最後の晩餐
「「「「乾杯!!」」」」
お父さんとお母さんはワイングラスを掲げ、僕と弟はコーラが入ったグラスを掲げて互いのグラスを打ち付けあう。
テーブルの上には僕の大好物が並んでいる。
お母さんの野菜がゴロゴロ入ったシチューとシーフードカレー、それにローストチキンにポテトサラダ。
「ワー、今日はご馳走だね」
「そりゃそうよ、あなたの快気祝いなんだから。
あと食後のデザートに、デコレーションケーキがあるから、お腹ちょっとだけ空けといてね」
「デコレーションケーキまであるんだ」
「今日だけは、ケーキの上のイチゴやサンタクロースとかは兄ちゃんに全部譲るよ」
「あ! 智が何時の間にか生意気になってる」
「今日だけだからね」
「はい、はい」
「「「「ハハハハハハ」」」」
「カレーのお代わりは?」
「お代わりしたいけど、お代わりするとケーキ食べられなくなるからいいや」
「じゃあケーキ切るわね」
「智だけでなく、お父さんのもお母さんのもイチゴ貰って良いの?」
「今日だけだぞ」
「お腹一杯になったら眠くなっちゃった」
「「「………………………………」」」
痩せ細り治療薬の副作用で髪が1本も残っていない頭に、沢山のコードの先端のパッチが貼り付けられている少年。
皮と骨だけの手首には点滴の管が刺さり心電図のコードの先のパッチが貼り付けられている。
ちょっと前まで弱弱しくではあるが波打っていた心電図が、波打つのを止め1本の線を引く。
医師が少年の骨が浮き出た胸に聴診器を当て宣告した。
「ご臨終です」
「「仁ー!!」」
「にいちゃーん!」
「「「ウアアァァーー」」」
私は少年の遺体に手を合わせて祈りの言葉を呟き、看護師さんと共に頭に貼り付けられたパッチを剥がして行く。
仮想世界はゲームだけでなく医療の現場でも著しく発展していた。
癌などに罹患し、罹患する前は大好物だった料理や食品を食べられなくなったり身体が受け付け無くなったりした患者さん達、それでも、病に打ち勝つ事が出きればまた食する事が出きる。
しかし、少年のように勝てなかった患者さん達に幻とは言え最後の晩餐を楽しんで欲しいとの思いから、私は医療の現場で仮想世界の発展に寄与しているのだ。