新たな情報を得る賢者達
「あれ、私...」
白は何が起きたのか分かっていなかったが、白の横に在る黒い人魂のようなものから自身と同じくらいの年代の女性の声が聞こえた。
「突然すまんな。お前のコアが破壊されて死にそうになってたんで、取り敢えず治しといた。」
「そうなんですか...って、え?治した!?どうやって?というか貴方は何なんですか?」
その突然の言葉に白は驚き、純粋に思ったことを言った。
すると面倒くさそうな声で黒い人魂のようなものが反応した。
「あー俺は小夜、霊神だ。」
「神様⁉あ、えっと...す、すみません失礼なことを......」
「いい、いい。そういうのはめんどいから、タメ口で普通に喋ってくれ。呼び方も小夜でいい。」
小夜と名乗ったソレは自身は神であるという紹介した。
白の中では子供の頃に両親から聞いた、「死者の魂を導く神様がいる」という話を思い出していた。
小夜は白の身が竦んでいるように見えていたのか、圧をかけないように気軽に話した。
それにより肩の力が抜けた白は、小夜に対して疑問をぶつけた。
「えっと、じゃあ...小夜は何で私の事を助けてくれたの?」
「それを話す為にはまず俺がお前に取り憑いてる理由を話さなきゃな。まず霊神は2人いるんだが、昔賢者が暗黒神と戦った時、もう一人の霊神:日奈は神力を使いすぎたが故に不活性化している。俺は日奈の神魂を蘇生する為にエネルギーを集める必要があってな、それには本来俺が直接エネルギーを集められれば楽なんだが、神には“神域以外に対して直接的な干渉をしてはいけない”という決まり、“アステリズム”がある。ま、暗黒神はその理を破って魔界を創ったんだが...。まぁそれはともかく、その理を守る必要がある俺が日奈の神魂を蘇生させるためには誰かに取り憑く必要があったわけだ。」
小夜から聞いた話は白はもとよりこの世界でも知る人がいないような事であった。
神魂や神域の存在、自分たちが追っている暗黒神や魔界の事...
白はとりあえず自分に関する情報をメインで考えて理解しようとした。
「なるほど。日奈っていう小夜と同じ霊神様を蘇生するために取り憑いてるっていうのは分かったけど、なんで私なの?」
「さぁな。普通なら神が取り憑けば器が耐えられなくなり消滅するはず...なぜお前には取り憑くことが出来たのかは俺にも分からん。」
何とか理解した白だったが、同時にその対象がなぜ自分なのかは考えてもわからなかった為、小夜に聞いてみた。
しかしそれは神である小夜にも分からないことであると知ると、白は考えるのを辞めた。
「そうなんだ...。あ、でもこれからはさっきみたいに力を貸してくれるって事でいいの?」
「さっきみたいなことは無理だぞ、少なくとも今はな。あれは俺が集めているエネルギーを元に、お前の力を付与して使っていた。お前がもっと力をつけて、お前自身の力を元に俺のエネルギーを付与する形にできれば、自由に使えるようになるかもしれないけどな。」
襲撃者に対して行った攻撃の精度や威力など、本来自分には扱えないはずの技術、力を使用していた事実に、この先も同じことが出来ると思っていた白に、「条件次第ではできる」と小夜は期待を持たせるように言った。
白が力をつける程、小夜自身の目的に近づくのだが、その事について白は知る由もなかった。
突如現れた襲撃者たちとの戦闘を終えた賢者たちの元へ兵士が来て、王城へ招待された。
そして城門前に集まった賢者たちは、門が開くまで会話していた。
「ヘスティア~そっちは大丈夫でした?」
城門前で待っていたヘスティアの元へ無傷の白がやってきた。
まるで戦闘などなかったような状態の白に疑問を持っていたヘスティアだが、今までの不安から一変し、仲間の無事を確認できたことへの安心感があった。
「それはこっちのセリフよ。ここからでも白の場所が分かるくらい戦闘が激化してたみたいだったし。」
