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失踪記録  作者: 釜ヶ崎愛
2/10

関西地方での記録②

太陽がもうすぐ海に沈む。

私は必死で彼を探した。

よく彼は思いつめた表情で海を眺めていた。どうしてあんなに辛そうなのか聞けなかった。

結婚のお話を強引に進めたから怒ってどこかへ行ってしまったのかしら。

夫婦になれば、彼を原因不明の苦しみから救えると浅はかな考えだった。


思い返せば、彼が辛そうな表情を見せるのは決まって私が幸せだと感じる瞬間だった。

一緒に食事したとき、プレゼントを贈ってもらったとき、抱き寄せられたとき。

ささやかな日常が彼をじっくりと苦しめる環境になっているとは知らなかった。


最初は、私に嘘をついてよそで女を作っているから良心が痛むのだろうか、とも疑った。

でも、周囲の同僚にそれとなく話を聞いても彼は清廉潔白と答えが返ってくるだけ。

浮気なんてするような人じゃないよ、心配ないよ。何回も色んな人に言われた。

じゃあ、彼を苦しめていたものは何だったのでしょう。


歩き疲れて、靴連れが痛い。

街灯は薄暗く地面を照らしている。

遠くで船の汽笛が聞こえる以外に何も聞こえない。

あの人がいないと、私は身が持たない。依存しているのかもしれない。

彼は、私がどんなにおかしなことを言ったって面白がって否定しないでいてくれた。

これまで知り合ったどんな男性よりも優しく、暖かかった。


私は実家に帰って事情を話した。

父は血相を変えて警察と秘書に電話を掛けていた。すぐに車で出かけて行った。

もう大丈夫だよ、すぐに見つかるから安心しなさい。

母は私の肩をなでて、暖かいスープをいれてくれた。

その安心感で眠ってしまった。


夕方になっている。

朝方に帰ってきたから長時間、寝ていたことになる。

いつのまにか寝間着になっていて、自分の部屋にいた。

彼が居なくなったことが全て幻だったような気がする。


今日は穏やかな陽気で雲が流れている。

全て解決して、リビングで彼が説教でもされているかも、そうだったらいいな。

淡い期待を抱いて、ドアを開けたが誰もいない。

書置きが一枚残されているだけだった。


「夜には帰る。外には出ないでほしい。何かあれば隣の叔母さんの家を訪ねなさい」


不安がどんどん心の奥底から湧き上がってくる。

まだ彼は見つかっていない。急いで探さなければ、とても嫌なことになる気がする。

走りだそうとしても昨日の靴連れが痛くて歩けない。

私がもたもたしていると玄関が不意に開いた。父だった。


警察官僚の失踪はセンセーショナルな事件なので、内部で処理をしなければならない。

父がそう言った。

大規模な捜索をすれば、確実に世間の注目を集めることになる。

それは政治家の父の顔をつぶすことにも繋がる。

ただ、優秀な人材かつ大事な婿候補なので一刻も早く見つけ出して事情聴取しなければならない。

よって、捜査は少数精鋭で行うことにしたと言っている。

私は初めから最後まで放心状態で話を聞いていた。


まだ見つかっていなかったんだ。


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