第二話 lock-onの意味
「で、lock-onの意味はわかった?」
私の側に来て翔太が聞いてきた。
突然の事でびっくりしたけど、翔太が真剣な目で言ってくれてたから私は頷いた。
「で、返事は?」
「わ、私で良いの?」
「優香がいい。俺の初恋の人だから…。こんな風にlock-on宣言するつもりじゃなかったんだけど、優香ほっといちゃったら変な男に持ってかれんじゃないかって心配になってな。防大に入ったら、クラブ活動とかで土日は潰れちゃうハズだから、それこそ長期休暇の夏休み3週間 春休み1週間 冬休み1週間くらいしか会えなくなる。防大の一年目は特に外出も出来ないみたいだしな。防衛医大の方は、もう少し緩いかな?そこら辺は、資料請求したりホームページを追々見てみな。だから、ちゃんと唾つけとかなきゃ、って思ったの。」
照れ笑いしながら翔太が話してくれた。
「翔太…。実は、私も翔太が初恋だよ。ずっと好きでした。彼女にしてくれますか?」
勢いで言っちゃった!翔太は、
「勿論!あ、彼女って言うよりも、婚約者でも良いんだけどなぁ〜。まぁ〜、そこまで望むのは、親達も含めて話さなきゃいけないだろうから、取り敢えずは彼女からって事で!」
って言って、私は翔太に抱きしめられた。
翔太が、進路について、防衛医科大学を受験する事にした事はちゃんと両親と話した方がいいと言った。進路を決める時期ギリギリのこの時期になってだけど、自分のやりたい事をちゃんと親に説明するいいチャンスだとも付け加えられた。
「優香だけだと、ちゃんと説明し切れるか不安…。俺が言い出した事だし俺も一緒に話すから、今晩優香ん家で飯食ってっていいかな?」
私達の通う高校が臨時休校で休みだったので、夕飯は休みの私が作る事になっていた。
「私が作るから、簡単な物しかできないけどそれでも良いんだったら良いよ。その代わり、買い物付き合ってくれる?」
と言えば、
「優香が、晩飯作るの?優香を彼女に出来て1日目の晩飯が、優香の作ってくれる晩飯ってサイコーだよ。買い物も勿論付き合うよ。最初のデート?が晩飯の買い出しとか、ちょっとした新婚気分っぽいけどな…。」
lock-onに成功した翔太は興奮気味に喋り出した。
「ねぇ、翔太?さっきから、私の事『優香』って呼んでるよね?いっつもは優って呼んでたのに、突然どうしたの?」
不思議に思って聞いたら、
「ツレとか、他の奴も優って呼ぶじゃん。だから彼氏特権の呼び捨てに変えた…。」
って返事をした。
「なんだか理不尽だなぁ〜。私なんか、いっつも『翔太』って呼んでるから代わり映えしないじゃん!」
翔太が彼氏になったって事を、周りに実感させれないのが不満で仕方ない。
「優香が矢面に立つ必要ないよ。俺が呼び方変えたりいつも側に居たら、心配しなくってもみんな気付くって。」
って、言ってくれた。
「で、買い物はいつ行く?昼飯の時間も近いから、序でって言ったら悪いけど初デートしない?」
翔太からデートの誘いを受けた。
「うん。行く!あ、でも初デートなんだから、ちょっとオシャレしたいかも…。少し時間欲しい。」
私が答えたら、翔太は、
「30分くらいあったら、準備できる?俺も、着替えに帰って準備してくる。あっ、優香スマホ出して…」
って言うから、素直にスマホを翔太に渡したら器用にロックを解除して自分の携帯番号とメースアドレスを登録して、一度自分のスマホに着信を残して私に返して来た。
存在が近すぎて、今までお互いの携帯番号は愚かメールアドレスさえ知らなかった私達。
「優香、スマホのロック番号も誕生日かよ。簡単に解除されるぞ?」
と言われた。
「翔太の誕生日でもあるんだから、仕方ないじゃん。好きな人の誕生日をロック番号にしたら、必然的に自分の誕生日と一緒になるんだもん…」
むすっとして答えたら、
「ははっ。俺ら、思考が一緒だな。俺のスマホのロック番号も優香の誕生日にしてたから、自分の誕生日でもあるし…。」
って教えてくれた。
「時間あるときに、メールだけして。アドレス登録するから。取り敢えず、準備終わったら携帯に連絡して。迎えに来るから。」
と言って、グラスに残っていたお茶を飲み干して翔太は私の部屋を後にした。
