表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある書き手のエッセイ集

ギャグで語る! 残念系のススメ

作者: 空野 奏多

「あのー……これ、何が始まりますか?」



 手元のレジュメを、ペラペラさせながら友人が言う。



「よくぞ聞いてくれたな……今日のお題はーーこれだっ‼︎」



 バンッッッッ‼︎





    〉〉残 念 系 の ス ス メ〈〈





「えっバカなの?」



 ホワイトボードを押えポーズをとる姿に、友人はそんな愚かなことを聞く。



「バカとはなんだ! こんなにも熱いパトスをほとばしらせているのに、キミが昨日『何がいいの?』って聞いたからだろう!」


「いやだってわかんないし」




 今でも鮮明に思い出せる。

 深夜1時の、あの、やりとり。

 そう、あれには驚愕した。


 ディスプレイに映る、あの文字はーー。





      『残念系って何がいいの?』





 ナ ゼ こ の 良 さ が わ か ら な い ⁉︎




 いや、違う。きっと友人は知らないのだ。

 なら、知ればいいだけだな。

 そう、沼に突き落とせばいいだけだ。



 そう考えて、深夜にパソコンを起動し、カタカタと作り上げたわけだーーそれがこの資料ッッ‼︎



「そう……キミは『残念系』とはなんたるかを知らないーーだから分からないのだッッッッ‼︎」


「残念系の、なんたるかを」


「そうだ! これを知れば『残念系』を愛でる事ができるようになるし、自分でキャラクターを考える時の幅が広がるぞ‼︎」


「いや別に考えないんだけど」


「考えなくても知識はどこかで役に立つものだ! 知らないのは損だ‼︎」


「それは分かったけど、部屋借りてまでやる事じゃないと思うよ?」



 友人の声が、2人には広すぎる部屋にこだまする。



「でも今はそんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない」


「いや大事だと思うけどね?」


「これはそうーー前哨戦なのだよ」


「いや何の」


「キミを足掛けに……世界に『残念系』の良さを知らしめるという戦のな……‼︎」



 そう言って勢いよく、ガッツポーズで拳を握りしめる。



「キミを説き伏せられないうちは、世界なんて夢のまた夢さ……」


「スケールデカいなぁ……」


「何を言うんだ‼︎ キミは好きなものを増やす事の有意義さを知らないのかっ⁉︎」


「少なくともこれでは無いなぁ」


「ばっっっか! お前! 考えてみろよっ‼︎」



 バンッッ! と机を叩く。



「どうしよう話聞いてくれない」


「好きな事が増えれば……幸せな気分になるだろう?」


「えーっと、知恵袋知恵袋……」


「幸せな気分になればっ‼︎ 大抵のことは許せるようになるだろ⁉︎」


「あ、あったあった」


「みんなが許し合える世界になればっ! 戦争なんて無くなるじゃないかッッ‼︎ 世界平和ーーそう!」



 大きく息を吸い込む。




「これは世界平和を作り出すための前哨戦なんだッッッッ‼︎」





「と、も、だ、ち、が、は、な、し、を、き、い、て、く、れ、ま、せ、ん、まる、ど、う、し、た、ら「スマホを弄るんじゃなーーーーーーーーーい‼︎」」



 友人の手から素早くスマホを取り上げる。


 友人は「あーまだ途中なのにー」と文句を言う。



「何故私の話を聞かずに知恵袋先生を頼るっ⁉︎」


「知恵袋先生の方が話を聞いてくれるからかなぁ」


「いーから聞きなさい‼︎ この資料寝ずに作ったんだぞ‼︎ 眠いの我慢して話してるんだぞ‼︎」



 もー目がしぱしぱしてるのに、この情熱だけで起きていると言っても過言ではない。



「いや寝ようよそこは……」


「というわけで講義を始めるっ‼」


「抗議したいのはこっちだよ……」


「それではレジュメを開いて下さい!」



 やっと話を聞く気になったのか、友人はため息をひとつ吐いてレジュメをめくる。





