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駄作の傑作 - 俺が書いた物語に転生したんだが……  作者: 日和秋彦
第1章 404エラー

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第三話「 魔法って思ってたのと違うんだけど」

 美少女が二人。

 普通の主人公なら、諸手を挙げて喜ぶ光景だ。

 だが俺にとっては違う。こいつらは歩く黒歴史だ。

 2026年の過ち。体裁を整えるためだけにAIで生成した、『設定』だけの存在。


 理由は単純だった。

 キャラが薄いと読者に飽きられる。個性が強ければ愛される。当時の俺はそう考えた。


 問題は、今の俺が読者じゃないってことだ。

 俺は『観測者』になっちまった。


「あんたの情けない募集の張り紙を見たけど、まあ安心して! あの文章を書いたのがあんたなら、仲間に入れてあげる」


 は?

 今、さらっとディスられたか?


「……まあ、書いたのは俺だが……え、それだけ?」

「完璧よ!」


 聞く耳なしかよ。

 彼女はバッと大仰なポーズを決める。

 周囲の風が収束し、杖へと吸い込まれていく。魔力吸収か? それとも触媒か?

 どちらにせよ、素人じゃない。


「俺は……」

「大丈夫ですか?」


 フユネが顔を覗き込んでくる。


「いや……うん。花摘みのクエストだ。報酬はパン二個。どうだ、乗るか?」

「えーっ、つまんない! 私の魔法なら花ごと全部吹き飛ばしちゃうわよ!」


 頬を膨らませて駄々をこねる。癇癪持ちか。

 だが、金には勝てないらしい。


「でもまあ、お金は必要だし……いいわよ! やってあげる!」

「うむ」


 ユミヅキが頷く。


「退屈で、動かず、訓練にもならず、剣を握る時間すら無駄になるが……」

「が?」

「悪くはない。普通はヒキガエル退治とかだ。新鮮だな」


 こいつら、事態を悪化させる気満々じゃないか?

 だが、選択肢はない。


          ***


 フユネは『ヴェンタラス』の女神を崇める街、ヴェンタリスの出身だという。

 箱入り娘生活に嫌気が差して飛び出したらしい。

 通ってきた道の名は『キャンディ街道』。

 蟻の災厄パンデミックが通り過ぎ、その跡が偶然にも完璧な舗装路になったという、あの道だ。


 一方、ユミヅキは寡黙だ。

 だが故郷は重要だ。『通貨としてのパン』の生産地。世界に四つしかない製造都市の一つ。


 ふと、疑問が浮かぶ。

 彼女が大事に袋に入れているそのパン。普通のパンと何が違う?

 どうやって真贋を検証するんだ?

 硬くなったり、カビが生えたりしたら価値は暴落するのか?


