第七話 いちゃいちゃ
「そうだった、優香サイレンサー付けるから、一回ドックタグ外して。」
翔太が言うので、首からドックタグを外した。
ダイニングテーブルの上に、いろんな色のサイレンサーが並べられた。
単色のものから、カラフルな迷彩柄のものまで10種類くらいあって、翔太が、
「好きな色2個選んで。」
って言ってくれたから、迷彩柄のブルーとピンクにした。
翔太がチェーンから一度タグを2枚とも外して、
「優香の分のタグがピンクで、俺の分のタグがブルーな。」
って、サイレンサーを着けてくれて元通りチェーンに通して私の首に掛け直してくれた。
翔太は流石に、迷彩柄には抵抗があったのか2枚とも黒のサイレンサーを着けていた。
「コレ、制服の下につけてても大丈夫だよね?」
と、言えば、
「パイロットは任務中は首にかけてるって聞いたから、見つからなきゃ大丈夫だろ。俺、コレウィングマーク取るまでのお守りにする。出来るだけ肌身離さずつけとく。」
って、言う。
「流石に、体育とか部活ん時は無理だろうけどね…。私も、極力外さないで身につけとくね。」
トップスの中にそっとタグを入れたら、翔太が真っ赤な顔をして俯いていた。俯いた理由が分かった私は一言、
「えっち…。」
って、言ってやった。
「だから、優香は無防備だって言うんだ。俺も、男だぞ!俺だったから良かったけど、他の男の前でそんな事するなよな…。」
って、釘を刺された。
翔太の前だから無防備になれるんだよ…、朴念仁!
「翔太はさ…、エッチしたいとか思わないの?」
私の問いかけに、アイスコーヒーを飲もうとしていた翔太が噴いた…。
「い、いきなり大胆な質問するな…。正直に言うけど、優香とならシたいって思う。けどさ、俺らまだ未成年じゃん。優香の事大事にしたいから、しない!」
「私となら、シたいって事は、他の女の子には欲情しないって事なの?」
「多分、勃たないと思う…。って、なんてこと言わせんだ!じゃあ、優香はどうなんだよ。」
「私?翔太になら、処女あげてもいいって思ってるよ…。翔太としか、シたくないんだけど。」
「じゃあ、いつか、ちゃんと俺が優香の処女奪うから、それまで節操持って守れよ!約束だかんな!」
「うん…」
言い出したのは私だけど、翔太が私のことを本当に大切に思ってくれてる事が伝わってきた。
お互い真っ赤な顔して、えっち談義は終わった。
「さて、残りの準備済ませて、翔太とイチャイチャしようかなぁ〜。」
照れを誤魔化すように、でもイチャイチャはしたいって意思表示を翔太にしてダイニングテーブルを離れた。
—side 翔太−
ドックタグにサイレンサーを着けて優香に渡したら、『制服の下につけてても大丈夫か?』って聞いてきた。肌身離さずつけてくれる気でいるのか…?
