第一話
少しずつ投稿していきたいな。
そこは、よくある一軒家だった。
住宅街に立ち並ぶよくあるような一階建ての家。
他の家に比べ、やや幅の広い作りをしているがそれはこの家が昔から続いているもの。
日に焼けた壁、やや塗装の禿げた屋根の塗装。それが年月を如実に語っている。
そうして、いつもにように家の外観を眺めていた僕は、目の前にある門に手をかける。
門といってもそれほど大きくもない。人が2人どうにか通れるようなものだ。
だけれど、わずかとはとても言えないその重い扉は門という言葉が、一番しっくりとくる。
ここに来始めたときは、どこか見下ろされているような威圧を感じたものだけれどそれも通いなれていく内に
自然と薄まっていった。結局俺のつまらない錯覚なのだったのだろうか。
そんななんてないことをぼんやりと考えた。
さていつも通り、お勤めをしますか。
「おはようございます、斗貴子さん」
そういって彼女がいるであろう部屋に入る。この家の間取りはすでに頭の中に入っている。玄関からの最短ルートを今日も急がず進んでいく。
相変わらず部屋の中は絶望的だ。絶望的な混沌具合だ。
「う~ん、頭痛い。」
乱雑に積まれた本と紙の山の中から声がする。その奥に黒檀を使ったかなり上等な机と椅子がある。
そして、その机の上にも当然のように本がいくつか積まれ人の姿が見えない。声は、確かにそこから聞こえた。
「風邪ひくから、寝室に行って寝てくださいって言っているでしょう。そこじゃあ、体が休まりませんよ」
そこに置かれた本を踏まないように注意深く歩いていく。
そんなにも大きな部屋ではない。だから、気を付けて行けばその机までたどり着くのにそこまでの労力はいらない。
「おはようございます、斗貴子さん。もう昼ですけど」
「ああ、うん。おはよう、黒木君」
本当に頭が重たそうに顔を上げることすらせず、その言葉も投げやりだ。
「はいはい、おはようございます。いいから、さっさと起きてください。」
「もう、なんていうかいつもの黒木君だね。優しさがほしいよ。それよりも水下さい」
「はいはい、ちょっと待っててくださいね。」
ここに水道はない。彼女に何を言ってもどうせ文句と催促以外帰ってこないのはわかりきっている。
仕方がなく隣の部屋に向かう。もう見慣れてしまった流し台の近くには、これといったものがおいてない。
最低限の食器と色違いのコップが二つだけ。
視線を右に動かせばその隣には、袋いっぱいのごみ袋が2つ。いつものように俺に捨てさせるきか。
「ほんと何て怠惰なんだ、あの人は」
ほんと、なんでだろうな。
「はあ、生き返ったよ。ありがとう黒木君」
「礼は、いいですからちゃんと片づけてください。斗貴子さんはやればできる人なんですから」
水を飲んで一息ついたのか彼女はそういった。俺としては、もっとその生活態度を改めてほしいので辛辣に返す。
「なんかその言い方、意地が悪いね。」
「意地悪ではなく、親切から言ったのですけどね。」
「うは、その親切心が痛い。」
そんなこと欠片も思っていない顔と声。説得力は、どこぞの蛇と同じように皆無だ。
この性格は、もう治らないのか。だれかどっかから来て、強制してほしい。
俺が、彼女に無言に不満が籠った視線で見つめても柳に風。暖簾に腕押し。濡れ手に粟だ。
「君には、いつも迷惑をかけるね。」
全然そんなこと思っていないでしょう、あんたは。
「笑いを押し殺して言わないでください。」
手で顔の半分が隠れているから口元はわからないが、目が。その目が緩んで笑っている。
「だが性分でね。やめられない。君とはせっかくこうして縁が続いたんだ、できれば長く続けていたいね」
「ほんとどうしてあなたは」
そんな俺の心からの叫びは、あはっははと、その後隠す気もないように大爆笑に打ち消された。