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108話 大蛇の秘密は再び守られた




「グルルルルル」


 ワーウルフがレラーニに向かって唸り声を上げる。レラーニが魔法の剣で与えた背中の傷が効いているのかもしれない。

 かなり警戒している様子だ。


 レラーニがワーウルフを威嚇しながらマノックに声を掛ける。


「レイ、大丈夫か!」


「ああ、何とか無事だが、ライフル銃の銃床が壊れた……あの野郎」


「そんなものはどうでもいい、こいつをなんとかしないとな」


 レラーニが剣を振る。


 ワーウルフはそれに合わせて後ろに後退する。


「レラーニ、ワーウルフは魔法攻撃以外はあまり効かねえらしい。だから呪符されてない弾丸じゃああまり効果がねえ。気を付けろよ――くそ、脇腹が」


「レイ、怪我をしたのか!」


「ああ大丈夫だ。骨が折れたみてえだがポーションは持っている。30分もすれば動けるようになる」


 マノックは持っていたポーションを飲みほす。


 レラーニは急に怒りの表情を浮かべると、突如持っていた剣を大きく上段からワーウルフに切りおろす。


 ワーウルフはそれを後に下がってなんなくかわす。


 そこへミルが召喚していた熊蜂くまばちが、いつの間にかにワーウルフの後ろで毒針を出して待ち構えていた。


 熊蜂くまばちは毒針をワーウルフの背中に突き刺す。その鋭い針はワーウルフの厚い毛皮を貫通して体内に強烈な毒液を送る。


 慌ててワーウルフは体を捻って横に逃げる。


 熊蜂くまばちはさらに追い打ちをかけようとワーウルフに接近するのだが、ワーウルフの前脚で振るった一撃により、木に叩きつけられてしまった。


 木にぶつかり地面に落ちた熊蜂くまばちを、ワーウルフはゆっくりと前脚で踏み潰す。


「毒も効かねえって話は本当みてえだな」


「安心しろレイ。この魔剣で私が仕留める!」


「レラーニやめろ、相手が悪い。ここはミルを連れて逃げろ、お前の手には負えねえ」


「いや、少なくても相撃ちくらいには持っていける自信はある。レイを置いて逃げるくらいなら死を選ぶ」


「レラーニ……」


『ガアアアァァァ!』


 その時、叫び声を上げながらワーウルフに襲い掛かる魔物。

 その魔物はオーガという魔物。


 ミルが残りの魔法を使って全力召喚した魔物だ。

 しかし全力といってもすでにかなりの魔力を使ってしまっていた為、このクラスの魔物召喚が精一杯だった。


 オーガが跳びかかるなり、両手を組んだ拳でワーウルフを叩き潰す。


 少し辛い表情を見せたワーウルフだが、すぐに体勢を整えてオーガの喉元のどもと目掛けて跳びかかる。


 オーガはかろうじて自分の腕を犠牲にしてその鋭い牙を避けるのだが、左腕には食いついたワーウルフの牙は予想以上に鋭い。


 すぐに振りほどこうと左腕を振った途端に、オーガの腕は千切れ飛んでしまう。


 オーガは痛さで叫び声を上げるが、次の瞬間にはワーウルフの牙がのどに食い込んで、叫び声さえでなくなる。


 ワーウルフがオーガののどを食い千切って勝利の雄叫びを上げた時、後ろから聞こえた声に血だらけの顔を向ける。


「おい、野良犬。詠唱時間ありがとな」『轟雷』


 マノックは魔法を発動させた。


 天空から雷鳴と共にワーウルフの頭上に稲妻が落ちる。

 

 その威力は凄まじく、近くの木々をもなぎ倒して黒焦げにし、落雷地点には大きく穴が開いた。


 近くで立って見ていたレラーニも、落雷の衝撃で吹き飛ばされてしまう。


 同様にマノックにも衝撃が襲い掛かり意識が遠のく。


 衝撃が収まってくるとマノックは徐々に意識を取り戻し、顔にかかった土を払おうとするのだが、何かが自分に乗っている為それができない。大木か何かが自分の体の上に倒れたらしい。


 大木をどかそうと両手を隙間にこじ入れて力一杯持ち上げようとする。しかし固いと思っていたそれは『ぷにゅ』とした感触を手の平に感じて、驚いてマノックは両手を引っ込める。