「あいつ強かったんだよね。ま、何とかなったけど♪」
いつも通り笑顔で答えた白の元にアルスを背負ったエリスがやってきた。
背負われているアルスは顔を赤くしており、その表情からは恥じらいを感じ取れた。
「お姉ちゃ~ん、ヘスティア~。」
「エリスおかえり、ってアルス~!!」
まだ2人とは少し距離があったものの、白は即座にエリス達の元に駆け寄っていった。
そして白がエリスの代わりにアルスを背負うと、幸せそうな表情をしていた。
「白さん大丈夫ですから、1人で歩けますから...///」
なんとか反抗しようとしていたが、体が言うことを聞かず気力もないためか、顔を赤くしたまま背負われた。
「白~みんな~」
手を振りながらシエルとソイル、ゼータの三人が帰ってきた。
集まった賢者たちが各々出会った出来事を話していると城門が開き、兵士によって城内へと案内された。
そして国王フェン・ウォルクの元まで来た賢者たちは、外で起きたことを説明した。
この襲撃事件において、けが人はいるが死者が出なかったことや、襲撃者を倒したことなどを報告すると、
「よくぞ我が国を救ってくれた。貴殿らの助けがなければこの国は滅びておったかもしれぬ。褒美を与えようと思うのだが、なにかないか?」
国王から褒美を提案されたが、特に欲しいものがなかった白は、その案に対して素直に答えた。
「いえ、私達は当たり前のことをしたまでですので。」
「遠慮する必要はないのだが…そうだな、白の地下にある書庫を自由に見るとよい。旅に役立つ情報があるであろう。これでは足りない気もするが、まぁ貴殿らが他に望まぬというのであれば無理強いはせぬ。それと今は崩れた建物などがある故、城内で過ごすといいだろう。」
褒美を受け取らないことに難色を示しつつも、賢者達のためになるように褒美を考えた。
そうして報告を終えた賢者たちは、城の空き部屋に戻ると、それぞれが別行動をすることになった。
「じゃあ私たちは復興の手伝いに行ってくるわね。」
「兄さんはちゃんと休んでてね~」
「行ってくる。」
ヘスティア、シエル、ゼータの三人は復興の手伝いをするために部屋を離れた。
既にアルスとエリスは地下の書庫へ行っており、部屋の中には白とソイルだけが残されていた。
「...何でソイルが残ってるの?」
「俺が聞きてぇよ。まぁ暇になったし、ちょうどいいからさっき城門前で話してた小夜に色々聞いてもいいか?」
「いいと思うよ。本人に出てもらおうか。」
若干嫌そうに聞いた白に対して、呆れ気味に返事をしたソイルは、少し前の話の続きをしようと尋ねた。
その会話を聞いていた為か、何も言われずに黒い人魂のようなものが現れた。
「俺に何か用か?」
「あんたの正体が霊神って事と、白と居る理由はさっき聞いたが、他にも何か知ってることとかってあるのか?暗黒神についてとか...」
「そこまで多くは知らねぇぞ。俺は暗黒神と直接戦ったわけじゃないからな、魔界にも行ってねぇし。」
「それでも無いよりはマシだ。」
小夜はソイルからの質問に対して面倒くさそうにしながらも、白に協力することを誓った手前、話さないわけにもいかないず、自身が知っていることについて話し始めた。
「そうだな...まず暗黒神とは闇の神:ナイアーラとそいつが創った二代目魔王:ハイン・ヴァイスが融合した存在だ。」
「魔王ってそんな何体もいるの?」
「いや、今いるのは太古の昔にナイアーラにより創られた初代魔王:ベイル・ネファリアス、今は狭間の世界を治めるギルト・シュルヴィーヴルって名の奴だけだ。」
「へ~、初めて聞いた。ソイルは聞いたことあった?」
「ベイル・ネファリアスの方は聞いたことあるが、ハイン・ヴァイスの方は知らん名前だな。師匠はハイン・ヴァイスについて何も言ってなかったし。ただベイル・ネファリアスに関する事で、初代魔王は光の神:ダオロスの力を受けた勇者:ルミナスによって浄化されたって事は聞いたな。」
