第十五話 策士
翔太は絶対に策士だと、つくづく実感した…。
午後から行われた個人戦で、殆どの相手にポイントを取られる事なく見事に優勝を果たしてしまったのだ。
「ノーポイントじゃないのが、悔しい。」
とは個人戦後の翔太の言い分だけど、彼女目線で見ても良く勝てて準優勝?だと思っていたから、まさかの優勝が決まった瞬間、へなへなと応援席に座り込んでしまった私…。
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− side 翔太 –
団体戦が終わった後の、昼メシの時、千賀一佐に教えてもらっていた秘密の場所に優香を連れて行った。
団体戦の時の手応えで、この大会の個人戦では優勝出来るような気がした俺は、優香に、個人戦で優勝したらお泊まりデートしてくれるか?と持ちかけた。
優香は、最初俺が何を言っているのか?と言った感じで驚きを隠せなかった様子だが、個人優勝したら、『団体戦と合わせて2冠のお祝い』だと言って、お泊まりデートを約束させることに成功した俺。下心が全くないわけでは無いが、それよりも少しでも優香と一緒に居たい…、それだけの思いで提案した。
俄然やる気になった俺は、優香の応援の甲斐もあって無事に優勝する事が出来た。
優勝が決まった瞬間に、優香の方を見るとへなへなと応援席のベンチに座り込んでいるのが見えた。
気分でも悪くなったのか?
心配で気が気じゃないが、試合後の礼や表彰式などで、直ぐに優香の側に行ってやれなかった俺は、主将の長野先輩にお願いして、優香の様子を見に行ってもらった。
優香の側に、長野主将が行き、2、3言話した後に、俺に向かってOKのサインを送って来た。
気分が悪かったわけでは無いのが解って、ホッとしたが、どうしたのかが気になって仕方がなかった。
表彰式の準備の間に、長野主将が俺の所にやって来て、
「お前が優勝して、ホッとしたのと本当に優勝するとは思わなかったらしくて、気が抜けたんだとよ。」
と、教えてくれた。
優香のヤツ、俺のことみくびってたのか…
そう思うと、少しいじらしく思えて来た。
団体戦と個人戦の表彰式が終わり、個人戦で貰った優勝のメダルを掛けたまま応援席に速攻で向かった。
優香の元に行き、
「約束、守ったからな。」
と言い、首からメダルを外し優香の首に掛けてやった。
俺のドックタグと共に、掛けてやったメダルをぎゅっと握りしめた優香は、
「おめでとう。本当に優勝すると思わなかった…。」
俯いて呟いた。
ポトリと、制服のスカートに雫が落ちてスカートの生地に雫が吸い込まれて行った。
「優香?」
しゃがみ込んで、優香の顔を覗き込めば、目に一杯涙を潤ませていた。
人目を偲ぶことなく、優香をギュっと抱きしめて、
「そんなに喜んでもらえたなら、頑張った甲斐があるよ。応援ありがとな、優香。」
と言うと、周りにいた部員たちが囃し立て出した。
優香は、俯いたまま、すんっと鼻をすすりポケットからハンカチを取り出して涙を拭おうとした。すかさず、ハンカチを取り上げ、優香の涙を拭いてやった俺。
「涙くらい、自分で拭けるよ…」
って、優香はか細く呟いたけど、
「彼氏の仕事、取らないで欲しいね。正直、泣かせるつもりは全く無かったんだけどな…」
優香の涙は引っ込み、笑顔が戻って来た。優香から離れ、部員達の待つ輪に戻ると、長野主将が、
「今日は、お疲れ!団体、個人と優勝出来て最高な1日だった。俺を含めて3年生は県大会まで引退は伸びた訳だが、受験勉強も手を抜くことない様に!それと、恒例だが3年生は一応今日をもって、部の指揮権を2年生に移管する。次期主将、柘植!副主将、菅谷、影山!明日からの指示は、お前達が出せ。いいな!」
と言った。
数日前に、俺、菅谷、影山の3人は今の主将、副主将に部活終わりに呼び出されて事前に打診されてはいたが、改めて部員全員の前で公式に発表された。
「はい!」
3人揃って返事をした。
自然に円陣が組まれ、長野主将から、
「柘植、新主将から一言。」
と言われた俺。
「今日の勢いを保って県大会も優勝目指すぞ!」
「おー!」
気合の入った掛け声がフロアに響いた。