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入学式


入学式

「もう高校生かよ…早いな」

「そうだよな〜なんかあっという間だったよな」


俺の名前は黒川晶くろかわ しょう

普通の高校生だ。

隣にいるのは友達の篠川ささがわ


新しい制服は少しダボダボで新品のいい匂いがする。


「瑞穂様だ!」

「今日も美しい…」


黄色い声がする先は一人の美しい少女がいた。

瑞穂千紗みずほ ちさ

中学校から品行方正な人で学業や運動にも優れていて男女問わずに人気者だ。


「やっぱり違うよな、瑞穂さんって人気者のオーラがあるよな…」

「そうだな」

同じ学校でも違う世界に住んでいる。ずっとそう感じてきた。


僕が接して良い相手ではない。


「春なのに寒くね?カイロ貸してよ〜」

「仕方ないな、ほらよ」

「おっ、サンキュー」


人集りを抜けて教室に向かった。

「今年も同じクラスやね〜」

僕は少し苦笑いする。

 

「あと…瑞穂さんとも一緒だぞ、良かったな」

「それは興味ない」

「へぇー本当かな?」


「俺なんかが瑞穂さんに似合うわけないだろ」

「それもそっか〜」


するとざわめきの中から瑞穂さんが現れた。教室に入って来ただけで全ての目線が彼女に向けられる。


サラリと伸びる黒髪に制服の着こなしも完璧で優等生の模範解答みたいな姿だ。


彼女はなぜが僕に近づいてくる。

「おはようございます。黒川さん」

挨拶をしてすぐ彼女は自分の席に向かった。いきなりの出来事に教室は静まり返る。


「あの?瑞穂さんが…」

「うそ…付き合ってるのかな…」

人の声はだんだん大きくなる。


「なぁ…晶…嘘ついたのか?」

「嘘は言ってない」

友達は席から立つ。

「羨ましいよ〜俺も挨拶されたいよ〜」


「子供かよ、それにただの挨拶だぞ…社交辞令みたいなものだろ…」

「それでも高嶺の花だそ。ちぇ…俺は女子に話しかけられたことすらないのに…」


「まぁ…中学校では男女仲悪かったもんな」


先生が教室に入ってくると教室は静かになる。

「まずは入学おめでとう。それで――」

ダラダラ話す先生の話しは耳に入ってこなかった。


「ねぇ…黒川くん。先生の話聞いてた?」

「あ、ごめん!聞いてなかった」

「もう!今から委員を決めるんだから…」


瑞穂さんの隣の席だった。不意に彼女の甘く良い匂いが漂う。


彼女は女子のグループに戻って委員を決めていた。

 

まぁ…彼女なら学級委員になるだろう。

「晶は何にするの?」

「僕は…目立たない図書委員にするよ…」

「俺は学級委員だぜ!きっと瑞穂さんと一緒だからな!」



僕は図書委員の希望した。

ほぼ同時に彼女も紙を提出した。


「学級委員は丁度二人か…前に出て自己紹介お願いします」


「私は鶴巻柚夏です!これからよろしくね」

「僕は…篠川です…よろしく…」


「はい。学級委員長になった2人に拍手!」


あれ、瑞穂さん学級委員にならないんだ。隣の席にいる彼女は意味深な笑みを浮かべてこちらを見つめている。


僕は知らんぷりして友達を見つめる。

「えへへ…篠川くんよろしく〜」

「え…あ…よろしく」


(なんだ、女子と仲良くできるし良かったじゃん)

「今日の放課後に委員の、集まりあるから各委員は場所に集まるように」


帰りのホームルームも終わり、ようやく解放された。

「晶…瑞穂さん…学級委員じゃなかった…」

「まぁ…そう悲しむなよ…」


例の女子が篠川に話しかける。

「篠川くん、一緒に集まり行こっか!」

「うん!行く!」


友達の泣きそうな顔も一緒でパァと明るくなった

 