【No.1】


      〉〉クズと残念系は違う!〈〈





「……はいせんせー、何が違うんですかー?」


「よく聞いてくれたな生徒1!」


「生徒2も3もいないんですが」


「この2つは根本的に違うのだよ……よく知らないキミみたいな人は、混同しがちだ!」



 ビッ! っと友人を指差す。



「まずクズについてだが……これは言うまでもないな。みんなが想像する通りさ」


「具体的には?」


「借金まみれなのにパチンコ行ったり、ヒモになったり、暴力で人に言うことを聞かせたり……」


「あー人間のクズ」


「その通りだ……人に頼り、考える事をやめた人間だな」



 そっと目を閉じる。


 こういう者にはなってはいけない。



「では残念系はというと……普通の人間だ」


「え? それ残念じゃないじゃん」


「その一点だけを見ればな」



 友人の頭の上にハテナが並ぶ。



「しかし普通と違うのは……モテることにマイナス影響する何かがあると言うことだッッ‼︎」



 バッ! っとポーズを決める。



「彼らは‼︎ その一点においてだけ! 残念と言われる者たちなのだよっ‼︎」


「男の話なの?」


「男女どっちもです」


「どっちもですか……」


「どっちもイイので、どっちにも含まれる話をしています」


「残念、すきなんだね……ほんとに」



 当たり前だろう! じゃなきゃこんな事するか‼︎


 本来徹夜できない人間なんだぞっ‼︎



「この面白さを理解すれば、キミはワンランクアップするよ」


「なんのランクなのかなぁ残念度かなぁ」


「はい、それでは2ページ目に進みます」



 ペラリとページがめくられる。





【No.2】


       〉〉顔は美人か普通〈〈





「あ、これ知ってる。『ただしイケメンに限る』ってやつでしょ?」


「レジュメを読んだか⁉︎ 顔は普通以上ならいいんだよ! あと男とは限らん!」


「でもイケメンとか美少女の方がいいんでしょ?」


「そりゃそうだわ! 誰だってそうだわ‼︎」



 そんなん言ったら、そもそも『残念系』もといの話だ!



「ていうか、さっき言ったろ⁉︎ モテに関わりがあるって」


「あーモテにマイナスって話か」


「そうだよ! 覚えてんじゃん‼︎」



 もうちょっとで鳥頭って言うとこだったぞ!



「つまりこれはそもそも、プラス値がないと下げられないから必要な要素なんだよ‼︎」


「え、じゃモテるってことじゃん」


「そうだよ! だから残念なの! 『これさえなければモテるのに残念』の『残念』なんだよッッッッ‼︎」



 はーっはーっ……肩で息をする。



「とりあえず落ち着け」



 そう言って友人がペットボトルを差し出してくる。



「ありがと」



 カシュッ! ゴクゴクゴクゴク……



「ぷはぁ! よし! 生き返った! 再開しよう‼︎」


「再開しちゃうのか……休んでもいいと思うけど?」


「いやいや何を言っている。まだ始まったばかりじゃないかはっはっは」


「いっそまぁまぁ分かったし終わりでも……」


「では3ページ目にお進みください」


「デスヨネー」



 そしてまた、ページをめくる。





【No.3】


     〉〉何かに夢中になりすぎる〈〈





「何かって?」


「何かは何かだ……人によって違う」


「うーん、それじゃ流石にわかんないなぁ」



 頬杖をつきながら、ポンとレジュメを机の上に置く友人。




「諦めんなよ! もっと熱くなれよッッ‼︎」


「いやそっちは熱すぎだからね?」


「そうだな、例を挙げるとするなら……バスケに夢中になりすぎて彼女にフラれたり、1つの魔法にこだわりすぎてそれ以外使えなかったり、研究にこだわりすぎて恋人に捨てられたり……」


「いやに具体的だな」


「最初の以外は『なろう』発のだぞ。ちょっと男は思いつかなかったから、バスケ漫画から拝借した」


「読み込みが足りないんじゃない?」



 く……っ! 返す言葉もない!



