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100話 戦いの中に大根役者を見た




 エリスが持ち込んできた話と言うの実はマノックが発端だった。


 というのは、マノックが自分を狙った暗殺者の情報を集めるように、エリスに依頼したことから話は始まった。


 エリスが得意の情報網や固有スキルを駆使して得た情報によると、暗殺者を雇ったのはドロップポイントの領主カール・ブラウンであることが判明した。


 貴族が黒幕だというのはだいたい予想していたのだが、それが身近な存在のブラウン男爵だった事は驚きだった。


 決定的だったのがブラウン男爵自らシャルル・タラソンと会っていたところを、エリスは固有スキルで見てしまった事だ。


 そしてエリスは捜査を進めるうちに、ブラウン男爵の不正取引を知ってしまう事になる。


 ゴブリンの街とは取引をしてはいけない取り決めがある。ゴブリン領とは長期的な戦闘状態だからである。

 敵に物資を輸送するなどあってはならないこと。


 しかしドロップポイントからゴブリンの街へと、物資が輸出されていることが判明した。


 エリスはその証拠の書類の保管場所まで突き止めている。

 しかしその保管場所はドロップポイント領内、領主の屋敷の中であった。


 そこでエリスは考える。


 人属領内で味方同士が表立って戦争を起こすというのは非常にまずい。

 つまり多数の陸戦艇でもって街へ攻め込むような大掛かりの戦闘はNG。


 しかし王都内であったようなマノック達の車両を襲った限定的な戦闘なら問題ない。


 ならば作戦は立てようがあると。


 極地的な戦闘の結果、犯罪行為も暴かれて貴族が失脚。それが最近、ちまたを賑わしている轟雷男爵ならば新聞が英雄扱いしてくれる。

 そうなればさばきもしづらいだろうとエリスは考えた。


 後はマノックに話を持っていき了承を得るだけだった。


 こうしてマノックは今作戦の為の準備をしていた。


 そこでマノックがたてた作戦の概略は至ってシンプル。


 夜明け前の暗黒帯の暗闇に乗じて街へ侵入し、短時間で屋敷を襲い占拠せんきょしようというもの。


 襲撃人数は20人ほどの予定なのだが、短機関銃の数が全員分早急に揃えることが困難と判明。やむを得ず短機関銃以外に散弾銃とライフル銃、予備として拳銃を装備。


 襲撃失敗は許されないのだが、最悪の場合も一応想定はしている。いざという時はミルに魔物召喚してもらい、その混乱に乗じて脱出するというものだ。


 概略としてはこんな形で作戦は実行される予定だった。

 しかしエリスが色々といちゃもんを付けてきた為、作戦は多少変更することになるが大きくは変わらない。


 作戦実行のためにロックランドの岩山の奥に、わざわざブラウン男爵の屋敷のレプリカを作って模擬訓練を繰り返す念の入れ用であった。


 そしてある日、エリスから連絡が入り作戦は実行に移される。


 この日はエリス・マッカーデン子爵がドロップポイントに取引の為に立ち寄ることが伝えられていた。そして同じ日にマカローの領主であるフランコ・バラッカ男爵も取引の中継地点としてこの地を利用したいと訪れることになっていた。


 これには作戦後の重要な役割としての理由があった。ここがエリスの提案した変更点だ。


 この日エリスとフランコ・バラッカは、ドロップポイントのホテルに宿泊していた。

 

