願いを込めて(弟視点)
友人がリルを好きと言ってくれた、それだけを理由に書きました。ですので飛ばしても問題ないです!
姉さんは昔から、何処か達観したようなところがあった。
普段はどんなことがあってもへらへらとして、嫌な事も全部冗談として流すような時もあったが、誰も見ていないだろうという時には、その表情から感情が抜け落ちたようになる。
それが怖くて、そういう姿を見かけると声をかけるようにしていたが、いつまで経ってもそれは無くならなず、一度だけ姉さんに直接尋ねたことがある。
“どうして姉さんはそんな顔をするの?”
すると姉さんは顎に手を当てて、そのまましばらく考え込んだ後で、にっこりと楽しそうな笑みを浮かべてこういった。
“ずっと笑顔だと疲れるでしょ?”と。
答えになってないと言う前に、姉さんは話題を変えてしまい、結局そのまま有耶無耶なままだ。
そんなある日、いつものように郵便受けの中を確認すると、手触りの良い上質な紙が使われた一通の手紙が入っていた。
宛名には姉さんの名前が、差出人は“フロロフィア魔法学校”と。
なぜあの有名なフロロフィアから姉さん宛に?と疑問に思いながらも姉さんに手渡すと、姉さんは驚いて飲みかけの紅茶をテーブルに零した。
何やってるのと呆れながら布巾を持っていき、手紙を読みながらあの表情をする姉に気づかないふりをしながらこぼれた紅茶を拭き取る。
「………私、この国一の魔法使いになれるんだって。」
「え?」
手が止まり、そのまま頭の中で姉さんの言葉を繰り返し、笑ってしまう。
「姉さんには無理だよ。今も紅茶零すくらい鈍臭いし。
それに、寝癖まだついたままだし。」
「でしょ!?私もそう思う!
というか寝癖ついてるの!?」
どこどこ?と頭を触って確認する姉さんの様子にホッとする。
「姉さんが触ると余計に絡まるから、やってあげる。」
「本当に?ありがとうリルー!やっぱり持つべきものは弟だよね!」
なんだよそれと心の中で言い返しながら布巾を片付け、癖っ毛の姉さん用に用意した獣毛ブラシを引き出しから取り出し、背後に立つ。
姉さんのふわふわとした、羊を連想させるような髪を手に取り、毛先から丁寧に梳かしていくと、姉さんはあれっと呟き振り返った。
「リル?寝癖のとこだけでいいよ?」
「寝癖のとこだけやると不自然になるから。
ほら、振り返らないで、真っ直ぐ前を見てて。」
「…………ありがとうリル。」
「どういたしまして。」
少しだけでも、姉さんが幸せになれるように。
そう願いを込めながら、ゆっくりとブラシを動かした。