小夜が話した魔王と呼ばれる存在について聞いたこともなかった白は驚いていたが、ある程度の事を竜王である郷華から聞いたことの合ったソイルはあまり驚いていなかった。
「確かお前は郷華の弟子だったな。あいつはその勇者と共に戦った竜王だからその時のことについてはよく知ってるだろう。だがそれを詳しく聞きたいなら郷華に言ってくれ。あとこれは暗黒神にはあまり関係ないが、“賢者”はその勇者の子孫から選出された存在だ。」
「それも初めて聞いた~。」
「俺も初耳だな。それと気になってたんだが、ナイアーラって神様はアステリズムに反したんだろ?何かしらの罰は受けなかったのか?」
賢者のルーツについてはソイルも聞いたことが無かったらしく、関心を持っていた。
驚く白をよそに、気になっていたことを思い出し、小夜に質問をした。
小夜はその質問に対してどう答えようか少し悩んでいたが、やがて話だした。
「俺の推測も入るんだが、おそらくは神の権限をハイン・ヴァイスに譲渡したんだろうな。」
「神の権限?」
「そうだな...この世界には源素ってのがあるだろ?あれを生み出すことが出来るのが神の権限の1つだ。」
「ってことは実質魔力とか妖力が無限にあるってこと⁉」
「まぁそんな感じだ。対抗策はお前たちが竜王の秘境を回り、経験を積む事だ。そうすれば暗黒神に対抗できる程の域に到達できる。」
「つまり俺たちはまだまだだってことだな。」
「そうだね、もっと頑張んないとか。取り敢えずはウォードルスの事が優先だけどね。」
「暗黒神が復活するにはまだ時間がかかるはずだからな。俺も協力できることがあれば協力する。また何かあったら言ってくれ。」
あくまで推測だとは言ったが、ソイルや小夜本人もそう遠く無い推測であることは何となく理解していた。
そして白たちにアドバイスをした小夜は白の体へと戻っていった。
一方アルスとエリスはストルム王国の地下にある書庫に来ていた。
「エリス、僕についてくるのはいいけど、退屈じゃない?」
「ううん、私はアルスと一緒に居られるだけでいいんだよ。それで、何するの?」
「ここには僕がまだ知らない魔法が記された魔導書があるんじゃないかと思ってね。それを探しに来たんだよ。」
「アルスって結構使える魔法多いよね?それなのに知らない魔法とかあるのかなぁ。」
「こういう国が隠してる書庫とかには特別な魔法が記された魔導書がある可能性が高いからね。」
「そうなんだ。じゃあ私も手伝うね。」
「助かるよ、ありがとう。」
そういうと2人は本棚を漁り始めた。
大抵は国やその周辺地域などの歴史や出来事が記された物が多かったが、程なくしてとある書物に違和感を覚えた。
「この本...魔力じゃない何かが含まれてる。レータに似た感じ...」
「?他の本と変わらない気がするけど。」
「あ~この本、私が仲間と作ったやつだね。」
1つの本を手に取り不思議に思っていた2人に、アルスの持ってる魔導書から出てきたレータが反応した。
「レータの仲間ってことは、アイリスみたいに他の精霊がいるってこと?」
「そうだね、この本は私と時の精霊:アビエス・フィルマ、水青竜王:星水と一緒に作った本で、中を見ればわかるんだけど、この本に記されてるのは蘇生魔法なんだ~。」
「蘇生魔法なんてそんな魔法があるんですか!?だって蘇生には肉体と魂が関係していて、それにコアの再生は不可能とされてるし、そもそも肉体の損傷具合と、魂を認識しないといけなくて...」
「細かいことは気にしなくていいよ。とりあえずこの魔法は亡くなってから1日以内であれば蘇生ができる。“リサステーション”って名前の魔法だよ。。色々必要なものがあるから、そう簡単には使えないけどね。」
アルスが望んでいた知らない魔法、その中でも特別な蘇生魔法についてレータが話し始めた。
