜しい気持ちを押し殺して、できるだけ気が付かれないように上体を起こし、毛布をミルにかける。この大部屋には2段ベットが10個置いてあり、マノックは幸いにも入り口に一番近いベットの1段目に寝ていたのですぐ外には抜け出せる。


 マノックはベットから抜け出すと空に魔法陣を描き始める。


 簡単な魔法らしくそれはすぐに描き終え、魔法を起動させた。


 「静寂」


 初級魔法に分類される魔法で、風魔法に少しでも適合した人物ならば大抵は起動でき、偵察など使われる音を消す魔法だ。


 魔法が起動するとマノックは急いで装備を整え、ミルを毛布ごと抱きかかえて入り口の扉を開ける。


 そしてまだ薄暗い廊下を音もなく歩いて、無事にミルの寝ているはずだった部屋に到着。

 あどけない寝顔のミルをベットにそっと寝かせると、マノックは何事もなかったように部屋を後にした。


 戻って皆を叩き起こそうと大部屋に来ると、乗組員達は目を覚まし始めたらしく、1人、また1人と起き上がって準備を始めていた。


 他の宿泊者もこの大部屋に泊っているのだが、同じように準備を始めていた。


「おお、皆も起きたか、さっさと行くぞ。俺はミルを起こしに行ってくるから先に下で待っててくれ」


 何食わぬ顔でマノックは大部屋を再び出て行き、ミルを起こしに先ほどの部屋へと行く。


トントン


「ミル、出発するから起きろ。ミル~」


「ふぁああい、あれ?、ここ……ん?」


「下で待ってるからな」


「はぁああい、すぐ行きま~す」


 マノックはミルをドア越しに起こすと階段を下りて1階に到着する。


「おはようございます、マノック艇長。よく眠れましたか? へへへ」


 ニヤニヤと含みのある笑顔でキースが話しかけてきた。


「あ、ああ、よ、よく眠れたよ」


「それはそれは、羨ましいことですねぇ……ふへへ」


 キースに追随するかのようにパットも話に加わってくる。

 他のメンバーもマノックを見ながらずっとニヤニヤしている。


「おい、おまえら、何ニヤついてやがんだよ」


「いや~マノック艇長もまだまだ隅に置けないっすね~」


 今後はマックスまでもが話に入ってくる。


(作戦は成功したはずだぞ、絶対にバレてない。自分を信じろ。このままシラを切りとおせ! がんばれ俺!)


 マノックは内心ハラハラドキドキなのだが、ここは自分を奮い立たせる。


 しかし無情にも長老のレフが、マノックに37㎜徹甲弾を胸に叩きこんだかのような一撃を見舞う。


「マノック艇長、大部屋に少女持ち込みはだめですよ。ましてや『静寂』魔法を使って音を消してまでお楽しみ(・・・・)とはいただけませんよ。そりゃ変態扱いされても文句は言えませんよ」


 この長老レフの言葉にマノックの大作戦が音もなく崩れ落ちたのだった。


「まて、お前達、誤解しているぞ! 俺は何もしていないぞ、俺は変態じゃないんだ。待て、その目はなんだ! 俺は素人には手を出し事ないんだぞ! やめてくれ、俺は変態じゃない、おい、黙ってないでなんとか言えよ」


「「「「……変態」」」」


「ぐぅ……」


「おはようございます、んん、皆さんどうしたんですか? 何かあったんですか?」


 必死に言い訳しているマノックの後ろの階段から、トントンと子気味良いリズムで降りてくるミルが不思議そうな表情でマノック達をみる。その声にマノックは振り向くと少女に助けを求めるように何か言いかける。


 その時だった、街のサイレンが急に鳴り響く。


 ウウウウウ~~~


「なんだ? 緊急サイレンじゃねえか、魔物が出たのか?」


 どの街にも緊急サイレンというのが設置してあり、緊急の場合に鳴らすのだが、緊急の場合なんていうのは魔物が街に近づいてきた時しかほぼない。恐らく魔物が接近していることに間違いないだろう。そうなると、街を上げての総力戦になるのだが、街の住人でなくてもそれには強制参加となる。少なくても何らかで手を貸さないと領主側に捕まることになる。


「急げ、陸戦艇に行くぞ! 船を壊されたらかなわん! どうした皆急ぐぞ!」


 マノックは混乱に乗じてこの変態騒ぎから逃げられると、ワザと声を荒げる。

 

 街は大騒ぎになっており、ただ事ではないことは誰もが想像できた。


 行きかう人々からはワームの大群が攻めてきたとか、ブラックバードの群れが接近しているとか、噂があとこちで暴走していた。


 港に着くとすでに街の守備隊員が防御壁の銃塔に入っており、守備隊の警備艇も出航していて物々しい雰囲気であった。

 

 マノック達も陸戦艇に乗り込み、戦闘態勢に入っていると、若い守備隊員が伝令のため回ってきた。


「伝令出来ました。魔物が接近中です、2時間ほどでこの街に接敵予想ですのでご協力お願いします」


「それで魔物の種類はなんなんだ?」


マノックは当たり前の疑問を投げかける。


「それが……角トカゲなんです」


 伝令は言いにくそうに魔物の種類を言ってきた。


 「角トカゲだと! なんでまたよりによって」


 角トカゲというのは全長が10m、大きいのになると30mにまで成長することもあり、大きさによっては災害級魔物に認定されることもある危険度の高い魔物であった。そんなのがこの街に接近しているとなると、まさに緊急事態であった。


「で、角トカゲの大きさはどれくらいなんだ?」


 マノックは深刻な表情で伝令の守備隊員に魔物の大きさを尋ねる。大きさによっては街に近寄らせないくらいならできるかもしれないからだ。


「はい、偵察艇の情報によりますと15m級と思われます」


「ちっ、ぎりぎりの線だな。俺たち以外に砂人はいるのか?」


「いえ、砂人はあなた達だけです。あとは旅客艇の一般の人達と輸送艇の非戦闘員ばかりです」


「守備隊はどれくらいいるんだ?」


「ざっと30人ですが、ほとんどが臨時の守備隊でして、普段はパン屋だったり宿屋だったりの街の住民なんです。だからあなた方が唯一の戦い慣れている人達なんです。お願いします、街を守ってください!」


「かぁぁああ、ついてねぇなぁったく。魔法を使える者も集めて援護させろ。少しくらい役に立つだろうからな」


「おい、皆、聞いた通りだ。腕の見せ所だ!」


「「「「了解!」」」」


「私もがんばる!」


「ミル、お前の力を借りるかもしれねぇぞ。隠しておきたかったがこの現状だ、すまん」


「大丈夫ですよ、私も仲間ですからね」


「すまない、ミル。もしかしたらミルが特異種とバレちまうかもしれないぞ、それでもいいのか」


「はい、もう慣れたから大丈夫。それにそうなっても私を守ってくれますよね?」


「あたりまえだ」


「そういうことなら私平気ですよ」


 マノックはミルに頭の下がる思いだった。


 大の大人がこんな少女に戦う手助けをしてもらわないといけないという現実に、そして力不足の自分に、情けない気持ちでいっぱいになる。


 しかし今はそんなことで悩んでもしょうがないと、首を振って気持ちを切り替えて戦闘準備に取り掛かるのだった。


 こうしてマノック達はドロップポイントの防衛線に巻き込まれる事となった。






読んで頂きましてありがとうございました。


週に2~3回投稿を目指していますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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