魔王城ー下
城11
わたしの両手から水流がほとばしる。
同時に魔王の右手から暴風のような炎が現れた。
わたしたちの魔法は、部屋の中央で衝突した。
しばらくは拮抗していたのだけど、次第に炎に押され始めた。
これは単純な魔法の力くらべ。
それはいわば技術でなく、言葉の想いの力。
想いの面で魔王に負けてる?
そんな……。
炎が目前まで迫ってくる。
「諦めちゃダメだ」
わたしの右手を、ピノの左手が取った。
「ピノ!もう大丈夫なの?」
「あぁ、君のおかげで、もう血も流れてない。それよりも、気持ちの面で相手にやられたら、もうそこで終わりになるんだ」
「うん」
「大丈夫。君は一人じゃない」
ピノが水のほとばしっている処に右手を当てる。
城12
「風よ。ユリアの想いを補う槍となれ」
ピノの右手からうす緑の槍が現れた。
槍はわたしの水流に螺旋を描くようにして進んでいく。
やがて槍は水流と一体となり、渦巻きのようになって炎を裂いて進んでいく。
「この、ヤロオオオオがああああ」
とまどまぎ。が言ったあと、渦巻きは物凄い勢いで魔王の胸を打った。
その勢いのまま真後ろにあった玉座に叩きつけられた。
「ぐはっ」
「やった」
ピノかが言った。
「やった。やったよ。わたしたち。とうとう」
「まだだ」
魔王が立ち上がる。
「テメェらみてぇゴミに、やられる訳には……クソ、くそ……なんで、俺の人生には、そんな仲間が……どん、な、に……」
と言って、血を吐いて、倒れた。
近くで見てみると、泣きつかれた少年のように見えた。
多分、死んでいる。
「行こう……」
「うん……」
わたしたちは奥の間に進む。
城13
奥の間には、クッションの上に水晶玉みたいなのが安置されていた。
「あれが……?」
ピノが言う。
「多分オーブ、だと思う」
マリアの言う通りならこれが。
しかしこのオーブは中身が黒いとぐのようなものが渦巻いている。
「これが魔族の魔のエネルギーの根幹になってるんだね」
「うん。だから黒いのかな。マリアが言うには、持ち主次第でエネルギーを変えるって。あと、奇跡を起こせるらしい」
「ふむ。ユリア、君が持ってくれないか?」
「えっ?いいけど……なんで?」
「君の方が、適任だと思うんだ」
「うん」
そっとオーブに手を近づける。
バチっとかいわないよね。
ふれた瞬間。オーブの中から白い光が放たれた。
城14
「ユリア、大丈夫?」
「うん」
全部思い出した。
「何があったの?」
「わたしね、元々この世界の人じゃないみたい」
「へ?」
「まぁ、その話はあとでね。それよりもオーブ、白く光ってるね」
「うん。ユリアの心に反応したエネルギーに変わったんだ。今ならそれ相応の奇跡を起こせるかも」
「うん。そうだ」
元きた扉を開ける。
城15
魔王にオーブをかざした。
追いついたピノがわたしがしようとしてることを察した。
「いいの?」
「うん。いいの」
オーブの中の光に語りかける。
「オーブよ、魔王の命を癒して」
魔王の吐いた血が消えて、顔色がよくなっていく。
しばらくすると、魔王をゆっくりと目を開けた。
「なぜ、助けた……」
「あなたは、まだ、死ぬべきじゃないと思ったの。それだけ」
「……はぁ、そうか……」
「ユリア、まだオーブに力が残ってるみたいだ」
「うーんと、それじゃあねぇー」
オーブを上に持ち上げて言う。
「この辺り一帯がお花畑になればいいな!」




