しれん
18
「水を浮かせるのは上手く出来るようになってきたわね」
「えへへ」
「それじゃあ今度は水を撃ち出すわよ」
「水を……うつ?」
「水よー迸る飛沫となれ。ウォーター・スプラッシュ」
マリアの目の前で浮いていた水球が勢いよく前に飛んでいった。
前にあった木に勢いよく水が打ち付けられる。
「す、ごい」
「どう?」
「強い。でもすこし怖い」
「魔法は力だからね。使い方を間違えると、大切なものを傷つけることにもなる」
19
「次はユリアよ。やってご覧」
「うんー水よホトバシルシブキになってー」
動かない。
「あれ」
「ユリアー呪文は言葉じゃないのよ。言霊よ。自分の言葉で言わなきゃ、届かないわ」
「うんー水よ。前に飛んでいって。ウォーター・スプラッシュ」
びしゃあ、と音を立てて前に飛んでいった。
でも木には届かず落ちていく。
「まぁ、初めてにしては上出来ね」
20
「水の精よ、わたしの想いに応えて、勢いよく前に飛ばしてーウォーター・スプラッシュ」
水球が勢いよく前に飛んでいって木に叩きつけられる。
「だいぶ出来てきたわね」
「えへ」
「川の水のように実際の水を用いるとやりやすいが、それがなくても水は出せるわー水の精が助けてくれるから」
「うん」
「なら、そろそろ魔物の討伐をするわよ」
「えっ」
マリアが木の向こう、森の中に入っていく。
21
昼間なのに木陰はとても暗い。うっそうとしている。
よく分からない鳥の鳴き声が向こうで響く。
「すこし怖いよマリア」
「魔物を恐れちゃ魔王なんてもってのほかよ。気を強くもちなさい」
ガサガサ。
「ひっ」
「おいでなすった」
白いウサギ。ひたいに長いツノが生えている。
「ツノウサギね。魔物の中では弱いものよ」
ウサギがいきなりわたし目がけて突進する。
「わー」
わたしはたまらず逃げだした。
「逃げてどうする」
「はぁっ、魔法を発動させる、暇が、ないよ」
木の根につまずいて転んだ。
「あうっ」
ツノウサギがわたしに飛びかかる。
「水よ、ツノウサギの動きを封じる鎖となれ」
ツノウサギの真下から水が吹き出しツノウサギの体にまとわりつく。
22
「ユリア。感情に流されてはいけないよ。あと詠唱の時間を稼ぐことも魔法使いには大切だ」
「難しい」
「取り敢えず始めのうちは2段階に分けるといい。まずは水を出現させる」
「うんー水よ、現れて」
何もないところから水が現れる。
「あとは、これまでの要領でやるといい。平常心を保つこと」
「うんー」
ツノウサギの水の呪縛が、解け、再びわたしに向かってくる。
「水よー襲いかかる魔物をうて」
ツノウサギが飛びかかる。
「ウォーター・スプラッシュ!」
水流がツノウサギのツノを捉え、ツノウサギは遥か後方の木に叩きつけられる。
「上出来よ」
「た、大変だった……」
実際の戦闘はこんなに大変なのか。
23
こと切れたツノウサギを綺麗に埋葬する。
マリアが墓の前で胸に手を当て目を閉じる。
横に立つわたしは見よう見まねで同じことをする。
「この国では死者に対してこうするのが作法なの」
とマリアが言っていた。
「教えられることは教えたわ。あとは実戦の中で自分で掴み取りなさい」
「うん」
「ユリア」
「うん?」
「水は命と癒しをエネルギーの源とするわ」
「……うん?」
「それを忘れないでね」
「……うん」