はじめてのまほう
8
来たのは元の川の近く。
「さて」
3メートルくらい離れたマリアが指を弾く。
と、辺りでいきなり風が吹いた。
色んな方向から風が吹いている。
知っている風じゃない。
「わぷっ」
「これが風魔法よ。目を開けて。風の中に何が見えないか?」
目を開けて目をこらして見る。でも見えるのはマリアの髪がばさばさいって波打っているだけだ。
「何も見えないよ」
「ふむ。風の素質はないようだ」
マリアがまた指を弾く。と風がやんだ。
9
「この川を見てごらん」
「川だね」
「水面をじっくり見つめて。何か見えないか?」
じいっと見つめる。
すると青っぽいモヤみたいなものが浮かんでいる、ようにも見える。
「青いモヤみたいなのが…」
「ふむ。水魔法の素質はあるようだ」
10
「この見えている青いモヤみたいなのが、水の精霊よ」
「みずのせいれい」
「そう。水魔法というのは、この水の精の力を借りて、通常じゃ起こせない人智を超えた力を発揮する」
「難しくてよく分かんない」
「まぁ見るのが早いかー水よ。私の言葉に応えて、浮かび上がれ」
川の中にあった水の一部がすっぽりと浮かび上がった。目の前に頭一つ分くらいの水の球が浮いている。
11
「こういう風に、水を操るのが水魔法だ」
「ほへぇー」
わたしはただ感心する。
「魔法は、精霊の力を借りなくてはできないが、それだけでも出来ない」
「えっ」
「術者の、言霊が要る」
「コトタマ?」
「言葉に表れる想いのことさ。コトタマが乗っていないと魔法が発動しない」
12
「それじゃあ試しにやってごらん」
「えっ」
「私がさっきやったみたいに、水を浮かび上がらせて」
「う、うん。ー水よ、浮かんで」
相変わらずさらさらと川が流れている。
「初めてでも、実際の水を使ったこの魔法はてぎるはずだよ。足りないのは言霊の力さね」
「ぬぅ」
「もっと言葉に想いを込めるんだ」
「うん。ー水の精霊よ。わたしの想い、言葉に応えて、この川の水を浮かび上がらせて」
川から水がふわふわと浮かんだ。形はいびつだけど。
「浮かんだ。浮かんだ」