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駄作の傑作 - 俺が書いた物語に転生したんだが……  作者: 日和秋彦
第1章 404エラー

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第十一話「逃れえぬ旅路」

 冒険者ギルド。

 その喧騒の中に、彼女はいた。


 サラだ。

 いつものように、受付カウンターの奥に佇んでいる。


【おはようございます、勇者様。こんな朝早くからどうされました?】

「おはよう、サラさん。馬車が必要なんだ。どこかで手配できないかな? レンタルでも何でもいい。とにかく急ぎで頼みたい」


 彼女は書類の束を取り出し、デスクの上でトントンと揃えた。


【ええ、ありますよ。……ですが】


 出たな、「ですが」。

 この世界における逆接の接続詞は、俺の経験上、ろくな結果を招かない。


「その言葉、この場所だと『在庫がない』とか、そういうお決まりのパターンに繋がるんだよな……」


 俺がぼそりと呟くと、サラは苦笑しながら手を振った。


【いえ、説明不足でしたね。馬車自体はあるんです。ただ、どれも使用中でして。空いている三台に関しても予約済みなんですが、ちょうどその三台が『剣の都ブレイドリング』へ向かう護衛を必要としていまして】


「ブレイドリング? 王都に近い場所ですか?」


【いいえ。ですが……もし彼らの革の輸送を手伝ってくれるなら、馬車一台と馬を数頭、報酬として提供してくれるそうです。最近、革を狙った略奪が増えていて、向こうも馬を持て余している状況らしく……この依頼、受けますか?】


 俺はふと横を見た。

 冬音。

 そして、弓月。

 二人は顔を見合わせ、嬉しそうに頷いている。


「分かりました。受けます。何か条件は?」

【荷物を積みすぎないこと。それだけです。あと、街道の防衛を万全にするために、各々が別々の馬車に分乗していただく形になります】

「なるほど……。出発はいつ頃の話で? 今日ですか? 明日?」

【馬車が到着するのは一週間後です。準備期間としては十分でしょう。ギルド裏の雑貨屋に行ってみてください。旅に必要なものは大抵揃っていますから】


 俺は頷き、二人を連れて裏手の店へと向かった。

 本来なら広大な庭園となるべきスペースに、巨大な露店が鎮座している不思議な空間だ。

 人口わずか百五十人の村にしては、不釣り合いなほどの品揃えだった。


「らっしゃい! 若いの、旅だね!?」


 店主の親父が、ニカッと笑って声をかけてくる。

 なぜ分かった?

 これが商人としての嗅覚というやつか。


「ああ。旅に使えるものを頼む」


 親父は山ほどの道具を勧めてきたが、俺が選んだのは必要最低限のものだけだ。


・干し肉 ×10

・水筒(水入り) ×10

・黒のフード付きマント(ちょうど切らしていた)

・ダガー(速攻用にあると便利だ)


 これだけ買っても、代金はわずかパン切れ一つ分。

 商人が持つ特殊な保存袋のおかげか、パンは常に焼きたてのように柔らかい。この世界の通貨価値と保存技術への疑問は、パンの旨さと共に飲み込むことにした。


「それと最後に……こいつは任意だが、おすすめだ」


 親父が差し出したのは、小さな鈴だった。


「小型の魔獣や、好奇心旺盛な低級精霊を追い払う効果がある。ま、絶対の勝利を保証するもんじゃないがね」

「そんなに頻繁に出るのか?」

「あるべきでない頻度でな」


 俺は溜息を一つつき、その鈴を受け取った。


     ◇


 一週間が過ぎ、ついに馬車が到着した。

 窓の外に目をやると、空はまだ夜の色を残している。

 おそらく、午前五時といったところか。


「コモリくん、まだなのー?」


 冬音の声が、立ちながら微睡みかけていた俺の意識を引き戻した。


「まだだ。馬の状態をチェックしなきゃいけないからな」

「そっかぁ。長くかかる?」

「場合によるな。蹄の手入れが必要なら長引くし、そうじゃなければすぐだ。不確定要素が多い」

「うへぇ、あんなことよくやるよねぇ」

「それが彼らの仕事だ、冬音。そのおかげで俺たちは移動できる」

「あーあ、コモリくんがあのコウモリを飼うの許してくれてれば、空を飛んで行けたのに!」


 俺はジト目で彼女を見据えた。


「夜行性のコウモリを使って昼間に移動するのは非効率だ。それに、あんなモノを連れ歩くわけにはいかないだろ。何より一番の問題は、冬音、お前が自分でそのコウモリを殺したってことだぞ」

