101話 長旅に射的大会を
屋敷の外から放たれた銃弾は、窓ガラスを割って室内を掃射する。
その銃弾はカール・ブラウンの背中にも突き刺さり、その背中をボロ布のようにズタズタに変貌させる。
おそらく軽機関銃での掃射かと思われた。
一連射ほどで銃撃は収まり、その直後にカール・ブラウン男爵は床にうつ伏せに倒れた。
瞬時に窓から離れたマノックが姿勢を低くしたまま周りを見回す。
「どこから撃ってきたか見えた奴いるか!」
そこにいた皆は押し黙ったままだ。
レラーニが匍匐しながら横たわるカール・ブラウン男爵に近寄り、首筋の脈を調べる。
しかしマノックの方を見ると首を横に振った。
マノックが射撃があった窓を見ながらつぶやく。
「これはシャルルがやったにちげえねえな。ブラウン男爵との暗殺の密約がばれないように口封じをしやがったんだよ」
そんな話をしている内にドロップポイントの治安部隊が屋敷を取り巻き始めたらしい。
「そろそろぉ、私の出番のようねぇ。話を着けて来るわぁ」
そうエリスは言うと、お付の護衛4人と共に屋敷の外へと向かう。
その後を追うようにマノック達も外へ出る。
エリスは到着した治安部隊の隊長と数秒話しただけで、治安部隊との話は終了したようだ。
「なあ、エリス。もしかしてあの隊長はあらかじめ買収とかしてたのか?」
「何の事かしらぁ、レイ。全然意味不明よぉ。ふふふ」
「ワタシニモナンノコトカ、ゼンゼンワカリマセン」
「だからバラッカ男爵、それはもういいですから……」
そこへ今度は大空をロック鳥が飛来して、鷲掴みにしていた大岩を屋敷に投下した。
大岩は屋敷を半壊させ、ロック鳥に跨っていた少女はそれを確認すると拳を握って喜ぶ。
「あれってミルじゃねえのか。もしかしてブラウン男爵が何者かに殺されたって聞いて駆けつけたつもりか」
すぐ後ろで屋敷が半壊状態になったにも関わらず、全く退避などしようとせずに、ただただその場に呆然と立ち尽くすマノック達だ。
ただならぬ様子に気が付いたのか、ミルがマノックの前に下り立つ。
「レイさん、なんかよどんだ空気が漂ってる感たっぷりなんですけど。もしかしてお呼びじゃなかったですか?」
その言葉に襲撃部隊全員が黙って大きく一斉に頷く。
本日の一番連携が取れた瞬間であった。
◇ ◇ ◇
その後、後処理などもすることもなくマノック達はロックランドへと帰るのだが、しばらくはどこからも問い合わせも呼び出しもなくロックランドで1週間が過ぎた。
さすがに心配になったマノックはエリスに問い合わせをする。すると話はかなり早く進んでいて、ドロップポイントはマノック領になりそうだと知らされる。
初め予想していた展開だと、ブラウン家はとり潰しで領地は王が接収するのではと考えていた。
しかし結果は違った。
それは王都の大手新聞が大きく轟雷男爵の名前を取り上げて、英雄扱いをしたことが始まりとなり、新聞各社も次々にそれにならってマノックを持ち上げた。
その結果、王が領地を接収すると発表したところ、民衆からは大ブーイングが起こったのだ。
そこで王は接収した領地は褒美としてマノックに授けるとしたというのが話の流れである。
しかしエリスにとっては全くの予想外の展開だった。
裏工作をしまくって、最終的にはマッカーデン家が買い上げようと画策していたからだ。
ただしそこまでの話はマノックは知らない。エリスはマノック領になるとしか伝えていないからだ。
この知らせを聞いたロックランドの代官のミランダは、何かを感じとったのかマノックに助言する。
「マノック男爵、悪いことは言いません。正式な手続きを踏んでエリス様に会いに行ってください。表敬訪問です」
「エリスのとこっていうのは、マッカーデンの街へ行けってことか?」
