死遊戯殺人 イー6
「ただいま戻りました」
署内に戻った時音がホワイトボードを見つめる影村に声をかける。
「おかえりなさいよ。それで藤井の坊ちゃんはどんな感じでした?」
「大分落ち着いていたと思います。彼の母親の方が取り乱していて、彼はそれを宥めていました」
「本当によくできたお坊ちゃんだ。それにしても第三、第四の事件の第一発見者になるとはこれは本当に偶然ですかね?」
「どういうことですか?」
「いやね。悠木 正人君は彼の親友だった。鈴村 絵美嬢とも知り合いだった。もしかしたら第一の被害者とも彼は何らかの関係があるのではないかと思ってね。まぁ今回の事件が今までと同じかはわかりませんが」
影村はホワイトボードを見つめ、今までは男子生徒への殺しの手口だったのに対して、今回は明らかに鈴木 絵美が対象になっていると判断されたのだ。
一番多くの骨を折られ、原型をとどめていられないほどの酷い死体だったと監視から回ってきている。
「家族も殺されていた件ですね」
「そうなんですよ。今までの事件は全て男子高校生だけだった。ですが、今回は女子高生を対象にしている。さらにその家族まで……」
「今回の連続殺人は、殺され方もバラバラ。共通点は男子高校生と凶器に記された文字だけいうことだけでした。なのに、今回は女子高校生が主だった。いったいどういうことでしょうね」
「まぁわかっていることは、これだけ調べても犯人を特定できていない。我々は犯人をわかっていないということぐらいですねぇ」
「とにかく情報を集めてきます」
時音はデスクを後にする。
「お願いしますよ」
時音がデスクから出ていく姿に影村が声をかける。
影村は視線をホワイトボードに戻して睨みつけた。
ホワイトボードには被害者の写真が張られている。
その横には容疑者として、藤井 直哉の写真が張られていた。
他にもそれぞれの関係者などの写真も張られているが、影村には直哉の存在が気になって仕方なかった。
「あんたは何者なんでしょうか?」
影村の独り言に答える者は署内には誰もいなかった。
登校してきた直哉の下に京がやってきた。
「直哉知っているか?」
「京はいつも突然だな。なんのことかわからないのに知らないよ」
「それもそうだ。隣のクラスの鈴村が殺されたらしいんだよ」
「えっ!どうして?」
直哉はどうして京が鈴村のことを知っているのかと驚いた。
鈴村のことはまだニュースになっていないのだ。
「何でもこの間から噂になっていた『死遊戯殺人』の被害者になったらしいんだよ」
「……そうなのか?」
「ああ、ネットで書いてあったから間違いない。マジでヤベーよ。今まで男子高校生だけだったのに鈴村って女子だぜ」
京は興奮気味に話をしているが、直哉は別のことを考えていた。
どうして昨日の事件がネットに流れているのだろうか?警察も報道に流していないのに……
「なぁ京、そのサイトってどんなサイトだ」
「おっ!やっと直哉も興味もってきたか?俺は嬉しいよ」
直哉は学校に来て、すぐに奥村に会いに行こうと考えていた。
しかし、京の話に出てくるサイト。『殺人ニュース』は世間で起きている殺人事件や過去の殺人事件の記事を載せていた。スマホでも見られるので、休み時間に確認したところ。
最新記事の欄に『死遊戯殺人』最新情報と書かれていた。
「六日十時頃、鈴村一家が猟奇的な殺されかたで発見された。その殺されかたはまるで独楽のようだった。家族は手を握り合って、足は折れ曲がり全身をロープでグルグル巻きにされて殺されていた。これまでの黒髭危機一髪やけん玉などと同じように昔のオモチャを連想させる殺され方は、『死遊戯殺人』と同一と私は考えます。今回は男子高校生だけでなく。その家族までが餌食になるという悲惨なものでした。第一発見者である私は驚きながらも、この事実を記さなければならないと思い筆をとりました」
ネットの記事を読みながら直哉は戦慄を覚えた。
この記事を書いた人物は、どうしてこんなにも詳しく知っているのだろう。
直哉より先に見つけたのならば知っていても当たり前だが、どうして警察に報告しなかったのだろうか。
直哉が考えを巡らせている内に菜月の言葉を思い出す。 奥村を鈴村の家で見たと菜月は言っていた。
これを書いたのは奥村かもしれない。直哉は奥村が第一発見者で殺人サイトの投稿者ではないかと考えた。そう考えると、第一か、第二の犯行を正人と見たんじゃないだろうか、それを鈴村に話して、鈴村も何者かの手によって殺された。だが、では奥村はなぜ殺されていないんだ。
