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薄暗い図書室


体育の授業は集中できない。青い空に見惚れてしまうから。


サッカーなんていつぶりだろう。


「晶!集中しろよ」

「あ、ごめん!」

篠川からパスを貰いそのままシュートを放った。あいにくボールはゴールに入らなかった。


「ドンマイ!次頑張ろうぜ!」

そんな優しい言葉をかけて貰えて嬉しい。でも次なんてあるのだろうか。失敗したら周りに失望されてチャンスすらもらえないかもしれない。


実際にため息が聞こえたから。


「晶!ぼーっとすんなよ!」

「え…あ」

またパスが回ってきた。しかし今回はシュートすら打てなかった。


「惜しいね。まだ時間はあるし大丈夫!」

僕は少し俯きながら答える。

「なんで、パスくれたの?僕より上手い人いるじゃん」

「それはまた後で話そうか。今はサッカーに集中しよ」


彼はそう言ってボールを追いかける。僕はただ突っ立って傍観してるだけ。でもあんなふうに取り合いをするのは気が引ける。


そのまま何もできずに試合が終わった。チームは勝利した。僕は歓喜の輪に入らずそのまま静かな更衣室に戻った。


「晶。話の続きしよっか」

二人きりの更衣室に篠川の声が響く。

「なんで、パスくれたの?」

近づいて肩を組まれる。


「友達だからよ。それに信頼してるから。結果なんてオマケみたいなもんだよ。挑戦した事が晶にとっての成長なんだよ」


「でも!」

「でもはなし。もっと自信をもっていいんだぞ。失敗してもいい。逃げてもいい。ただ自分を卑下しないで。応援してる」


カラスの鳴き声が空に響く。


放課後になって人の気配がしない図書室に向かう。


図書室までの廊下は静まり返り夕焼けに照らされている。


ドアをそっと開けて入ると。椅子に座ってソワソワ待ってる瑞穂さんがいた。

「あ、来た」


彼女は嬉しそうに立って僕に近づく。

「こっち来て」

僕は言われるままに彼女の隣に座った。


「渡したい物があって…」

何だろう。期待と不安が入り混じって、胸がドキドキする。袖の裾をぎゅっと握ってしまう。


彼女が鞄から出したのは一枚の紙だった。

「英語と数学、私が教えるから、しっかり覚えて。まず、この問題解いてみて。分からなかったら質問して」


口調は優しい。しかし彼女の目は笑っていない。

「はい」

返事はそれ以外無かった。


少しだけ期待してしまった。視線を紙に落とす。


(次の( )内の動詞を適切な形にしなさい)


これは分かる。スラスラ問題を解く。彼女は満足そうに頷く。


(ate)


(went)


(saw)


(took)


(came)


僕は得意げにペンを置く。

「丸付けするね」


ペンの音が気持ちよく眠くなる。

「満点…凄いね」

「えへへ。そうでしょ」


案外簡単だな。

 

彼女はニッコリと笑って紙を裏返す。

「次は数学」

「楽勝楽勝!」


AB=ACの二等辺三角形で、点Cから辺ABに垂線CDをひき、点Bから辺ACに垂線BEをひく。このときDC=EBとなることを右のように証明した。空欄にあてはまる適切な数や語句を記入して証明を完成させなさい。


僕の思考が停止した。ペンを持つ手は震えて何も書けない。

「分からない?」

「うん。分からない…」


彼女は少し体を寄せて三角形を指差す。

「これは共通な辺だからBC=BCになる。二等辺三角形の二つの底角は等しいから。∠BDC=∠CEBになるよ」

(別に証明しなくても同じに見えるけど…)


「分かった?」

「うん!何となく!」

彼女は少し不満げに笑う。

「何となくじゃ駄目だよ。また今度教えるね」


僕は席を立って体を伸ばす。

(ん〜疲れた…)


「ねぇ…今日は黒川くん頑張ってたから…これ…」


彼女は丁寧に折りたたまれた、一枚の紙を差し出した。彼女の手はほんの少し震えている。

「家に帰って…読んで」

「え、嬉しい!ありがとう」


手紙を受け取って見つめる。少ししわがあり書き直した形跡がある。


「これは…秘密だから…誰にも話さないで」

少し彼女の目元に隈ができてる。


「うん…分かった」

手紙をポケットに入れる。夕焼けがカーテン越しに刺さる。薄暗い図書室に二人取り残された。


「先に帰るね」

ゆっくり振り返った彼女の顔は右側は照らされていて、左側は影で暗い。ほんの少し微笑んだように見えた。


「また明日」

彼女は足早にこの場を立ち去った。手紙を見たい衝動をぐっと堪える。スキップしながら窓際に向かいカーテンを勢いよく開ける。


夕日が傾き地平線に落ちかけている。沢山の家が影になって大通りを暗くしてる。


窓に反射する自分の顔は、自分でも分かるほど幸せに満ちている。


夕日を見つめながら言った。

「綺麗だな…」

溢れた言葉は図書室に響いた。


いつもならドアを閉める時何も感じないはずなのに今日だけは少し寂しく感じた。


そして帰り道。完全に夕日は地平線に隠れて夜が訪れた。


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