北海道での記録①
毎日、誰かの怒号が飛ぶ会社だった。
売上目標、いわゆるノルマの未達成に対して、とんでもない罵倒を浴びせている。
こんな商品を売るために皆生きているわけではないのにと悔しい思いでいっぱいだ。
目標さえ達成できれば怒られずに済む。
生きているために働いているはずなのに、働くために生きている感覚しか湧かない。
この会社は毎月、社員に売上目標を自主的に設定させてくる。
ただ、自主的と言っても経営層が考えた数字が上から降ってきて、それを部長の判断で誰がどの程度、負担するか決めることが自主性と言われているだけだ。
普通は勤続年数や経験、担当しているお客さんの会社規模で負担する数字は決まるが、性格がねじ曲がった部長は、嫌いな奴に大半の売上目標をなすり付けて、お気に入りの奴には確実に達成できるように数字を操作する。
そうすることで、部長のお気に入りの目標達成率は目に見えて良くなり、出世が出来る。
一方で、いつまでも達成できない巨額ノルマを背負ってしまった社員は数か月たたないうちに消えていく。
ついこの間も飲み会で部長の要求した通りに酒を注げなかった弱気そうな新入社員をこの方法で、1週間で辞めさせている。
俺も過去に何度も標的になっては耐え、数字ではなく媚を売ることで生き抜いてきた。
もうこの環境には、うんざりだ。
辞表を提出した。
部長は相変わらず「お前みたいな奴は他へ行って通用しない」だのと抜かしている。
退職を認めないこと、有給休暇は使用させないことを口酸っぱく言ってきたので、録音したうえで人事部に全く同じ内容の辞表と音声記録を提出し、会社を無断欠勤した。
俺は賃貸を解約して、会社から電話が来ないように番号を変えた。
もう誰とも話したくもない、関わりたくなかった。
万が一、警察に捜索願を出されないように「戻ってくる」と実家に手紙を出した。
中古の大型バイクを購入して、北へ向かった。