警察では直哉が第一発見者ということになっている。
この記事を書いた者は本当に奥村なのか?それとも違う誰なのか……直哉は考えを一旦閉じ込め、放課後を迎えた教室を後にした。
「奥村さんいるかな?」
直哉は奥村のクラスにやってきていた。
入口で出会った生徒に声をかければ部屋の中にいる奥村を呼んでくれた。
「奥村さん。男子が会いにきてるよ」
クラスの視線が入口に立つ直哉に向けられる。
放課後のチャイムがなってすぐだったので、教室にはほとんどの生徒が残っていた。
「えっ!あっ、はい」
奥村が恥ずかしそうに顔を俯せて出口に現れた。
「すまん。こんな騒ぎになると思わなくて」
「あっ、大丈夫だよ」
奥村も部活に行く前だったのか、大きな長細い荷物を持っていた。
長細い鞄は天文部だと言っていたから天体望遠鏡を入れた鞄なんだろう。
「場所を変えよう」
直哉は、好奇の目に晒されている状況から逃れるため、奥村に声をかけて歩き出す。
奥村も直哉の後に続いた。直哉は人気のない場所を探して、空き部屋をみつけて入っていく。
「悪かったな」
「ううん、大丈夫だよ」
先程のやり取りを思い出して、奥村はまたも俯いてしまう。
しばし、奥村が落ち着くのを待っていると奥村が顔を上げた。
「それで何の用?」
「ああ、聞きたいことがあるんだ」
「なにかしら?」
「昨日……何をしていた?」
「昨日?昨日は部活の後輩の子と買い物に行っていたわ」
直哉は奥村の顔を見つめて、嘘をついていなか見極めようとした。
少しの動揺も見せない奥村に嘘をついている様子はなかった。
「どうかしたの?」
直哉がじっと見つめていたので、奥村は顔を赤くして戸惑い出す。
「友達って男か?」
「えっ、ううう。女の子よ。同じ天文部の小森さん。後輩なんだけど気が合ってよく買い物に行くの」
「そうか、もう一ついいか?鈴村の家に昨日行ったか?」
一瞬、奥村の口が結ばれる。
「絵美ちゃんの家?ううん。行ってないわ」
一瞬の動きだったが、直哉には奥村が嘘をついていると感じた。
「いや、それならいいんだ。部活の前に時間をとらせてすまない」
「そう?うん。もういいのよね?」
「ああ」
「そうれじゃ。部活に行くね」
奥村は何度か直哉を見返していたが、直哉が奥村を見ることはなかった。
奥村と別れた直哉は思考を巡らせる。奥村は何かを隠している。
ただ男子と会っていたいという菜月の言葉を確かめることができなかった。
もしかしたら奥村の行動を知っているかもしれないと思い。直哉は奥村が小森と呼んでいた女子に会ってみようと思った。
奥村と別れた直哉は、事件について調べるため、殺人ニュースのサイトを開いた。
『死遊戯殺人』
四人の男子高校生がオモチャを模して殺されていく殺人事件。
一人目の被害者。野崎 信也氏。年齢16歳。発見当時、樽の中に体を入れられ、顔だけが出されていた。オモチャの黒髭危機一髪に模した殺され方で、無数の剣が体を突き刺されていた。
死因は大量出血によるショック死だった。その殺され方は凄惨の一言だろう。
生きたまま樽に入れて、顔だけが出た状態で剣を突き刺していく。
苦痛に歪む顔を見ながら、犯人は何を考えていたのだろうか。一つ一つの傷は浅く。犯人がジワリジワリと時間をかけて野崎氏を殺したことが窺える。
二人目の被害者、三上 健人氏。年齢18歳。頭、胴体、腕、下肢とバラバラに切り刻まれ発見された。
身体のパーツをロープで結ばれ。それらを重ねてダルマ落としのように頭だけが体の上に立てられていた。
近くにはハンマーが置かれており、ダルマ落としを模したと思われる。
死因は撲殺。頭を殴られて殺害されていた。
殺された後に四肢を切り刻まれたと考えられ出血は多くなかった。
三人目の被害者、悠木 正人氏。年齢17歳。首を切り落とされて体を壁に杭で打ち付けられ発見された。首と胴体がロープによって繋がれ、けん玉を模していたと思われる。
死因は毒殺。毒によって殺された後に死後硬直を起こす前に体を固定され、まるでけん玉のような姿勢を作り出した。顔と胴体はロープで繋がっていた。
三件の被害者について読み終え、直哉は息を吐いた。
殺人サイトの投稿者とは誰なのか、そしてこの投稿者はここまで詳しく知っているのに、何故警察に報告しないのか……直哉はサイトを見つめながら歩き出した。
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