104話 轟雷はエルフの森に興奮した
俺の陸戦艇Ⅲと愉快な仲間達は、1週間ほどかけてマッカーデンの街へ到着した。
街が見えてきた時、その光景に乗組員の多くが息を呑んだ。
街というよりも草木があふれる大陸だったからだ。
乗組員の内のエルフ達だけは懐かしそうにそれを見ていた。
「確かマノック艇長は行った事あるんですよね」
そんな質問をしてきたのは操舵手のパットだ。
「ああ、若い頃に1度だけ来たよ。なんで防壁がないか聞きたいんだろ」
「それ、それですよ。絶対皆不思議に思ってますって」
ブリッジ内の他の乗組員も頷いている。
「俺も初めてきた時に真っ先にそれを聞いたよ。エルフ達はな、魔物と共存してるんだそうだよ」
「共存ってどういうことです?」
「あの広い土地には森があったりでっけえ池があったりするんだがよ、その森や池には魔物が住んでるんだよ。それを狩って食料にしてる。いくら狩っても外からどんどん入って来るから数は減らない。だから食糧も減らないって寸法さ」
その話にレラーニが加わってくる。
「仮に魔物が増えすぎても討伐隊が数を減らしてコントロールするからな。時間があれば魔物狩をやってみたらどうだ。森の中や草原での狩は砂海と違ってまた楽しいぞ」
レラーニの提案にマノックが異常に反応する。
「それやろうぜ、森や草原で狩り! そこにはどんな魔物がいるんだよ」
「ウッドバックとか角兎とかの肉は美味しくて狙い目だ。でもな生身の体で戦うのは結構きついからな。陸戦艇で戦うのとは訳が違うから注意しておいた方がいい。エリスの姉御に装甲車でも借りて狩をすればいい」
「装甲車か、ちょっと楽しみになって来やがったな」
マノックは他の人とは違った点で大喜びだ。
港に着くとそこには防壁で囲まれた旅人や商人用の小さな街があった。エルフ以外はそこから出る事が出来ない。待機街と呼ばれているらしい。
ただし許可証を持っている者に関しては話は別で、その奥にあるマッカーデンの街へ入ることが許される。
待機街は人間の街とあまり変わりがないのだが非常に狭い。宿泊施設が多数あるのと商店があるだけで、他にはこれといったものはなかった。一番大きい建物が交易取引所やマッカーデン街への通行審査所などといった、公的機関の窓口が多数ある場所であった。
マノック達はそこへ行き、マッカーデンの街へと入る手続きをすませる。
しかし森林エルフ以外で許可されたのはマノックとミルだけだ。
ミルに関しても以前エリスの元で働いていた経緯があるので、すでに許可証は持っていたので許可されて当然。
マノックの護衛役であるラル兄弟が必死に入街官に詰め寄ったのだが、結局最後まで認められなかった。
「みんな、悪いがここでお留守番だな。一応エリスにあったら言ってみるけど期待すんなよな」
「「「「「いってらしゃ~い」」」」」
俺の陸戦艇Ⅲの士官クラスに見送られて待機街のゲートをくぐる。持ち物検査までさせられてやっとのことでマッカーデンの街へ入ることができた。
入ったのはマノックと森林エルフのレラーニとミルの3人、それと何人かの森林エルフ。ちなみにダークエルフは認められなかった。どういう種族関係なのだろうか。
ゲートを抜けた先で待っていたのはエルフの護衛10人ほど。すべて女性エルフである。
その護衛の指揮官らしき女性がマノックの前まで来ると、貴族に対する礼を深々とすると、エリスの屋敷まで案内するという。
ここで一緒に入ってきた森林エルフ達とはお別れである。
マノック達は6輪装甲車に乗せられて、その前後には4輪装甲車のガード付きで、さっそうと走りだす。
道路にでるといきなりそこは森の中だった。
「すっげ~な、木ばっかりだぜ。俺も待機街出るのは初めてなんだよな。魔物がいるんだろ、大丈夫なのかよ」
やはりエルフのレラーニはそこらへんは詳しい。マノックにいろいろ説明してくれる。
