検閲庁
検閲庁に入庁してからしばらく経つと、僕の仕事ぶりも少しずつ評価されるようになった。当初は田舎者扱いされ、何かと色眼鏡で見られていた。
確かに、地元の人たちは頭が悪くて閉鎖的、金に汚くて排他的。他人の足を引っ張ることが好きで、粗野で傲慢。恥ずかしい欠点ばかりだが、それを反面教師にして頑張ってきた。今の評価は自分の実力の証と思うと、誇らしい気持ちだ。
僕の職務は『言葉の検閲官』だ。世の中にあふれる不適切な表現を削除し、代わりに適切な言葉を提案する。
最近は特に差別語の撲滅キャンペーンが強化され、僕たち検閲官も一層厳しい目で見るよう指示されている。言葉一つひとつを精査し、少しでも誰かの心に波風を立てるものがあれば、即座に修正するのだ。
たとえば『太っちょ』は『ふくよか』になり、さらにそこから『豊体』という新しい表現が生まれた。『おばさん』は『成熟した女性』となり、それがさらに彩りと艶やかさを強調した『彩女』へと進化した。
だが、新しい言葉も悪意をもって使われれば、再び問題視される。「私は不快に感じました」というクレームが一定数届けば、即座に変更しなければならない。
現在、登録されている国の膨大な数の言語と単語を精査するのは、大学で言語学を学んでいた僕ですら骨の折れる仕事だ。それでも、僕の手で世界が少しずつきれいになっていくと思うと、やりがいを感じる。さあ、もうひと仕事――
「君、ちょっと来てくれるか?」
「あ、はい」
上司に呼ばれ、僕はデスクを離れた。
「なんでしょうか? この前、僕が提案した言葉に問題がありましたか?」
「いや、あれはよかった。だが、ええと、最近はさらに差別語の撲滅に力を入れているのは知っているね?」
「ええ、もちろんです。つい先ほど、新しい代替言語リストを完成させたところですので、ぜひご確認ください」
「おお、仕事が早いね。君は本当に優秀だよ。すごい。ただ、その……」
上司は口ごもり、僕をじっと見つめた。妙な間だ。
「あの、さっきからなんですか? 僕、何かまずいことをしましたか?」
「いやいや、君は本当に素晴らしい人間だ。……その、実は新たに発見された差別語があってね。それを君に対処してほしいんだ」
上司はそう言うと、一枚の紙を差し出した。どうやら、口にするのも憚られる言葉らしい。いったいどんな――えっ。
「……『地球人』?」
「そうだ。だから君には、この言葉に代わる新しい表現を考えてほしい。自分が呼ばれても不快に感じない言葉をね……」
上司は四本の触覚の先にある目を、わずかに伏せた。