千賀一佐が昔、家に来た時に自衛官は任務につく時はドックタグを身につけて任務に赴くって言ってたのを思い出して、俺もドックタグを作ったから、「(学校で)見つかんなきゃ大丈夫じゃね?」って答えてた。俺は、お揃いの物を身につけている優香が側にいるって感じになれるから、肌身離さず持つことに決めていたし、ドックタグがある意味お守りみたいな感覚になってたから、ウィングマークを取るまでのお守りにする事も決めた。
優香も、出来るだけ身につけてくれるって言ってくれて、優香と離れていても繋がってる感じになった。
サイレンサーを着けたドックタグを、トップスを引っ張って身につけた優香。その時、ちょっとだけ視界に優香の谷間とブラが見えた。
理性がぶっ飛びそうになった俺は、頭に血が登って顔を赤くして俯いたら、優香にバレたみたいで、『えっち…。』って言われる始末。
無防備な優香が心配で、他の男の視界にすら入れたくない束縛感を感じながら、優香に釘を刺した。
そしたら、突然『エッチしたいとか思わないの?』って優香に聞かれ、アイスコーヒーを飲もうとしていた俺は盛大に噴いた。大胆にも程がある!それでも、俺は正直に、『優香とならシたいっ。』って伝えた。でも未成年な俺ら…。万が一の時は優香の体に負担がかかる。だからこそ、『優香の事を大事にしたいから、しない!』って伝えた。
優香は更に、『他の女の子には欲情しないのか?』って聞いてきた。俺も男だから、絶対と言えないのが癪だったけど、『多分、勃たないと思う…。』って、答えた。俺ばっかり恥ずかしい思いをするのも癪に障ったので、『優香はどうなんだよ。』って聞けば、あっさりと『俺になら、処女あげてもいいって思ってる。』『俺としか、シたくない。』って返してきた。俺としては嬉しい返事だったけど、捌けていると言うか、無防備と言うか、不安になる発言に、『いつか、ちゃんと俺が優香の処女奪うから、それまで節操持って守れ!』って約束させてた。
留めには、『夕飯の準備を終わらせて俺とイチャイチャしたい』とか言い出し、本当に俺の方が今日何度目かの撃墜判定を受けた気がしてならなかった。
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残っていた、タルタルソース作りと、ほうれん草のお浸し、お味噌汁(具材はお豆腐とわかめ、油あげ)
は思いの外早く作れて、チキン南蛮の鶏肉に衣をつけて冷蔵庫で休ませるところまで、余裕を持って出来た。圧力鍋の圧も下がった見たいなので、蓋を開ければフワッとなんとも言えない甘い香りが漂った。
翔太が、いち早くその香りを嗅ぎつけて、キッチンに侵入してきた。
「味見?」
と、悪戯っぽく聞けば、
「勿論!」
と、小皿を食器棚からわざわざ出して来た。
小皿に、ジャガイモ、人参、玉葱、糸こんにゃく、牛肉と少し汁をかけてお箸と一緒に渡せば、やっぱりちゃんと手を合わせて、
「いただきます。」
って、言ってから箸を手にして肉じゃがの味見をした翔太。
「優香の作る料理は、ホント美味い。俺に合わせてるのか?ってくらい味付けもぴったりだ。」
って、言ってペロリとお皿によそった分を食べ切った。
後は、チキン南蛮をあげる作業以外は温め直してよそうだけになったので、一旦エプロンを外してリビングに残っていたカフェオレの入ったグラスを持って行けば、翔太もコンパクトタイプのノートパソコンを閉じて、ルーズリーフに書き留めたものを纏めてトートバックに入れ、コーヒーの入ったグラスを持ってリビングに移動して来た。
「そう言えば、翔太が買ってくれた参考書、結構な値段したけど、幾ら払ったらいい?」
思い出して、聞いてみたら、
「優香、これからは一緒に受験勉強しよっか?そしたら、イチャイチャもできるし、成績も上がるだろうから、それでチャラでいいよ。」
って、言う。
何だかんだ、今日は翔太が甘々な感じがしてむず痒い感じがする。
「翔太は、理系クラスだから教科が違うし進具合も違うじゃん。私、文系クラスだよ?2学期から理転って手もあるけど、今から理転は正直厳しい…と、思う…。」
次の三者面談で、2学期からの最終の理転と言う、理系クラスへの転科の申し込み締め切りが来る。要領が良い方だと思う私でも、理系クラスの進捗には正直ついていける自信はなかった。
「優香、選択教科何とった?」