「ねえ、コモリ」


 町長の家へ向かう途中、不意にフユネが口を開いた。


「何がきっかけで、私たちと組もうと思ったの?」


 少し考える。

 嘘をついてまで仲良くするタイプじゃない。TRPGでも誠実プレイを貫いてきた。今さら変えるつもりもない。


「腹が減って死にそうだ。そのパンが完璧に見えた」

「それだけ? 変な奴」


 前を歩くユミヅキが同意する。

「急な襲撃に備える」とか言って先頭を歩いているが、真昼間で人通りも多い。

「念のため」と言ったきり、無言だ。


 ……。


 長い徒歩移動の末、町長の家に到着した。

 屋敷というよりは、湖畔の小屋だ。それでも、この村で一番マシな建物だろう。


 川のほとりには『ソリドロンの花』。

 光と水を吸って蒸気を吐く。料理の熱源として使われる草だ。

 こんな設定、俺が入れた覚えはないんだが。


「自然状態では蒸気を出さない。だが金属を近づけると分泌を始め、無限に使える」


 ユミヅキが解説する。妙に詳しい。


「革とパンの村で?」

「花は希少だ。ピザに使うために王都へ輸出される」

「ピザ?」

「王都から来たと思ってたんだがな。なぜか『勇者』を名乗る連中はいつもここに来て……手ぶらで帰っていく。お前もそうすると思ったが、違うらしい」


 じっと見つめてくる。値踏みする目だ。

 以前にも勇者はいたのか。たぶん、家に帰る執念が足りなかったんだろう。


「違うな。お前は逃げ出すような顔をしていない」


 王都のことや、自称勇者たちのことをもっと聞こうとした。

 ふと横を見る。フユネがいない。

 見回すと、川に入って足を水に浸していた。


「フユネ……おい、さっさと行くぞ。寒いのに、なんで水に入ってんだ?」

「んん?」


 その時、ドスンと足元が揺れた。

 地鳴りだ。


「敵襲!」


 フユネが湖から飛び出し、杖を構える。真剣な顔だ。

 俺も振り返り――認識した。


 熊だ。

 刃物のような爪を持つ、白いグリズリー。しかも速い。

 俺は即座にユミヅキの背後に隠れた。


「ただのクマじゃないか、コモリ。なんで大騒ぎする?」

「ここの誰よりデカいだろ!」


 俺は小屋の中に滑り込んだ。

 そして、開け放たれた窓の下に身を潜める。

 情けない? 知ったことか。あんな化け物、俺には無理だ。

 それに、彼女たちならやれる。


「ユミヅキちゃん、私に任せて!」


 フユネのローブが舞い上がる。


「任せる」


 ユミヅキは切り株に腰を下ろし、空を見上げた。

 本気か……? これが日常なのか?


 フユネの杖から光が溢れる。


「さあ、覚悟なさいクマさん! シタガキ最強の風使いを前にしたことを後悔させてあげる!」


 詠唱か?


「来なさい、真昼の私を涼しくしてくれるそよ風よ! その特徴的な嵐を引き連れて! ああ、そして何より、私の心を穏やかにし、頭をスッキリさせる新鮮な空気を運んできて!」

「『嵐のテンペストラー』!」


 長えよ!

 青い風が収束し、巨大な槍となって放たれる。

 直撃コースだ。


 だが、熊は槍を爪で掴み、軌道を逸らそうとした。

 避ければいいだろ。

 いや、熊に理屈は通じないか。


「グオオオオオオオオッ!」


 咆哮。

 だが無駄だ。槍は熊を貫いた。


「敵性体、撃破完了!」


 フユネがポーズを決める。

 背後で爆発音。森が揺れる。衝撃波はギリギリ届かなかった。


「涼しい風をありがとな」

「どういたしまして!」


 俺は小屋から這い出し、ボロ雑巾になった熊を見た。

 馬鹿げている。俺はこんなものに怯えていたのか?