「魔物はうようよしている。そのおかげで防壁が不要なんだ。それに加えて食糧もたくさんあるってことだ。まあ危険ではあるんだが、居住区にはちゃんと防壁があるんでそこは安全なんだ」
「でもよ、どうやったらここまで植物が豊富に育つんだ?」
「ここのエルフに言わせるとな、精霊様のおかげだそうだ。ここのエルフは信仰心が厚いからな」
「ロックランドにも精霊はいるんだがな~」
「うん、私もロックランドの木の精霊の話は聞いたことがある。そのおかげでエルフ人口も増えたことだしな。でも水の精霊と木の精霊が対をなして初めて森は形成される。ロックランドが緑あふれるようになったときは水の精霊の噂も広まる時だろうな」
その時、先頭を行く4輪装甲車が森の方に向かって機関銃を撃つ。
「おお、銃撃か、どうしたんだ!」
「たぶん魔物でも出たんだと思う。機関銃で追い払ったんだろう」
レラーニが冷静に答える。
マノックが6輪装甲車から乗り出して森を見ると、体長3mはある猪型の魔物が逃げていくのが見えた。
「おおおお、すげ~、ブッシュボアだろあれ!」
マノックは大はしゃぎである。
さらに森の中を指差して興奮する。
「なあ、あれって鳥だよな!」
レラーニも座席から立ち上がり、マノックに付き合う。
「レイ、あれは“ジャイアントビー”。鳥じゃない、蜂だ」
「おおすげ~、あの植物も魔物なのか?」
「ああ、あれは食虫植物だ。人は食わない」
「見ろあれ!」
「子供じゃないんだから少しは大人しくしたらどうだ」
さすがにレラーニも面倒臭くなってきたようだ。
「レイさん楽しそうですね、ふふ」
若干ミルも呆れてしまっている。
しかしマノックはさらに言葉を続ける。
「なあ、あれ撃っていいか?」
「だから少しは黙って座って……」
途中まで言いかけたレラーニだが、マノックが指差す方向を見て言葉が詰まった。
「防御射撃用意! 3時方向キラービー複数!」
どうやら6輪装甲車の偵察員も発見したようで機関銃を撃ち始める。
4輪装甲車の2両も攻撃を始める。
「気を付けろ、刺されたら即死だ!」
レラーニが注意を促す。
マノックはここぞとばかりに持っていた拳銃を乱射する。
だがそれもあっという間に終わった。
キラービーは思ったほど防御力がなく動きも遅い。瞬く間に機関銃で撃ち落とされてしまったからだ。
「なんだ、もう終わりかよ」
マノックは弾倉を交換しながらつぶやくのだった。
待機街からは30分ほどで森を抜ける。今度は森の変わりに畑が広がる。そこを15分はど走り、やっと街に到着する。
建物はすべて木や蔦や木の実の殻で作られている。人間の街とは趣が全然違った。
街の中を抜けると屋敷が見えてくる、マッカーデン伯爵の屋敷である。
「ここがエリスんちかよ、すげえな……」
マノックが呆れるのもしょうがない。目の前にある屋敷は巨木を利用したツリーハウスだったからだ。
以前マノックが住んでいた巨木の家をはるかに大きくしたもの。一般の人間が見たら腰を抜かすレベルだ。
装甲車から3人が下りるとそこにはタキシードを着た女性エルフが数人立っている。
「ようこそおいでいただきました。レイ・マノック男爵殿。来訪を歓迎いたします」
こうしてマノックは長旅の末に、エルフ支配地域先端であるマッカーデン辺境伯の領地に入って行くのだった。
読んで頂きありがとうございました。
この世界に国境線はありません。
あくまでも支配地域という概念です。
敵対勢力が支配地域を行き来するのは日常茶飯事です。
国境を超えるなって文句を言うこともありません。
なので敵支配地域を横切って友好国支配地域へ行くといった事もよくあることです。
同様に魔物の狩りの為に敵支配地域に行くことも普通です。
参考までに。
今後ともよろしく願します。




