サイドA なお 1−2
サイドA なお
1−2
また彼女に会うかもしれない。
また彼女に会えるかもしれない。
期待が見え隠れする。
もし、会ったら?
もし、会ってしまったら?
彼女は私を覚えているだろうか。
両隣にかわいい女の子を抱いていた彼女。
あの子たちは友達?
それとも片方の子が恋人で、もう片方は恋人の友達?
私は彼女にまた出会ってしまったらどうするんだろう・・・・。
私は彼女にまた出会ってしまったらどうしたいんだろう・・・。
期待に高鳴る胸を抑え、店に入った。
騙された。
友人の「彼女さん」は一人ではなかった。
友人の「彼女さん」の友人が、私の隣に座り馴れ馴れしく私の肩を抱く。
友人は私に目で謝りながらも「彼女さん」と楽しげに笑っている。
そういえばお互いにまだ自己紹介もしていない。
私の肩を抱くのが、あの人だったら・・・。
でも、あの人はいない。
友人と「彼女さん」の幸せそうな笑顔がせめてもの救い。
この場の雰囲気を壊さぬよう、私も楽しい顔をする。
「なおさんは恋人つくらないの?」
友人の「彼女さん」が、私の隣にいる厚かましい自分の友人にチラリと視線を送る。
困った・・・。これは一種の合コンみたいなものだったのだろうか・・・。
「だめだよ、サエさん。なおはね、恋人に振られて今傷心なの。当分恋人とか作る気力もないわよ〜」
友人が助け舟を出してくれる。
友人の「彼女さん」の名前は「サエ」っていうのか・・・。どんな漢字を書くのだろう。
頭の隅っこで、そんなことを考えた。
こういう話は友人にまかせておけばいい。
私はのんびりと、すこし温くなったビールを飲んでいた。
踊っている人たちの先にある、ドアが開いた。
ドキリ・・とした。
自分の周りの音すべてが、一瞬にして消えた。
彼女はこの間と同じように、美しい姿で店に入ってきた。
違っているといえば、女の子を連れていないだけ。
友人なのだろうか、何人かの人が彼女に挨拶をする。
彼女も笑顔で手をあげ、挨拶を返す。
彼女のすべてを見逃したくなくて、私は食い入るように彼女を見つめいたため、友人が私を呼ぶ声に気がつかなかった。
「・・・お、もうなおったら!」
友人が私の肩を叩いたので、私は驚いて彼女から目を離した。
「ご、ごめん!なに?」
「なにって・・・。誰かいい人でもいたの?」
友人の目がいたずらっ子のように輝く。
サエさんとその友人の視線も私に向けられる。
見透かされたようで、顔が熱くなる。
「いない、いない。・・・ちょっとお手洗いいってくるね」
これ以上突っ込まれたら白状してしまいそうで、慌てて逃げた。
ふぅ・・・。
もう帰ろう。
あの人がいたとしても何かが起こるわけでもない。
私はあの人に話しかける勇気ですらないのだから・・・。
もう一度溜息を吐く。
この溜息と一緒に、この気持ちを終わらせてしまおう・・・。
でも、そう簡単には終わらなかった。
席に戻ると彼女が私の座っていた席に座っていた。
つきさっき終わらせた気持ちが再び動き出す。
「あ、なお。おかえり」
足が動かなくて立ち止っている私を、彼女が振りかえって見つめてきた。
「ああ、ごめん。ここ君の席だったのか」
彼女が私の席の隣に移動する。
ここから他に行く気がないのがわかって、ほっとする自分が嫌になる。
「なに、なおちゃん。もしかしてカイに一目惚れ?」
サエさんの友人の視線が突き刺さる気がする。
私は黙って「カイ」の隣の自分の席に座る。
どうかカイに私の心臓の音が聞こえませんように・・・。
「なおちゃん、カイだけは止めておいたほうがいいよぉ。カイに泣かされた女沢山いるんだからぁ」
肩を抱かれ、引き寄せられる。
まるで自分のモノだっていう態度だ。
「人のモノに手を出さない主義だから、安心しなよ。それに抱く女には不自由してない」
そう投げやりに言うと、煙草を取り出し「煙草いい?」とういうサインを送る。
私は声を出せず、ただ頷く。
「抱く女には不自由しない」といったカイの言葉がショックだった。
いくら私が恋い焦がれても、カイにはこの想いは通じないのだろう・・・。
「それで、二人は恋人同士なの?」
綺麗な人は煙草を吸う姿まできれいなんだ・・・。
「そうなるかも」
「・・・違います」
肩に置かれていた腕をどけて答えた。
二人の返答が正反対だったからか、カイがきょとんとし吹き出した。
「なおちゃんかわいいから早く口説かないと他にもっていかれるよ」
カイが私たちをくっつけようとしている。
それがわかって、私は愕然とする。
私はカイの好みではないのだろうか?
カイが気にするような価値のない、そんな存在なのだろうか・・・。
私はあなたに会いに来たのに・・・。
ただ、会いたかったのに・・・。
「なおちゃん・・・?」
私は泣いていた。
ただカイを見つめて泣いていた。
迷惑になるとわかっていても、涙が止まらない。
「・・・ごめん、ちょっと具合の悪い振りしてくれる?」
カイが私の肩を包み、私の顔がカイの胸に押しつけられた。
トクン・・・。トクン・・・。
カイの胸の音が聞こえる。私は目を閉じてその音をずっと聞いていたいと思った。
「なおちゃん具合悪いみたいだから、送って行くよ」
カイが私の肩を抱きながら立ち上がる。私もつられて立ち上がる。
「なお、大丈夫?」
「カイ、私が送るから・・・」
カイのつけている香水、いい香り・・・。なんていう名前なんだろう。
サエさんの友人の言葉をカイは意外にも厳しい声で遮る。
「君酔っ払っているだろう?・・・大丈夫、ホテルに連れ込んだりしないから」
やさしいカイの態度に期待してしまう・・・。
「・・・ごめんね。後で私分のお金払うから・・・」
それでも引き留めようとするサエさんの友人を無視して、店を出た。