 いや、俺には魔法も剣もない。これでいいんだ。


「あれが……風魔法か?」

「その通り! 圧縮した風に魔力をブーストさせたの! 我が家の十の秘儀の一つよ!」

「十個もあるのか?」

「九つは攻撃用。一つは洗濯乾燥用。冬場に便利なのよ」

「一番恐ろしいな」


 ユミヅキは熊を無視して、花を切り取り始めた。

 繊細な手つきだ。

 俺も腹を括るしかない。これが俺のパーティーだ。パンのためだ。


「暴発はしない」


 不意にユミヅキが言った。


「フユネは騒がしいが、無鉄砲ではない」

「ちょっと! 悪口?」

「事実だ。暴発するなら、私たちは死んでる」


 慰めになってない。


「で、これは……問題にならないのか?」


 俺は熊を指差す。


「町長の家の横で死んでるんだぞ? 誰か来るだろ」

「なんで? 今までも平気だったし」

「もし聞かれたら?」

「フユネが『やりました』と言うだけだ」

「誇りを持ってね!」

「……その後、怒られて終わりだ」


 俺は顔を覆った。

 設計ミスだけじゃない。この世界、倫理観もバグってる。

 ああ、全部俺のせいだ。うん。


「わかった……」


 俺は汗を拭った。


「俺は心臓発作で死にかけた。お前らは退屈で死にそうだ。さっさと終わらせよう」

「賛成! 次のクマちゃんが出る前にね!」

「そういうこと言うな」

「なんで?」

「俺の運だと、次は空を飛んでくる」


 ユミヅキが一瞬だけ顔を上げた。


「効率的だな」


 間違いなく、そうなる。


---


 依頼を達成した。

 自慢じゃないが、鞄の中には二つのパン。

 上出来だ。うん、間違いない。


「……これで終わり、ね」

「終わりって?」

「パン、手に入ったし……」

「それで?」

「その……もう、用済みかなって」

「フユネ。このパンは俺だけのものじゃない。チームの報酬だ。三人で分けるものだろ」


 彼女は少し考え込む素振りを見せた。

 それから窓の外へ視線を逃がし、小さく息を吐く。


「……ただ、言ってみただけ。つまり……ううん。……本当に、このまま一緒に?」

「ああ。俺は臆病だからな」

「何が怖いの?」

「……熊、とか?」


 我ながら苦しい言い訳だ。

 だが、彼女たちを手放したくないのは本音だった。

 結局のところ、彼女たちがいなければ俺はどうなる?

 力もない。魔法もない。今の俺には、彼女たちにすがるしか生きる術がないのだ。

 ……今のところは、だが。


 フユネの様子がおかしい。

 いや、悪い感じではない。

 さっきまでの騒がしさが嘘のように、今はしおらしく俯いている。


 ――何があっても、俺はそばにいる。

「約束、だよ?」

「ああ。約束だ」


 口にするのは容易いが、果たすのは容易ではない。

 だが、あがいてみるつもりではいた。

 自殺行為? そうかもしれない。だが、これは勇気だ。


     ◇


 ギルドを出て、俺たちは歩き出した。


 何をするかだって?

 拠点探し――マイホームの購入だ。

 手持ちの『パン』さえあれば、それなりの物件が手に入るはずだ。


「あれがいいっ!」

 フユネが声を張り上げる。

「……それ、もう五軒目だぞ」

「だってぇ、どのお家もすっごく可愛いんだもん!」

「俺には全部同じに見えるが」

「それは……っ!」


 彼女はむすっと頬を膨らませ、腕を組んだ。


「コモリさんは、芸術ってものをかいしてないわね」

「俺が求めているのは効率だけだ」

「ほら、やっぱり!」

「その通りだからな」


 結局、俺たちは簡素な物件で手を打つことにした。

 いや、「簡素」という言葉では生温いかもしれない。

 街から少し離れた、名もなき小さな森の中にポツンと佇む一軒家。

 モンスターも出なければ、害虫もいない。

 隠れ家としては完璧な立地だ。……ただ一つの点を除けば。


「パン二つだ」

「パン二つだって!?」

「土地は最高なんだ、これ以下には負からねぇぞ!」

「……分かった。パン二つだな」


 俺は震える手で、鞄から二つのパンを取り出した。

 俺の、貴重な……。

 断腸の思いでそれを手渡すと、男は満足げに立ち去っていった。


 こうして正式に、俺たちの家が手に入った。お値段、パン二つ。

 まさか人生で最初の不動産購入の対価が、小麦になろうとは誰が想像しただろうか。


「悪くない」

 それが、俺の口癖になりそうだ。


     ◇


 ユミヅキが外に出た。


「コモリ」

「なんだ?」

「ありがとう」

「……何がだ?」


 彼女は星空を見上げていた。

 手頃な岩に腰を下ろし、その傍らには杖が立てかけられている。


「家をくれたから」

「俺たちが、手に入れたんだ」

「?」

「俺はクエストを見つけただけだ」

「うん。だから、言ってるの」

「だが、お前がいたから達成できた」

「あ……」


 十分ほどして、ユミヅキが戻ってきた。

 その手には一本の縄。引きずられているのは――豚だ。

 俺と同じくらいのサイズだが、重量は遥かに上だろう。

 それを彼女は、まるで空荷のように涼しい顔で引いている。


『食料確保、か』

 と、俺は思った。


 そういえば、今日は一日何も食っていなかったことに気づく……。

 手持ちの唯一の通貨も、寿命は残りわずかだ。

 なんと嘆かわしい。

 腐る金なんて、破綻した経済だ。

 ……俺のせい、なんだが。


 そうして俺たちは、星明かりの下で過ごす。

 夜空を見上げれば、そこには巨大な惑星の影がうっすらと浮かんでいた。


 だが、勘違いするなよ!

 あれは『月』だ! そう説明されたんだから間違いない。


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