「でも残念な男キャラは女性ウケも狙えるんだぞ! もっと開拓すべきだ‼︎」


「いや別に書かないけど」


「書いたら読むから言ってくれ! もちろん女の子も増やしていいぞ!」


「話を聞け」


「それでは次のページへどうぞ!」



 人生何があるか分からないから、そんなに恥ずかしがらなくていいんだぞ!


 明日キミが小説書いてても、自分は笑わないからな!


 そう思いながら次へ移る。





【No.4】


      〉〉何かに囚われすぎる〈〈





「だから何かってなんだよっっ‼︎」



 バンッ! と勢いよくレジュメを机に置く友人。


 おいおい、行儀悪いぞ。



「何かは何かだ」


「もうそれさっきやったっ‼︎」


「はぁ。具体例をお望みか。キミはもう少し、自分で考えた方がいいぞ?」


「付き合ってやってんのにコイツ……ッ!」



 ふー。やれやれだ。頭の固いのは嫌われるぞ。



「まぁそうだな……例えば帰らなきゃいけない事に囚われすぎたり、騎士であることに囚われすぎたり、ネガティブな考えに囚われすぎたりかな」


「また『なろう』か⁉︎」


「最後のが違う」


「お前好きならもっと『なろう』読めよッッ!!」



 いやほんとにね。その通りです。



「いや、こっちはさぁ残念の敷居が上がってんの、残念求めすぎて。だから『あ。この程度は残念じゃねーわ』ってなるって言うかさぁ」


「何様だ⁉︎」


「いやいや。個性は飛び抜けてこそ個性というものなのだよ」



 そうでなければ、キャラが立たなくなるんだからな。


 だからこそ、『残念系』は素晴らしい付加価値なのだ。ぜひ一考して欲しい。



「はいそれじゃー次ー」



 そう言って強制的にめくらせる。





【No.5】


      〉〉周りが見えなくなる〈〈






「ダメじゃねーーーーーーーかッッ‼︎」


「当たり前だろう? 残念なのだから」


「ダメ人間じゃねーかっ‼︎」


「そうとも言う」


「認めんのかいっ!」



 まぁそれが『残念系』の真骨頂だからな。



「彼らは『何か』に熱心になりすぎるんだよ。『何か』はさっきの『何か』だよ。それを考えすぎるあまり、周りの人間を巻き込む」


「関わっちゃいけないヤツじゃん‼︎」


「キャラが立ってると言ってくれ」


「でも実際ヤバいんじゃ」


「まぁ場合による」


「否定しないんかいっ‼︎」



 正直その『何か』の規模によるからなぁ。

 まぁ、作品で見る上では問題ないさ。

 こっちに被害はないからな。



「まぁほら、キャラが薄いより濃いほうがいいだろ」


「周りめっちゃ迷惑……」


「はいはい次〜」



 と言う事でまたペラリ。





【No.6】


        〉〉なんか煽る〈〈





「コイツ、ヤバいヤツなのでは⁉︎」


「コイツってどいつだ」


「いや、分かんないけど……」


「分からないのなら、問題ないな?」


「問題だわ‼︎」



 困るなぁ。自分が把握してないんじゃ、こっちは分からんよ。



「まぁ本人は無意識なんだよ。その『何か』を優先させた結果、配慮が欠けてしまうんだ」


「そりゃ怒りたくなるよ……」


「そうとも限らん。怒り以外にーー呆れや諦めになる事があるぞ!」


「良いとこなくないですか……?」


「キャラが立ってて面白いだろう?」


「……。」



 では大人しくなったところで次へ。





【No.7】


       〉〉なぜか許される〈〈





「え、周りの人の心ひろっ!」


「いやいや、これは本人によるところが多いぞ」


「はい?」


「最初に言ったけれど、彼らは『普通の人』なんだ。ふつーに良い人なんだよ。でも、夢中になりすぎた時は暴走する」


「それが困るのでは」


「けれどそれに有り余る、良いところもあるってことさ。まぁ、良い人じゃないときもあるかも知れないが、許せる愛嬌とかがあるんだ」