チョロいな。


「瑞穂!一緒に帰ろうぜ!」

鞄を整理している瑞穂さんに三人グループの男子が話しかけた。


彼女は男子を無視してこちらに来た。

「悪いね」

そう言って僕の裾を引っ張ってきた。


「一緒に行こ…」


瑞穂さんが恥ずかしそうにしていた。

ほんの少しだけ胸がドキッとした。


「え、瑞穂さんも図書委員なの?」

「うん。黒川くんが…するって言ってたから」

「そうなんだ。一緒に行こっか」


僕はあくまでたまたまだと思い込ませる。震える右手を抑えながら。


笑みを浮かべそうだったが唇を噛んで我慢する。


彼女は遠くを見つめていた。


図書室で先生や先輩にパソコンの操作など教えてもらい明日から当番が始まるらしい。


「どうする?かわりばんこにする?」

「黒川くんはそっちがいいの?」

「かわりばんこの方が良いと思うよ。そっちの方が君も楽じゃない?」

彼女は少し残念そうにしたがすぐに笑顔で頷いた。

「うん…そっちの方が合理的だね」




「千紗!一緒に帰ろ〜」

「うん…待ってて」


彼女はカバンを持って走り去った。

「また明日」

ドアの隙間からそう言って今度は足音が遠くなった。


「晶は羨ましいよな〜瑞穂さんと仲良くできて」

帰り道で友達と寄り道しながら帰宅する。

「あのな、こっちの緊張感半端ないからな。オーラって本当にあるんだな…それに友達みたいな仲のいい感じではないからな、勘違いするなよ。それでそっちはどうなの?」


「凄い鶴巻さん親切だった。仕事の半分以上も受け持ってくれた」

何となく状況が思い浮かぶ。


 

「また明日」


玄関を開けた途端に何かが焦げた匂いがする。

「晶、おかえりなさい!ご飯できてるからね〜」

「また焦がした?」

「そ、そんな事ないわよ。手洗いうがいちゃんとしてね」


そそくさと母はリビングへ戻った。僕は手を洗い荷物を自分の部屋に置いた。


「今日は学校どうだった?」

「まぁ…楽しかった。でもうん…違和感あるかも…」

 

「大丈夫よ。そのうち慣れるわよ」

口の中に苦い味が漂う。

「そうだといいね」


母さんが不器用なのは仕方ない。

だって父さんが日頃から家事をしてたから。


「お風呂沸いてるからね」

「はーい。すぐ入るね」


湯船に浸かると全ての緊張がほぐれて肩の力が抜ける。


「不思議だな」

今までまともに女子と話してなかったからかもしれない。


まだ体から湯気が立ち上るなか部屋に入る。


明日の準備をしてベットに横たわる。


「おやすみ」

友達にメールを送り深い眠りについた。



緊張で全く眠れなかった。

 

「鶴巻さんからおはようのメール来てすっごく嬉しい!」

朝からハイテンションな彼はどんな神経してるのだろうか。

「関係進むの早くね?もう連絡先交換したの?」

「うん!向こうからしよって言ってたから」



もしかしたら…瑞穂さんからも。いやいや何を考えてる。そんなのあるわけないだろ。

 

教室に入ると鶴巻さんと話していた瑞穂さんがこちらを向いて笑いながら挨拶する。

「黒川くん、おはようございます」

「おはよう。今日は僕が図書当番するね」

「ありがとう」



「鶴巻さん!おはよ!いい天気だね!」

「ふふ…篠川くんは今日もお元気ですね…」

「鶴巻さんのメールのおかげで元気だよ!」

「私には有り余るお言葉ですよ…」


余裕を見せてる彼女だが耳が少し赤くなっている。まぁあいつは気づかないけど。視線を外に向ける。


「あーい、みんな席座れー。ホームルーム始めるぞ」


先生が教室に入ると空気が一変する。瑞穂さんも先ほどの笑顔とは程遠い顔をしている。


授業中も隣が気になって時々見てしまう。そんな様子に気づいたのか瑞穂さんが少し口を開いた。

 