「もうっ! コモリくんてば無理ばっかり言う!」

「俺は合理性を説いているだけだ」

「ありえないくらい合理的だよね!」


 減らず口を叩く彼女の頬を引っ張って黙らせようとした時、三人の人影がこちらへ近づいてくるのに気づいた。


「おはよう。貴方たちが、もう一組の護衛役ね? 今回ご一緒させてもらう『ストーム・ブレイク』よ」


 声をかけてきたのは、緑色の髪と瞳を持つ女性だった。

 背丈は俺と同じくらい。彼女がリーダー格だろう。


「ああ、おはようございます。……俺たちが『それ』です。何か問題でも?」

「いいえ、何も。ただ、パーティ名も名乗らないグループなんて珍しいと思ってね」


 俺はポリポリと頬をかいた。

 確かにパーティ名はまだ決めていない。義務ではないから放置していたが、対外的な信用という意味では失敗だったか。

 名無しの集団なんて、胡散臭がられて当然だ。


「私はリリセル。Cランク冒険者で、前衛指揮と支援魔法が専門よ」

「どうも、リリセルさん。俺はコモリ。こっちが仲間の……」


 俺が一歩下がり、二人を紹介する。


「冬音だ! ベンタリス出身、シタガキ最強の風魔法使いだよ!」

「弓月。……剣姫、です」


 二人がそれぞれのスタイルで名乗る。

 リリセルの隣には、蜂蜜色のショートヘアに琥珀色の瞳をした少女。腰にはショートソードを佩いている。

 そしてその後ろには、肩まで伸びた茶髪を揺らす、杖を持った筋骨隆々の男。


 その男が一歩進み出た。


「俺はエンリック。ランクはAだ。剣と回復魔法を扱う魔法剣士で、後衛を担当する」


 そして最後、頑なに近づこうとしなかった少女が、俺を睨みつけながら不承不承といった様子で前に出た。


「……リリ。剣士。Aランク」


 俺は二回ほど瞬きした。

 あまりに素っ気ない。というか、明確な敵意がある。


「リリ……さん? 何か怒ってます?」

「別に。ただ……ねえリリセル! やっとの思いで勝ち取ったクエストなのに、なんでこんな男に……あー、その、邪魔されなきゃいけないわけ!?」

「リリ、支離滅裂よ。深呼吸して」

「だって不公平じゃない! 私たちはずっと旅をしてきたのに、ポッと出のコイツが同じ仕事を受けるなんて……!」


 彼女の言い分はもっともだ。

 実際、戦闘になれば俺の仲間たちが大半を片付けることになるだろうし、俺自身は大した役には立たない。

 肯定してやりたかったが……ここで余計なことを言うと拗れそうなので、俺は口を噤んだ。


「問題なのは、コモリ君ってこと?」

「違うわよ、ただ……」

「彼の仲間については文句がないみたいだし」

「でも、コイツはリーダーでしょ!? とにかく、私は絶対に認めないから!」


 リリは捨て台詞を吐いて、馬車の方へと去っていった。


「ごめんなさいね。あの子、孤児院での辛い過去があって……どうやら最大のトラウマの原因が『黒髪の男』だったみたいなの。今、確信したわ」


 リリセルがあっけらかんと言うものだから、俺はポカンとしてしまった。

 黒髪の男、ね……。


 なるほど、すべての辻褄が合った。

 あの眼差し。声のトーン。

 理不尽なまでの敵意。


「気にしないでください、リリセルさん。事情は察しました」

「ふふ、従順な男の子って好きよ」

「……え? その形容詞、文脈に合ってます?」

「あら? 『従順』って言っちゃった? ごめんごめん、今のナシ。『包容力がある』って言いたかったの」


 俺は安堵の息を吐いた。

 それならまだ分かる。


「心配しないで。貴方ならきっと彼女とも上手くやれるわ。ただ……自分を偽ることだけはしないでね? あの子、嘘つきが大嫌いだから」

「自分以外の何者かになるつもりはありませんよ。それが俺のモットーなんで」


 彼女は満足そうに微笑んだ。


「おーい! 馬の準備できたぞー!」


 厩舎の担当員が声を上げ、馬たちを馬車へと繋いでいく。

 俺は先頭の馬車へと案内されたのだが――


 扉を開けると、そこには腕を組んだリリが座っていた。


 ああ、クソ……。マジかよ。

 よりによって同じ馬車か? なぜリリセルさんの方じゃないんだ。


 冬音は右の馬車へ、弓月は左の馬車へと乗り込んでいく。

 俺は逃げ場を失い、リリから一番遠い隅の席へと腰を下ろした。できることなら、このまま地面に埋まってしまいたい。


「チッ……うざ」


 彼女が露骨に舌打ちをした。

 結局、俺は自分の運命を受け入れるしかないらしい。

 心休まる暇なんてありはしない。

 目の前には、俺を親の仇のように嫌う少女。

 この世界で、俺を待ち受けているのはこんな事ばかりなのか?


 しかも最悪なことに、これはまだ序章に過ぎないのだ。


 こうして俺たちは、剣の都ブレイドリングへ向けて出発した。

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