「それにしても……やっぱり周りが良い人なだけなんじゃ……」



 思考が固い友人は置いてペラリ。





【No.8】


       〉〉とっつきやすい〈〈





「おお、初めて良いところが出た」


「初めてとは何だ! 全部良いだろう‼︎」


「そう思ってるなら病院行きな……んーでも、どういうこと? 熱中してる人って話しかけ難くない?」


「チッチッチ……そう思ってるうちは、初心者なのだよ」



 人差し指をフリフリしながら話す。



「何かに熱中しているほど話しかけやすい。何故ならそれについて話せばいいからだ」


「おお……確かに?」


「自分の好きなものなら、すごく話してくれるだろう。もしそれが好きなものでない場合は、その点を避ける話ができるだろう?」


「つまり、話題が振りやすい、と」


「その通りだよ、分かってきたじゃないか」


「まぁここだけは同意できるかな……」



 うむうむ。いい調子だよ。



「それに完璧すぎるより、少し欠けていた方が人間味があって良いだろう?」


「それは度合いによるかな」



 あ。雲行きが怪しくなってきた。

 指摘の雨が降る前に次に行こう。





【No.9】


      〉〉全てがギャグになる〈〈





「え? あんな迷惑なので?」


「だからこそだよワトソン君」


「いつからホームズに変わってたんだ……」


「人が必死に何かをして、それに振り回されている様は面白いんだよ。空回ってるからな」


「かわいそうじゃないかね……?」



 まぁ当事者じゃないからって前提もあるが。



「キミはお笑いを見たことがあるだろう?」


「うん? うん」


「基本お笑いは話が噛み合わないことが前提だ。振り回されて、空回っているのが面白い。それと一緒だよ」


「あー、それなら分かるかも……」


「そうだろう、そうだろう。だからここで全ての結論だ……」




 両手でバンッ! と机を叩いて言う。




「『残念系』がいるだけでその作品は面白い‼︎

 素晴らしいキャラクターなのだよッッッッ‼︎ 」



 つまりーー。



「いるだけで個性もギャグも生まれる……



     『完 璧 な キ ャ ラ』



           なのだッッッッッッッッ‼︎」




 ふっ決まったな……!



 これでキミもこの良さが理解できただろうっ⁉︎




「あー……なんか分かったかも」



 おや素直だ。珍しいこともあったもんだな。



「ふん、これだけ講義してやったんだから当たり前「これ誰かと思ったら目の前にいんじゃん」」



 ………………は?



「今、なんて……」


「いや、なんか既視感あったんだよねー。納得だわ」


「な、何が……?」


「話聞かないし、顔も整ってるわりにモテないし、振り回されるし?」


「な、なな……」


「いつも面倒くさいけど、なんか面白いし許しちゃうーーあぁ、今の話録音しとけば聞き直したのに」



 お前は鬼畜か⁉︎



 驚愕で固まっているのに、とどめを刺す。



「レジュメより分かりやすい例が居たわ。うん、良さがわかったよ」



 そう言ってレジュメをペラペラしながらこちらを見る友人はーー「ね?」と言いながら……とってもいい笑顔をしていた。

一応語らせましたが

語ってたキャラが残念系だったというオチです。

言ってること分かんなくても、こんな感じって分かるはず。


ちなみにキャラは

男女決めてないのでご自由にお取り下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 残念系を語る残念系というわかりやすい構造かつ、会話のテンポが良すぎて最後まで読みきらせてしまうところ、すごく好きです。 [一言] まんまとフェチズム下のリンクからたどり着いてしまいました。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