「こっち見ないで集中出来ないから」

「あ…ごめん」


少し浮かれすぎたかもしれない。指が震えてノートに上手く字が書けなかった。

 

何とか昼休みまで乗り切った。でまだ半日しか経っていない。


先が思いやられる。この先大丈夫なのだろうか。


僕はご飯を急いで食べて図書室へ向かう。図書当番を忘れるところだった。


鍵を開けて入る。冷たい空気が充満している。椅子に座りパソコンを起動する。


委員の仕事中は本などを読んでいいらしい。家から持ってきた小説を読みながら時間を潰す。


「ねぇ…」

目の前に突然現れた瑞穂さんを見て驚きで体が跳ねる。

「わ!……びっくりした…」

「そんなにびっくりする?ところで何してたの?」


彼女は何のためらいもなく隣の椅子に座る

「誰も来ないから本読んでた」


「この小説、知ってる」

「そうなの?たくさん本読むの?」

「そんなに読まないかな…時々ぐらい」

適当に相槌を返す。話の内容は全く入ってこない。


気まずい沈黙に耐えられない。この空気が一番苦手だ。


「…それに当番じゃ…ないのにどうして来たの?」

「来たくなった。それだけ」


何だよそれ…そう心の中で悪態をつきながらも笑みが溢れてしまう。

「次からは来なくていいよ。もっと自分の時間を大切にしないと」


彼女は不満そうに頬を膨らませる。

「…私との時間は要らないってこと?」

「そういうわけじゃ…ただ僕よりも面白い人とか楽しい人とかいるし…」

「黒川くんより面白い人いないと思うけどね」


彼女の表情は少し曇っていた。


手は少し震えている。慰める言葉も言い換える言葉も見つからない。ただ後悔だけが頭を支配する。


彼女はそっと椅子を立って図書室から出ていった。隣には彼女の残り香が残っていた。


伸ばした手があまりにも惨めだった。


ドアを少し見つめた後手元にある小説に目を戻した。ただ読んでいるふりをしていただけだった。


僕は気にしてない。そのはずなのに彼女を追いかけたくなる、何度もドアの方を見つめてしまう。


「ちゃんと謝らないと…」


僕は放課後人が少なくなって彼女に話しかけた。少しキョトンとした彼女の表情に悲しみが混じっているように見えた。

「ごめん。昼休みの時…言い過ぎた。君が嫌いとかじゃなくて…ただ…どうしたらいいか分からなくて」


少し間が空いて彼女は胸を抑えて安心した様子を見せる。

「よかった…安心した」


今にもへたり込みそうな様子に心配になる。オドオドする僕に彼女は優しく微笑む。

「大丈夫だよ。ただ安心しただけだから。帰り道気を付けてね」


彼女は友達と話しながら曲がり角に消えていった。


「何かあった?」

「特に」


一番面倒くさい奴に見られていた。


はぁ…。ため息をつきながら靴を履き替える。

「まぁ今日は奢ってやるからよ。話聞かせろよ」

「よし全部話す」

「単純やな…」


飲み物が落ちる音が公園に響く。

缶ジュースを握りながら他愛もない話をしたり彼の自慢話を聞いた。

「良かったじゃん、仲直りできたんだろ」

「勘違いはなくせたかな…」

「一歩前進ってとこか?」

「まだ何も始まってないし。早とちりするな」


なんやかんやでこいつと話すのが一番楽で気を遣わない。でも瑞穂さんと話すのも別の楽しさもあるし緊張感もある。


彼が拳を突きだしてきた。意味を理解してそっとグータッチを交わした。


「もう暗いし帰ろうか」

街頭に照らされる時にふと思い出した瑞穂さんの笑顔。


少し考えて息を吐いた。どうせ気のせいだ。明日にはまたいつもの感情に戻るはず。そう思い込ませた。

毎週木曜日の午後7時に更新です。

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