102話 射的は決闘へと変貌した
残った5人による決定戦はというと、模擬弾によるトーナメント戦である。
1対1で撃ち合って勝敗を決めるのである。
いわゆる弱装弾であり、弾頭は木製である。
興奮したマノックが射的から変更してしまったのだ。
しかしそれに反対する者は誰もいなかった。いや逆にギャラリーは大いに盛り上がった。あっという間に賭けの対象となり、ペンと紙を手にして走り回る者が続出した。
「男爵がやっぱり優勝じゃねえのか。なんてたって武器オタだからな」
「マックス砲術長はあらゆる武器に精通してるって話ですよ。勝つのは砲術長でしょう」
「レベッカ曹長は多脚機の砲でゴブリンの股間だけを撃ち抜ける腕前だぞ。負ける訳ないだろ」
「ヘルマン軍曹は王都の射撃大会で優勝したことあるって聞いたぞ」
「レラーニ隊長のスピガットモーターでの命中率はダントツだぞ」
人気は完全に分かれた状態だった。さらにあちこちでいろいろな噂話や作り話が交差して大会を盛り上げた。
そしてくじ引きの結果5人でのトーナメントはマノックはシード枠となり、第1回戦はヘルマン対レベッカ、2回戦目はレラーニ対マックス、3回戦目はマノック対1試合目の勝者、4回戦目で優勝決定戦となる。
「これより第1試合、ヘルマン対レベッカの試合を行いますよ。準備はいいかね」
レベッカの武器は装弾数8発の9㎜オートマチック拳銃である。
対するヘルマンはというとロックランド街軍が支給する、装弾数6発の中折れ式9㎜リボルバー拳銃だ。
10mの距離から撃ち合うのだが、ここまで残った5人ならば全員が命中できる距離である。どこに命中しようが当たった時点で試合終了なので、銃の威力は関係ない。
遮蔽物としてお互いの前には大きな樽がそれぞれ置かれている。
いかに遮蔽物を利用するか、銃の性能と腕前とそして駆け引きが勝敗を左右する。
樽と樽の間はおよそ10m
レベッカとヘルマンの2人は、樽から3m後ろでそれぞれ位置に着く。
「それでは試合開始!」
レフの開始の合図で2人は即座に樽に身を隠すと、相手に牽制射撃を始める。
しかし2人の決着は呆気なかった。
「痛てっ!」
その悲痛な一言で試合は終了した。
「試合終了~~、勝者はレベッカね」
なんと体が大きいヘルマンは樽に体を隠しきれずに、そのはみ出した尻に模擬弾が命中したのだった。
「ああ~なんか違った意味で悔しい」
悔しがるヘルマンにレベッカが言い放つ。
「頭隠して尻隠さずですわね。でも残念なのはイケメンが股間を抑えて悶えるところが見れなかったことですわね」
それを聞いた途端にヘルマンは何を思い出したのか、突然自分の股間を抑えて『ぶるる』と身震いをするのだった。
そしてすぐに第2試合が始まる。
「は~い、それでは第2試合いくよ。準備はいいかね」
準備の声が掛かっても2人は直立のまま、銃を構えようともしない。
レフが心配になり、再度準備はいいか聞いた。
「大丈夫だ、いつでもいいぞ」
「はい、ばっちこいです」
2人ともそう言うのだが、お互いに銃は腰に差したままだ。
「そう言うならね、試合開始ね!」
レフの開始の声が掛かった途端に2人は腰の銃を引き抜く。
早抜きで対決しようと申し合わせたようだ。
反応速度は2人ほぼ同時だった。
しかし勝敗を分けたのは贅肉だった。
レラーニは即座に銃を腰から引き抜き、マックスへと向ける。
しかしマックスは腰回りの贅肉に阻まれてしまったのだ。
銃を引き抜こうとした時、銃身のフロントサイトが贅肉とズボンに引っ掛かり、抜けなくなってしまったのだ。
それに気が付いたレラーニは、引き金を引かずにゆっくりとマックスに接近する。
「ああ、くそ! 抜けない!!」
「マックス、もう少し痩せた方がいいぞ。だらしない……」
レラーニは至近距離まで接近してから、マックスの贅肉に向かって引き金を引き続けるのだった。
「痛ててててててっ!」
「撃ち方止め~! 止めっ!! 勝者レラーニね」
ギャラリーは大爆笑であった。
「は~い、静かにしてね。第3試合の準備ね」
レフがそう言う頃には早くもレベッカは開始位置に付いている。
「あれ? マノック男爵はどこかね?」
レフが探すが何故かマノックが見当たらない。
皆がキョロキョロしていると誰かが声を上げた。
「ここ男爵にいます!」
「全く。男爵、マノック男爵、起きてください」
マノックは甲板の隅で酔いつぶれて寝てしまっていたのだ。
「おお、すまん、すまん。俺の番か?」
若干の千鳥足で開始位置に立つマノック。
心配そうにレフが尋ねる。
「マノック男爵、銃の準備は大丈夫なんですかね」
「あ、銃、忘れてた。ち、ちょっと待っててくれな」
マノックはよろよろと銃を取りいき、ふらふら状態で開始位置についた。
マノックの持つ銃は見慣れない輝きの5連発の中折れ式小型リボルバー拳銃であった。