 大木じゃなくオーガが覆いかぶさってるのかと思い、もう一度手を入れて感触を確かめる。


 なんども感触を確かめていると、その大木が音を発する。それを聞いたマノックは驚いて両手を引っ込める。


「う、うううう」


「え? この声って……」


 マノックは慌てて土をどかし始める。


 すると大木と思ったのはレラーニだった。


「レラーニ! しっかりしろ!」


 うつ伏せでマノックの上に倒れていたレラーニを起こし、近くの倒木に寄りかからせる。


「レイさん、レラーニさん!」


 ミルが2人を見つけて走り寄る。


「ミル、レラーニにポーション飲ませてやってもらえるか」


「はい、レイさんは……大丈夫なんですか」


「ああ、俺はさっきポーション飲んじまったからしばらく飲めないんだよ」


「そうですか、わかりました」


 ミルはカバンからポーションを取り出しレラーニに飲ませる。

 

「それからミル、息のあるナイトゴブリンいたら捕虜にするんでポーション持って探してきてくれるか」


「はい、それではレラーニさんをお願いします。私は生き残りを探してきます」


 ミルは破壊されたドームの方へ向かう。


 ポーションのおかげかレラーニが目を覚ます。


「うんんん、私は気を失っていたのか……痛たたた」

 

 レラーニは起き上がろうとするも、まだ傷が完全に癒えていない為、痛さで再びその場に腰を下ろす。


「まだじっとしてろ。すべて終わったから安心しろ」


「しかしレイ、あんな至近距離であの魔法を落とすとはな。ふふふ、お前らしいな」


「ああ、すまなかったな。あの時はあれしか思い浮かばなかったからよ」


「そうだな。私も人の事を言えた義理じゃない。何もできなかったんだからな」


「レラーニ、少し休んで出発する。奴らの別動隊がいるかもしれねえ。今こられたらおしまいだ」


「わかった。そういえばレイ、変な夢を見たんだ」


「それは気のせいだ、間違いない!」


「ん? まだ何も言ってないぞ。大蛇が私の胸に巻きつ――」


「出発するぞっ! さあ、立て!」


「え、えええっ!?」


「ミル~~、行くぞ~~!」


 「は~い」と返事をした後、ミルが虎に乗せたナイトゴブリンを連れて来る。


「レイさん、1人助かりそうなナイトゴブちゃん連れてきました」


 ミルが連れてきたナイトゴブリンは怪我をして気を失っているが、大した傷を負ってはいないようだ。これならば話を聞けそうであった。


「よし、それじゃあ撤収!」


 マノック達は元来た道を戻って行く。


 そしてなんとか集合地点にたどり着くと、ちょうど討伐隊が森の中へと入ろうとしているところだった。


「マノック男爵殿!」


 案内役のエルフが声を掛けてきた。


 森の奥で轟雷魔法の音が聞こえたらしく、結構な騒ぎにになっていたらしい。しかしマノックにしたら魔物狩りならそれくらいはあたりまえだろうと思うのだが、さすがにそれは口にしなかった。


 ことの成り行きを話し、ナイトゴブリンの捕虜を引き渡す。

 その後、魔物狩りは強制終了となり街に戻ることになる。


 少し物足りない気もするマノックなのだが、怪我を負った身である。渋々街へと向かう。


 帰り道、トラックに揺られながらレラーニがポツリと話し出す。


「最近な、よく大蛇の夢を見るんだ。それがリアルな時もあればそうでないときもあるんだ。だけどな、今日の夢はリアルな方だったんだ」


「そ、そんな悪夢は忘れろっ、今すぐにだっ」


 マノックが慌てた様子で返答する。

 しかしミルは興味ありげに身を乗り出す。


「私と同じです。ぜひその話聞きたいですっ」


「今日の夢はだな、大蛇が体に巻きついて私の胸をだな、こう――」


 レラーニが話しながら両手で自分の胸元を鷲掴みにした時だった。


「轟雷」


 ドドド~ン!


 轟雷魔法が車両が走る道のすぐ横に炸裂した。


「なんだ、なんだ、どうしたんだ」


「なに? 魔物?」


 全員が大慌てでまわりを見回す。


「いや、魔物の気配がしたんでな……くそ、魔力不足だ……」


 魔法を放ったのはマノックだ。


 マノックは魔物がいたと言い張るのだが、誰もそれは察知していない。


 しかしいつ襲われてもおかしくない状況に、それを疑う者は誰もいない。


「全員気を緩めるな、全周警戒しながら向かうぞ」


 案内役のエルフが部下に活を入れた。

 当然ながらマノック達3人もそれに従い、会話もせずに警戒しながらトラックで銃を構える。


 そんな中、マノックは1人胸を撫で下ろしながらつぶやく。


「そうか、こういう使い方もありだな」


 そして彼らは無事に街へとたどり着くのだった。




読んで頂きありがとうございました。



次回でマッカーデンの街での話は終了です。

再び陸戦艇が出てきますがエルフ領内での話になります。


今後ともよろしくお願いします。

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