表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

外伝8

外伝の続きです。


説明は外伝1へ。

「七夕前日」


なんか気づいたら七夕前日になってたよ。


前日ってことは「ユミ」とリハーサルだよ。


顔合わせなきゃだよ。やべぇよ。


俺はどんな顔で接すればいいんだよ……。


待ち合わせ場所の小さな丘の上で一人悶絶する俺。


多分、きっと、とてもシュールだ。


リハーサルといっても、実は歌を一緒に歌うだけで、他にやらなきゃいけないこともない。


結構楽なスケジュールだ。


今朝は起こされる前に起きたし、二度寝もしなかった。


後は「ユミ」が来るのを待って、歌うだけ。


歌う曲は毎年同じもので、まだ優海が生きていた頃に、曲名が無いままネットに投稿され、わずか一日で投稿者自らが削除してしまった曲で、優海と俺は『幻の歌』扱いしている。


男女のパートに分かれているので、当時は優海と二人でよく歌っていた。


まさか、何百年も歌い続けることになるとは思いもしなかったが……。


それにしても……。


「「ユミ」のやつ、まだ来ないのか?」


流石に遅すぎる。やれやれ困ったやつだな。


人を呼び出しといて遅刻なんて。そんな風に愚痴を漏らしそうになるが、俺が言える義理でもないので、我慢する。



きっと、もうすぐ来るだろう。























「別れ」



 いつまで待っても待ち合わせ場所に現れない「ユミ」にお灸をすえてやるつもりで迎えに行った。


もう辺りもすっかり暗くなってしまっている。


昨日からずっと空は曇り模様で、月明かりも、普段はまぶしいくらいの星の光も、厚い雲に覆われていて、今は何も見えない。


視界が悪い中、丘を下り、我が家を目指す。


電気は、ついていない。


いつもなら「ユミ」が電気をつくっているので、スイッチを押せば電気はつく。


スイッチを押す。


電気は、つかない。


嫌な予感がする。


暗い廊下を進み、「ユミ」が普段寝ている部屋の前にたどり着いた。


このドアを開ければ「ユミ」がいる。


深呼吸をして、ドアをノックする。


返事は、無い。


ドアノブに手をかけ、慎重に回す。


鍵は、かかっていない。


ドアを、ゆっくり引く。


そこに、「ユミ」は、いた。


眠っているの、だろうか?


ベッドに近寄り、呼吸を確認する。


息は、していない。


当然だ。


機械なんだから。


ゆっくりと、「ユミ」の身体を揺する。


反応は、ある。か細い声で、何かを口にしている。


聞き取れない。


顔を近づける。


 『ゴメン…ネ……ちょっと……だけ…体調………悪い……か…ら……リハ……サル…中止…』


 顔と顔をくっつけるくらいに近づけて、「ユミ」の目から溢れ出す液体に気づき、ようやく聞き取れた、声。


聞こえてきたのは、謝罪の言葉。


なおも紡がれる、切実な想いのこもった謝罪。


 『……ゴ…メン…アタ…シ……ゴメ……ネ……?


お別れ……でも……ま……だ……言いたい……こと…………ある……のに……ゴ……メン』


 違う。


そんなことを言われるために、ここに来たわけじゃない。


ただ、待ち合わせに遅れた女の子を迎えに来ただけ。


別れの言葉も、謝罪の言葉も、暗闇でよく見えない顔に光る何かも、俺の望んでいたものじゃない。


 『………ここ……に…そ…ばに…い…』


〈 燃料が尽きました。 しばらくの間、緊急用バッテリーで、稼働しますが すぐに給油を、行ってください。 〉


「ユミ」の声がさらに無機質で機械的な音声に切り替わった。


部屋に備え付けてあった燃料は、全部、無くなっていた。


家中を探し回ったがどこにもそれらしきものは、無かった。


〈 給油が確認できないため、本製品は、弊社が定める手順に沿って、シャットダウン、されます 〉


〈 本製品を、長らくご使用いただき、ありがとうございました 〉


〈 起動直後に、埋め込まれたメモリーに、保存された音声メッセージを、再生します。一度しか再生されませんので、ご注意ください 〉





《 アキラ…………h…… 》





〈 音声データ再生に、必要な部品の不備、及び、音声データへ、の深刻なダメージを確認。誠に申し訳ありませんが、次の手順に移行して、データバックアップの……〉



もう、何も耳に入ってこなかった。


一瞬だけ聞こえた機械的でない声。


ひどく懐かしく。


優しい響きで聞こえた……俺の名を呼ぶ……。


あの声は……。


その後しばらくして、「ユミ」からは無機質な音声さえも出てこなくなったことに気づいた。


夜が、深くなっていく。


いっそ消えてしまえたら、どれだけ楽だろう。


「ユミ」が停止してから数時間。


そんなことばかり考えている。


死ねない。


俺の唯一といっていいほどのアイデンティティ。


その原因となっている『万能細胞』。


すべての『生物』に適応できる夢の細胞。


『機械』には、適応しない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