軍用で使われるような拳銃ではなく、護身用で使われるような銃身の短い拳銃である。
「轟雷殿、そんなにフラフラで戦えるのかしら。その股間の轟雷に全弾叩き込んで差し上げますわね」
レベッカの挑発的な言葉にもマノックは軽く手をヒラヒラさせて答えるだけだった。
「それでは~、試合開始ね!」
開始の合図でレベッカは真っ先に樽の後ろに着こうと走り出す。
しかしマノックは隠れようともせずに真っ先に射撃を開始した。
「痛たいわっ――っち、油断しましたわ!」
「お、当ったか、へへ」
マノックはにこりと笑う。
ギャラリ―から歓声の声が上がる。
「あら? ちょっとマノック男爵殿。その銃を見せてもらってもいいかしら?」
そんな中で試合を近くで見ていたビッチ姉妹の姉のソニアが、マノックに声を掛けた。
「ああこれか、高級品だから気を付けて扱ってくれよなあ……」
マノックから銃を受け取ると、ソニアの目が大きく開く。
「マノック男爵殿、この銃はマジックアイテムですわね!」
「んんん、魔銃はだめってルールはなかったぞ。違うか?」
「た、確かにそうだわね。レベッカの負けね、しょうがないわ。レベッカを好きにしてもいいわ、それと私も――」
「ストーップ! そういうのいいから!」
「はい、はい、次の優勝決定戦いくよ~。レラーニ対マノック男爵だね。準備してね~」
レフが急かす。
「じゃあ、最後は魔銃は使わないことにするよ」
マノックのその言葉にレラーニが反応する。
「それは私に勝ちを譲るということか、レイ」
「ばか言ってんじゃねえぞ。ノーマル銃でも十分勝てる自信だよ。そのまえに喉乾いた」
マノックは喉が渇いたとジョッキのビールを一気飲みする。
そして今度は違う銃を持って位置に着いた。
「は~い、それじゃあ試合始めね!」
こうして最終決戦が行われるのだった。
合図で走りだす両者。
レラーニは素早い動きで樽の直ぐ後ろにいち早く取りつく。
しかしマノックはというと走った方向はギャラリーの方向だ。
「あああ、レイめぇ~」
レラーニはギャラリーに構わず拳銃の引き金を引く。
しかしマノックは酔っ払いながらも巧みにギャラリーを盾にする。
「痛ててっ! マノック艇長、こっち来ないでくださいよ!」
そう叫ぶのはギャラリーの中にいた航法長のパットだ。レラーニの放った模擬弾が胸に命中したのだ。
「痛たいっ、今のワザとですわね。森林エルフの分際で!」
今度はソニアの顔面に命中したのだ。
「レイ、ちょこまかと人ごみで動くな!」
怒鳴るレラーニに向かって今度はマノックが攻勢をかける。
タン、タン、タン、タン、
マノックが握る拳銃は8連発の9㎜オートマチック拳銃なのだが、一旦射撃が始まるとそれが止まらない。
よく見るとマノックの腰にはずらりと予備弾倉が並んでいる。
おそらく総数で100発以上はあるだろう。
オートマチックなので弾倉交換も早い。
反対にレラーニの拳銃は6発のリボルバーだ。6発ごとに弾を一発ずつ詰め替えなければいけない。
マノックは撃ち放題で撃ってくる。
たまらずレラーニも応戦するも、弾切れとなり慌てて弾を詰め替えようと中折れ式の弾倉を開く。
そこをマノックは見逃さなかった。
射撃を続けながらも一挙に距離を詰める。
しかしレラーニの目の前で弾切れ。
マノックも弾倉交換となるのだが、それは手慣れた手つきであっという間だった。
相当練習もしているんだろう。
弾倉を替えて発射準備をしたマノックは、銃口をレラーニの額に向ける。
「待て、レイ。こんな至近距離でまさか撃たないだろうな」
「レラーニ、撃たないと勝敗が決まらねえんだよ、すまんな」
「ひぇぇぇ~、待て、ちょっと待てって~」
タン
まるでデコピンでもやるかのようにレラーニの額に模擬弾を放った。
「きゃ~~っ痛ぁぁああい!!!!」
「優勝はマノック男爵!」
一気に大歓声となる。
ギャラリーにもかなりの流れ模擬弾が飛び込んでいて、お互いの腫れ上がった傷跡を笑い飛ばしてる。
「あの~轟雷殿、ちょっといいかしら」
「なんだレベッカ」
「轟雷殿がいなかったら私かレラーニのどちらかが優勝でしたわよね。それを明らかにしておきたいのですけどいいかしら」
「俺は構わんが……」
マノックが視線をレラーニ移すと、額にできたコブをポーションで治癒しながら「臨むところだ」と返事をする。
ここで今大会の本当の優勝決定戦が行われることとなった。
これには艇内で任務に就いている者まで見たいと、プレミア級の一大イベントとなる。
ここに股間キラーのレベッカ対鮮血の雀蜂のレラーニという2つ名を持つ女同士の死闘が始まるのだった。
読んで頂きありがとうございました。
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