—side 翔太−
優香が小さい頃に『翔太が戦闘機パイロットになったらお嫁さんにしてね』って言う前から優香の事が好きだった。
優香を、嫁さんにしたいってずっと思ってたから、必死に勉強して戦闘機パイロットになる為にって体も鍛えて来た。だから、告白してきてくれた子には悪いけど、彼女を作る気はないって断り続けて来た。
優香以外、lock-onする気が俺には無かったから…
そんな優香が、進路で悩んでいると言い、相談に乗ってやれば結構難題で、でも一緒に働けるかも知れない可能性がほんの少しでもある防衛医科大学を提案してやる事が出来た。
ホントは、俺が防衛大に合格したらlock-onする予定だったけど、勢いでlock-on宣言してしまった。
幸いだったのは、優香も俺の事が好きでいてくれた事。
小さい頃の約束を叶える、一歩を俺は踏み出した。
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流石に、着替えてる姿を見られるのは困るからカーテンを引いて着替えていたので準備が出来たから再びカーテンを開けたら、翔太の部屋もカーテンが閉まっていたので、スマホに連絡を入れた。
ワンコールで翔太が出て、
「優香、準備できた?」
と聞いて来た。
「うん。これから下に降りるところ。」
と返事すれば、
「外で待ってるから、気をつけて出て来て。」
って、言われ通話が切れた。
玄関脇の姿見で服装をチェックし、シューズボックスから紺色のハイカットのキャンバスシューズを取り出した。
今日のコーデはネック部分にかけてレースアップされた黒色のトップスに背中にフラワーレース装飾が施されたショート丈のデニムジャケットとAラインに広がるフレア裾の白のサーキュラースカートを合わせて見た。
玄関を開けると、いつもはワックスでセットしている髪を下ろした翔太が居た。
翔太は、薄手の白ニットに濃紺のスキニーに、ストンとした形の太腿の中間くらいまでの丈のプラウドブルーのコートに黒のレザーシューズを履いていた。首にはオシャレな2枚のプレートのネックレスも着けていた。
「翔太、カッコいい…。惚れ直しちゃいそう…」
思わず呟いたら、
「優香こそ、めっちゃ可愛いじゃん。よく似合ってるよ。」
って、言ってくれた。
急いで玄関の鍵を閉めて、翔太の隣に並べば、
「そうそう、付き合った記念に!」
って、ポケットから何かを出して私の首に腕を回して来た。
チャリッ…
金属音が響いた。
「今、俺が着けてるヤツとお揃い。ドッグタグって言う認識票なんだけど、自衛隊に入ったら本物が支給されるんだけど、これはレプリカね。優香が俺のモノって言う虫除けな。」
翔太と同じでプレートが2枚あって、よく見たら文字が刻まれている。
1枚には私の名前や血液型、それにEternal Loveって刻印がされていた。もう1枚には、翔太の名前と血液型、携帯番号なんかが刻印されていた。
「コレって、実際もこんな感じでもらえるの?」
って聞いたら、
「実物は自分の名前や認識番号、血液型、所属とかが刻印されたものが2枚。コレには付いてないけど、切り込みみたいなのが入ってるのが支給されるんだ。」
と教えてくれた。
「プレートが当たってチャラチャラ言って、うるさいならサイレンサーっていうゴムみたいな保護するカバーがあるけど?いろんな色があるし、要るなら後で渡すよ。」
と言ってくれた。
「うるさくないけど、傷ついちゃうのが嫌だから後で着けて。」
とお願いした。
「でも、コレって刻印してあるし、いつ用意したの?」
不思議に思って聞けば、
「防大受けようっかな〜って思い始めた頃、絶対優香をキルしようと思ってネットで注文した。」
って教えてくれた。
本来なら、自分の名前のモノだけを身に付けるのだけど、付き合ってるんだからってわざわざ翔太が各々の名前のモノを1枚づつに分けてくれたって話を聞いて、外だというのも忘れて翔太に抱きついて
「ありがとう。翔太」
って、伝えた。
「ちょっ、優香。外だよ…。嬉しいのは分かったから、落ち着いて!」
照れながら慌てる翔太にキュンときてしまった。