話についていけないエリスは、アルスの横でぼーっとしていた。
そしてアルスが本を開くと、そこには魔法の詠唱と思われる文と魔法陣が描かれていた。
「“神授の青鱗は時の雫と結ばれ星涙となり、聖なる花蜜は崩壊せぬ幻石を開花させ輝石と化す。輝石と星涙、不滅の血が混ざり合う時、世の理を逸脱する光となりて、生を呼び醒ます。”これが魔法の詠唱?」
「詠唱だけじゃなくて、必要な物も示してるんだよ。神授の青鱗は星水の鱗、時の雫はルジェルに居るアビエスが住んでる泉の水。聖なる花蜜は…もう持ってるね。崩壊せぬ幻石っていうのはフェルゼン地方にあるオリハルコンっていう鉱石、不滅の血っていうのは人魚の女王の血のことを指してるんだよ。」
「なんで必要な素材まで示してるんですか?そんなことしたらこの本を見つけた人に使われるんじゃないの?」
「ふっふっふ、その点は大丈夫。詠唱には書いてないけど、この魔法を使うには光の精霊である私の力が必要だからね。」
魔導書に書かれている内容の詳細を見て疑問を抱いたアルスがレータに対して質問をすると、レータはドヤ顔で答えた。
「それなら大丈夫だね。」
「なんで?」
「精霊の力を使うには精霊と契約する必要があるんだけど、今レータと契約してるのは僕で、その前だと僕の先祖で旧賢者のストレリチア様だからね。それまでに誰かと契約したっていうのはレータから聞いてないし。」
「うん、この本を作ってからはアルスとしか契約してないよ。そうだ、その本持っていこう。創ったのは私なんだし大丈夫だよ。」
「一応後で聞いてみるよ。」
やっと話しに追いついたのか考えるのを辞めたのかエリスが質問すると、アルスが返答した。
レータも補足するように答え、その本をた浴びに持っていくように促した。
国が保管する本を持って行っていいものなのかと悩んだアルスは、後々国王に尋ねる事にした。
「そういえばさ、アルスは私とは契約してくれないの?」
「い、いやエリスは契約とかそういう関係じゃなくて...仲間だし、大切には思ってるけど…」
「えへへ~ならいいんだけどね。ちょっとからかっただけ♪」
「もう...」
エリスからの急な発言に驚きと恥ずかしさであやふやな答えを出したアルスに対し、エリスは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
レータは邪魔しないようにと魔導書へと戻っており、少しの間2人だけの時間が流れていった。
そして翌日、長距離転移魔法陣への魔力供給が完了したとの報告が入り、賢者たちはその魔法陣の元へと集まった。
「アルス君、エリスちゃん、怖くない?」
「はい、大丈夫です。」
「私も~」
白がしゃがんでアルスとエリスの方を見て声をかけると、いつも通りの声色で返事が返ってきた。
「ウォードルスで何が起きているのか、分からないことは多いけど、人助けをする準備は出来ているわ。」
「殲誓天とか夜陰教団の奴らには注意しないとな。ウォードルスで起きてることもそいつらのせいかもしれないし。」
次いで話したヘスティアとソイルも準備が出来ているようだ。
ソイルに関してはウォードルスで起きている事について考える余裕もある様子だった。
「もしそうだとしても、私達なら大丈夫でしょ。」
「油断とか慢心はしない方がいい。この大陸で会った奴らの実力が下の方だっただけかもしれない。」
「...確かにゼータの言う通りかも。たまにはまともな事言うじゃん。」
「いつも言ってる。シエルがアホなだけ。」
「はぁ?」
「お前ら喧嘩すんなよ。ほら、行くぞ。」
シエルとゼータもいつも通り仲がいいのか悪いのか言い合っており、その様子は他の賢者たちに安心感を与えていた。
「よし、じゃあウォードルスにしゅっぱ~つ!」
白がそういうと、ストルム王国でこの魔法陣を管理している魔法使いたちが長距離転移魔法を発動させ、賢者たちはウォードルスへと転移した。