 日暮れと共に襲撃部隊は沖合の輸送艇から小型艇でギリギリまで接近。さらに徒歩で砂海を進み、暗黒帯になるとドロップポイント西側の岸壁を登って侵入する。


「よし、全員侵入したな」


 徐々に明るくなっていく空のした、レラーニが部下を見回して確認する。


「そうだな、20人全員侵入完――ってレイ、なんでここにいるんだ!」


「ばか、しっ、声がでかいだろ」


 マノックは後から来るはずだったのだが、なぜか襲撃部隊と一緒にここにいる。


「す、すまん。しかしだなレイ、なんでここにいる?」


「もう遅い。ほら、いくぞ」


「戻ったら電気ババ――ミランダ女史に怒られるぞ」


電気ババアと言うのがミランダ女史につけられたあだ名だ。

雷系の魔法が使えるわけではない。ただ実際会ってみると誰もが納得した。


「それも慣れっこだよ。だいたいこんな滅多にないイベントだぞ。参加しないなんてもったいないじゃねえか」


「まあ、その気持ちも分らんでもないのだがな。まあ私達は訓練してきたからな、連携を乱すような邪魔はしないでくれよ」


「わ~ってるよ、レラーニ」


 ブツブツ言いながらもマノックとレラーニの襲撃部隊は屋敷へと接近する。

 そしてレラーニが味方下士官の1人に合図を送る。


 どうやら2手に別れるらしい。


 襲撃部隊の半数がその下士官と一緒に正面門へと回る。


 残りの半数とレラーニとマノックは裏門へと向かう。


 そして時計を見ながら待機する。


 レラーニが突如、時計を見ながらカウントを始める。


「5、4、3、2、1――」


 ドド~~ン!!