翔太が聞いて来たので、
「科学と物理…。生物は、1年の時に取ってた。後は、英会話。」
「受験科目は、今のままで問題ないみたいだけど、理転して生物も取り直しといた方がいいかもしれない。模試や1年の時の総合判定とか見せてもらってもいい?」
翔太の顔つきが変わった。
「別にいいけど、部屋に纏めて置いてるから取ってくるよ。」
自分の部屋に取りに行こうとしたら、
「優香の部屋で見せてもらうから、移動しようっか。此処は、誘惑の匂いがいっぱいで集中力を欠きそうだから。」
夕飯の準備で、リビングは美味しい匂いで充満していた。
確かに、これは誘惑の匂いだ…。
「別にいいよ。じゃ、飲み物は持って行こ。」
グラスを持って、ダイニングテーブルに置いていたトートバックを肩に掛けてリビングを後にした。階段では、翔太が先に上がって、手を差し出しエスコートしてくれた。
部屋に入って、荷物を置いた私たち。
翔太は、朝と同じポジションに座りながら、
「優香、今度の防大と防衛医科大学のオープンキャンパス、一緒に行ってみないか?お互いが、過ごすかも知れない環境をちょっとでも知れるし、今年はオープンキャンパスいくつか回るように言われてただろ?」
って、言って来た。
私は、勉強机のラックにあるファイルを取りながら、
「あー、そう言えば進路指導の熊谷先生がそんなこと言ってたね。」
って、返した。翔太が続けて、
「志望校を決めた奴は、そこの行事とかにも参加した方が良いって言ってたから、この間あった防大のオープンキャンパスにも行って来たんだ。俺は11月の開校祭にも行くつもりでいるからそれも、一緒に行く?防大って、一般の人が入れるチャンスはほとんど無くって、オープンキャンパスと開校祭くらいしかないんだ。」
「開校祭?文化祭みたいな感じのもの?」
「体育祭の方かな。っても、高校の体育祭みたいに色々種目があるわけじゃないんだけど。」
「そうなんだ。滅多に入れない場所に入れるチャンスなら、行ってみても良いかも。」
「多分、防衛医科大学の方も学祭があったと思うから、日程が被ってなかったら一緒に行って見ようよ。」
って、約束をした。
手を繋いでキャンパスの中を回るわけにはいかないけど、翔太が目指していた場所が間近に見れる機会はそうそうないと解って、お互いの今後を知る為にも良い機会だと思った。
私は、ベッドに腰掛けて翔太に、成績のファイルを渡せば、顎に手を置きながら片手でスマホを操作して何かしていた。
「評定平均も問題なさそうだけど、上げておくのに越した事はないから此処からの頑張り次第って感じかもな。それにしても、優香って文系の割に理系の点数が結構良いのな?」
「今年から取ってる、物理とか科学はどうなるかわかんないよ。結構、頭爆発しそうになってるし…。月末の中間が憂鬱だよ。」
「そこは、俺が教えてやるから安心しな。代わりに、歴史とか国語の小論文の秘策的な事教えてくれたら良いから。そっちは、俺の方が苦手としてる分野だからさ。受験対策で絶対必要な科目だし。」
お互いの苦手分野が得意分野って、ある意味ではお得なのかも知れない。お互いに補完できるんだから。
「今年から、TOEICも受けていっとかなきゃな。英検は、優香何級取ってたっけ?」
「準2級。2級は一回落ちちゃった。翔太は、パイロットになるんだから、英会話が必須だよね?」
「そうだな。管制は基本英語だし、実際にウィングマーク取って現場に出て行けば、外国との合同演習ってのに参加出来るチャンスもあるし、配属先によっては海外の部隊と交流する機会があるかも知れないから、英会話は落とせないな。ま、すっげえ先の話になるだろうけど。」
「やる事多過ぎて、頭爆発しそう!」
ベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「優香、それって誘ってるの?」
ファイルをコトッとテーブルに置いて翔太が振り返りながら言う。
私はドキッとして、体が動かなくなった。翔太がベッドに片膝をついて私を見下ろして来た。
翔太の顔が近付いて来たから、ギュッと目を瞑ったら、唇にチュッとキスが降って来て
「お仕置き。優香は無意識に俺に事煽る癖があるから、気をつけてよ。理性飛んでたら、本当に襲ってたかも知れないよ。」
って、翔太は言ってくるりと元の場所に座り直した。