人差指
あんたなんか嫌いだ、そう言ってきたし、言われてきた。いつものことだった。
ほんの些細なことで喧嘩をする。いつもいつも、いつも。
喧嘩しかしてないんじゃないのって言われるくらい。あなたたち本当に付き合ってるのって言われるくらい。
付き合うとか、突き合うとか、よく分からない。好きか嫌いかと言われたら、本当は好き。
愛しているとか、そんな臭いものじゃないけれど。
その程度のものだった。けれどそんな生活でも満足していた。
だけどまた些細なことで喧嘩をした。
彼女はこっ酷く僕を罵るから、むかついて、口から出て来た。
おまえなんか嫌いだよ。そんな可愛くない子、要らない。
まさに、口が滑った。
幼い頃からの癖、人を指差して喚き散らす。
大丈夫大丈夫、言い返してくるだろう。きっとあいつのことだ。
私もあんたなんかいりませんなんて言われたらどうしよう、泣く自信がある。
いつまで経っても返事は来なくて、恐る恐る振り向いたその先で彼女が泣いていた。音も立てずに。
『私は人に好かれるよう努めてきた。要らないと捨てられるのが何よりも怖かった。』
『誰からも必要とされる人間であろうと、努力して、努力して、いろんなものを失った。』
『私は、優秀な人材になっているのかな。みんな、私を必要としてくれているんだろうか』
ふらりと後ずさりした彼女は、ベランダまでよろけながら進み、刹那、視界から消え失せていた。
ああ、また僕は大切な子をこの指で刺しちゃった。
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