 正面門の方から爆発音が聞こえる。


 その音に裏門の警備兵の何人かが、正面門の方へと走って行く。残った警備兵は2人だけである。


 正面門の方では銃撃音が聞こえ始める。


「時間通りに始まったな。我々も行くぞっ」


 レラーニが裏門へとまっしぐらに走る。その後を部下の兵士とマノックが走って行く。


 裏門の2人の兵士がそれに気が付きライフル銃を構える。


 マノックは接近が間に合わないと悟り、咄嗟に短機関銃を敵兵士に向けようとするのだが、先頭を走るレラーニが邪魔で撃つ事が出来ない。


「レラーニ、どけっ!」


 その声にレラーニは振り向くと不敵な笑みを見せる。

 その表情にマノックは思わず「はあ?」と声を漏らす。


 しかしマノックの心配とは裏腹に短機関銃の連射音が響き、門の兵士をなぎ倒す。


「あれ、味方か?」


 マノックは射撃方向に目を向けると、味方の兵士が手を振っている。


 どうやらレラーニが何人かの兵を援護の為に、射撃位置に着かせていたようだ。これも模擬戦闘訓練の段階でも決まっていた事らしい。


「レイはロックランドの訓練には参加してないんだから、変な行動はとらないようにしてくれよな」


 レラーニがマノックの耳元で囁くのだが、マノックは悔しそうに小さく頷くだけだった。


 裏門を通過するとすぐに裏口に到着する。正面から襲撃した部隊は正面門を突破して今度は屋敷の正面の扉近くまで来たようだ。

 屋敷の正面の扉、マノック達とは反対側に当る場所から銃撃音が聞こえる。


 レラーニが合図を送ると、兵士の内の5人ほどが裏口扉の両サイドにへばりつく。


 残りの兵士はやや離れたところから窓に銃口を向け監視している。


 兵士の1人が扉の鍵を確認する。当然のことながら施錠してある。


 散弾銃をもった兵士が扉に向かって2発の散弾をぶっ放すと、他の兵士の1人がすかさず持っていた斧で扉をたたき壊す。


 2ふりほどで扉は半壊し、その扉を蹴破って一気に4人中へと突入した。


 しかし銃撃はない。


 正面入口に集中していて裏口には気が付かないのかもしれない。


 外で待機していた残りの兵士も突入していく。


 最後にマノックとレラーニも中へと入って行く。


 屋敷は3階建てで領主の書斎が3階にあり、その部屋の金庫に証拠の種類が保管されているはずだった。


 しかし階段は正面玄関にある広いエントランスにあるため、まずは銃撃戦を繰り広げている正面の敵兵を一掃しないといけない。


 衛兵のほとんどは正面玄関方面に出ているので、1階の部屋に残っているのは使用人ばかりだ。

 使用人達は台所に集め、そこに兵士を何人か残しあとは全員で正面玄関へと向かう。


 敵の衛兵を確認すると、レラーニは兵士達に合図を送る。

 その合図で一斉に手榴弾を投げ放つ。


 「ん、なんだ……て、手榴弾!」


 敵の衛兵が真横に転がってきた手榴弾に気が付くのだがもう遅い。


 衛兵が叫んだ時にちょうどエクスプロージョンの魔法は発動した。


 爆発で窓ガラスが飛び散り、衛兵は手榴弾の破片を浴びて床に横たわる。


 そこへレラーニ達が雪崩れ込む。

 正面攻撃に気をとられていた衛兵は、後ろからの攻撃に一網打尽だった。


 雪崩れ込んだ半数は、警戒しながら2階へと続く階段を上がって行く。


 1階の残りの部屋も掃討していると、正面攻撃をしていた襲撃部隊が屋敷内へと入って来る。1階の敵衛兵はいなくなったのであろう。


 そこでレラーニとマノックも2階へと上って行く。


 しかしそこからは簡単だった。


 1階を掃討されたとわかった敵衛兵の士気はガタ落ちで、次々に武器を捨てて投降を始めた。


 その間にレラーニとマノックは3階へと進んで行く。


 3階には部屋が3つある。

 寝室と書庫と目的の書斎の3部屋だ。


 3部屋一斉に突入を試みる。


 扉を開けてまずは手榴弾を投げ込む。寝室と書庫に関してはそれで問題なく制圧できたのだが、書斎に関してはそれが出来なかった。


 手榴弾を投げ込もうとドアノブに手をかけた途端に、室内から扉に向かって射撃が始まったからだ。


「なあ、レラーニ。あいつ書類を処分したりしねえかな?」


 銃撃されているというのに呑気にマノックがレラーニに疑問をぶつける。


「それは大丈夫だと思うぞ。何故襲撃にあっているかも解ってないんじゃないか。せいぜい金目当てに元兵隊の盗賊達が襲ってきたとか思っているんじゃないのか」


「そうだな。あ、それからさ、なるべくなら生かして捕えろよ」


「ああ、そこは理解している。そろそろ降伏勧告でもしてみようか」


「ああ、レラーニそれは任せたぞ」


 中からの銃撃が収まった隙をついてレラーニが声を張り上げる。


「おい、降伏しろっ。降伏するならば命までは取らない。抵抗するならば手榴弾を投げ込む。どうだ!」


 するとヒソヒソ声が聞こえた後、カール・ブラウン男爵が降伏すると告げてきた。


「よし、それじゃあ金庫の鍵を開けたままで、床に伏せて手を頭の後ろで組め」


「わ、わかった。言う通りにする!」


 ブラウン男爵は金庫を開けて床に伏せる。


 そこでやっとマノック達が室内へと入って行く。


 それを待っていたかのように、その後ろから戦闘服でない2人が入って来る。

 入って来た2人の男女は貴族らしい服装である。

 その内の男性が口を開く。


「コレハイッタイ、ナニガアッタンダロウカ」


 それはまるで子供の演劇を観ているような棒読みのしゃべり方だ。


 それを聞いた兵士隊が笑いをこらえて下を向く。


 声の主はマカローの領主のフランコ・バラッカ男爵である。


 そしてもう一人の貴族風女性も口を開く。


「どうしたにかしらぁ。マノック男爵がどうしてここにいるのかしらぁ」


 女性貴族はエリスである。

 計画ではマノックは後から登場の予定だったのだが、今ここにいる事にエリスが突っ込みを入れる。


「あ、ああ、ブラウン男爵の不正に関しての情報があってな。証拠はそこの金庫の中にある。見てくれ」


「ソレハホントウナノカ。ミテミヨウ」


 それを床に伏せて聞いていたブラウン男爵が悔しそうに毒つく。


「貴様らはかったな!」


 そんな言葉には耳もくれずにエリスは金庫から種類を出して見せる。


「あらぁ、本当にあったわねぇ。これは動かぬ証拠になるわねえぇ」


 エリスが書類をヒラヒラとしながら言葉を続ける。


「これだけ貴族の証人がいるとぉ、罪は免れないわよねぇ。かわいそうにぃ」


「サワギデタマタマキテミタラ、オモワヌモノヲミツケテシマッタ。アア、コレハタイヘンダ」


 その言葉に思わずマノックは吹き出してしまう。


「ぷっ、く、くっく。バラッカ男爵、もういいですよ。それじゃあブラウン男爵を連れて行こうか。色々と聞きたいこともあるんでね」


 マノックがブラウン男爵を起き上がらせた瞬間、窓から複数の銃弾が飛び込んできたのだった。






なんとか100話まで来ました。


皆様のおかげです。


ありがとうございます!

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