外伝2
前回の外伝の続きです。
説明は前回と同じなので省きます。
「飽きるまでは殺され続けてやるからここから出せ」
今から四世紀ほども前のことである。
ある一人の科学者が、細胞自身が分裂・増殖する一方で周りの細胞の再生・活性化などを行う『万能細胞』の開発・実用に成功。
細胞の不死化は生物の不死化。
細胞が死ねば細胞は自己をを修復し、場合によっては、生存に適した形態の新たな細胞に変貌する。
夢のような細胞の誕生だった。
しかし、ありとあらゆる生物に適応できる『万能細胞』はその存在が世界に知られることを恐れたその科学者によって、廃棄処分されることが決定した。
なんと開発直後に、である。
実験に携わった人や機械、実験体などが何の例外もなく処分されたことで、何か大きな事件があったのではないかと一時は騒がれていた。
あらゆるメディアが事の真相を探り、その考察などを報道していたが、どの報道も共通して真実には辿り着いていなかった。
あるいは、辿り着いても真実を語りはしなかった。
『詳細は不明』というのが各メディアが最終的に下した結論だった。
何故生き残っていた俺の存在を報道しなかったのかは、政府のお偉いさん方の判断だろう。
というのは、少なくとも政府はあの実験の内容を知っていたからだ。
実験の成否を知っていたとは思わないが、そもそもあの実験は親父が政府に頼まれて進めていたのだから当然実験内容自体は知っていたと考えるのが妥当だろう。
知っていて、実験参加者唯一の生き残りである俺の存在を隠したということは、つまり、何かよからぬことを考えていたのだろう。
それだけは明白だった。
その後は保護と称した監禁を受け、実験の詳細を吐かせるための拷問をほぼ一日中受けた。
『実験体0000』と、そんな呼称で呼ばれていた気がする。
あんまり覚えていないが。いや、思い出したくないだけだけど。
存在の隠匿だけなら感謝しただろうが、監禁・拷問はNo,Thank You.だった。
俺は刺殺、絞殺、銃殺、撲殺など一通りの殺し方で殺されてだいぶ痛い思いをした。
後遺症が残ったらどうしてくれるのか、と俺を殺すのをやめてくれるよう頼んだが、聞き入れてもらえるはずもなく、月日は流れた。
毎日いろんな殺され方を体験させられて退屈はしなかったが、殺されるのはあんまりいい気持ちではない。
殺されて死なない身体だとしても、それで喜ぶほどどMではない。
っていうか、実験結果だけ見るならば、その結果は火を見るより明らかだったんだけど。
『死なない人間』の開発実験は大成功!
唯一の成功実験体である俺は研究に携わった人や機械、他の実験体とともに処分されても死にませんでした!
しかし、政府のお偉いさん方がそれで納得するはずもなく、どういった仕組みで俺が死なないのか、自分たちも死なない身体にするにはどうするのかを吐くまでは俺を殺し続けると宣言した。
細胞のレシピは既に失われており、レシピを知る人間も既にこの世にはいない。
自分がなぜ死なないかなんて知らないし、知っていたとしても教える義理もない。
理屈は分からないが俺の細胞を移植すれば生き物は全て不死化できる。と言うのは簡単だが、そんなことを言えば、俺を束縛する鎖が増える一方で、俺には何のメリットもない。
俺を殺し続けるという宣言に対する俺の応答とその後の拷問で、殺し続けたところで俺を殺せないことを悟った政府の人間が人質をとって実験内容を吐かせようとしたこともあった。
吐かなかったけど。まぁ、あれは人質の選択を誤ったのが失敗だったんだけど。
その後しばらくして、俺は自由の身となった。
俺と違って政府のお偉いさんは簡単に死ぬからな。
あの人たちとしては老い先短い人生だから、死なない身体をどうしても手に入れたかった、てとこかな。
どうでもいいが。
という訳で、久しぶり、といっても一年ぶりくらいに世間の目の届く場所に出た俺は、仲のよかった幼馴染や、友達その他に無事を伝えることにした。
伝えることにした。というのは、伝えようとした、ということ。
結果だけいうなら、何も、誰にも伝わらなかったけど。
幼馴染の優海をはじめ、俺の友人その他諸々は一人残らず死んでいた。
あの実験に携わっていたわけではない。
あの実験に携わっていた俺に関わっていた人間が、俺の知る限り全員が、いや、きっと俺の知らない限りの全員も死んでしまっていた。
喪失感。と言うには足りない。
というか、言葉にするには何もかもが足りない。
足りないと思うための何かも、とっくの昔に失ってしまっていたけど。