「そうです。外交も領主のお仕事のひとつですよ。それでマッカーデン伯爵にもお会いした方がいいですね、今後のためにも」
「え、でもいいのか。かなり遠いからしばらくいなくなるぞ。それに主要メンバーも行きたがると思うぜ」
「その辺は大丈夫です、安心してください。ロックランドも大分軌道に乗ってきましたから。人選は任せます」
「そうか、じゃあ早速準備するか。ミランダ、マッカーデンへの連絡は任せたぞ」
☆ ☆
マッカーデンの街、人間の支配地域とエルフの支配地域のちょうど堺にある街だ。
領主はエリスの父であるエドワード・マッカーデン伯爵である。
人間側の王から伯爵の爵位を授かり、エルフ側では辺境伯の爵位を持っている。
エリスは人間側では子爵だがエルフ側では男爵だった。
全くもってわかりづらいことであるが、それぞれの王が話し合いもせずに勝手にやっているからである。
マッカーデンの街はエルフ支配地域の中では緑が少ない場所ではあるが、人間領で比べると圧倒的に植物が生い茂る緑に囲まれた街であり、水が豊富でもある。
そして人口の9割が森林エルフであった。
エリスからはすぐに連絡があり、早速出航の準備に取り掛かる。
☆ ☆
ブオオォォォォッ!
出航の汽笛が鳴る。
ロックランドの港を俺の陸戦艇Ⅲが離れていく。
1000人を超える乗組員を全員人間で揃えるのは無理があって、結局はエルフが嫌がるドワーフやゴブリンも多数乗り込んでいる。
ここから1週間ほどかけてマッカーデンの街を目指す。ただしあちこち寄り道もしていく予定ではある。
もちろんミランダ女史には伝えていない。
出航して2日目にして早くもマノックは暇を持て余し始める。
甲板に椅子とテーブルを持ち出して、熱い日差しを浴びながらワインを飲む。
足元には水が入った桶が置かれていて、その桶に両足を沈ませている。
机の上にはワインの瓶とグラスとつまみのチーズ、そして1丁のリボルバー拳銃が置かれている。
口の中へ最後の一切れのチーズを放り込むと、残りのワインもグイッと喉の奥へと流し込む。
丁度その時、何かの合図なのか汽笛が短く『ブオォ』と鳴り響く。
汽笛が鳴ってしばらくすると俺の陸戦艇Ⅲが停止し、艇内から続々と乗組員が甲板上に出てくる。
30分もすると甲板上は人で一杯になる。
「それじゃあそろそろ始めるか」
そう言いながらマノックは勢いよく椅子から立ち上がる。
その言葉に反応してすぐ近くにいた副長レフがその場を取り仕切る。
「え~それではこれより、第一回雷神カップを開催いたしますよ」
その言葉に大歓声が起きる。
「はい、静かにね、ルールの説明するよ」
早い話レクリエーションである。
マノックが射的大会をしようと言い出したのが発端で、砂蟻の巣を発見したら即開催という手はずになっていた。
こういう時の見張り台に立つ乗組員の偵察能力は、目を見張るものがあった。
ルールは簡単で、甲板から拳銃で射撃して何発目で命中させられるかというもの。
そして最終的に勝ち残った5人で決勝戦だ。
優勝賞品はこの世界では非常に珍しい魚の缶詰めとやはり高級品であるチョコレートに高級ワインである。
一度に片舷だけで40人ほどが射撃を始める。両舷で80人だ。
制限時間は10分。
それでも乗組員の人数は多い。1人に付き1人レフリーを付けての全員参加の大会だ。
そして最終的に残ったのは次の5人だった。
ラル兄弟の弟のヘルマン・ラル
ビッチ姉妹の妹のレベッカ
砲術長のマックス
レラーニ
そしてレイ・マノック
この中でも特に興奮が止められないのは主催者であるマノックだった。
主催者が自ら参加するというこの異例な大会は、この後壮絶な戦いを繰り広げることになる。
読んで頂きありがとうございます。
明日中にもう1話投稿できそうです。
今後ともよろしくお願いします。




