魔王城ー上
城1
シュンという音を立てて。
黒い、四角い空間に、わたしとピノは瞬間移動した。
ポポロ村の小さな家が三軒くらい入る大きさのくうかん。たてにも三軒くらい入る高さ。
それがほとんど真っ黒な石で出来ている。ツヤツヤな。
窓がないのに不思議と明るい。
奥の方に小さな階段みたいなのが三段くらいあって。その先に、同じ石でできた椅子みたいなものがある。
誰も座ってない。
椅子の右奥に銀色の扉がある。
振り返るとうしろにも同じ扉がある。
城2
前の方の扉から人がでできた。そう、人が。
「くくく……ようこそ、魔王城へ」
20歳くらい?にみえる。
ピノの国の礼装に近いけど全体的に黒っぽい服をきている。
すっきりとした顔立ち。
でも瞳だけがギラギラ煌めいている。
「あなたは誰?」
「ユリア!気を付けて!多分こいつは……」
「お初にお目にかかる。俺が、人類から魔王と呼ばれている存在だ」
城3
そんな、この人が……。
まるっきり、人みたいじゃないか。
もっと、化け物みたいなものかと。
その人が、げんなりした顔をする。
「人であることに驚いてるみたいだな。はぁー、マリアに聞かなかったのか?」
「何でそれを知っている」
ピノが問い返す。
「使い魔から情報は筒抜けさ、特に王子様とあろう者が出歩いて魔物を殺して近づいてくるとあれば、それはいやでも目立つ」
城4
「そんなことはどうでもいい。折角の客人だ。話でもしようじゃないか」
「お前と話すことなどない」
ピノが言う。
「怖いねぇ。オージサマ。いきり立つなよ。ちゃんと後で相手をしてやろう。あぁ、時間とかそういうのも気にしなくていい。暫くこの室には誰も入らないよう言ってある」
「なんで……」
「楽しみを、邪魔されたくないからな」
「楽しみ?」
「そう。おっと、自己紹介がまだだったな。俺は魔王。名前はない。趣味は、遣いの魔物に命じて人間を拉致させてここで殺すことだな。だけど一番嬉しいのはテメェらみてぇな自ら乗り込んできたバカを殺すことだよ。マリアの時はしくったが」
城5
「で、だ」
魔王は椅子に腰かけて足を組む。
「全く、お前らはどうしてそうツルみたがる?まだ単身で乗り込んできたマリアの方がマシじゃねぇか」
「愚問だな、僕たちは互いに協力し合うことで一人では出来なかったことができる」
ピノがこたえる。
「虚仮だね。人は一人だ。分かり合えない。そんなのは、まぼろしだよ。この世は暴力だよ。支配するかされるか。それだけだ」
「そんなことはない。僕の国は和を以って貴しとす、という国訓をもって五百年間争いのない国家を築いてきた」
「はぁ~、詭弁だ、な。もう少し面白い回答を期待したが、まぁそんなもんか。やはり分かり合えない」




