私は可愛い
一部修正しました。
途中で情報を追うのをやめたし、情報が流れてきてもへぇーそうなんだーくらいに軽く流していた。
最近はある程度日も経って中古でもちらほら並んでいるのを見ていて次来た時にあったら買おうかなぁとかそれくらいに考えていた。
よりによってそれを買う前に……!
全然情報見てないからキャラの名前すら覚えてないのに!!
パッと思い出せるの立ち絵くらいなんだけど!?
もちろんヒロインちゃんの、というか私の今の名前はちゃんと分かっている。
フィリア・フェルノ、それが私の名前。
普通に生活している時には特に何とも思わない名前が、急に自分らしくなく感じで落ち着かない。
あと小文字好きだよね、こういう系。
口に出すと結構言えるけど文字だけ見るとちょっと噛みそう。
「それにしてもほんと不思議。
平面……とも違う、CGっぽい??」
姿見鏡の前で制服のスカートを摘んでみたり、胸下まである髪を手にとって引っ張ったりしてみる。
ちゃんと感覚はある、髪も引っ張ると一本一本頭皮が引っ張られていると伝わる。
それなのに鏡に映る私の姿、いや、私の見ている私の姿は生きている人間ぽくない。
記憶の中にある家族や友人、それに他の人達も全員私の知るリアルな容姿ではない。
今までこれが現実として過ごしていたのが不思議なくらい、滑らかに動くCGを見ているようなそんな感じなのだ。
「これだと血とか死体とか見ても怖くなさそう……ってあれ」
これって私死なない?悪役令嬢ものってその乙女ゲームのヒロインちゃん結構かわいそうなことになってない??
「……でもそれってあれでしょ?
頭の中がお花畑なの~うふふ~みたいなキャラだから多かったっけ……?」
うん?そうなると………この場合どうなるの??
私はこの世界でのこれまでの記憶がある、とは言っても小さい頃のことなんかすごく曖昧だけど。
乙女ゲームなら主人公の過去の時点で選択肢が出て変わる、とかはたまーにあるくらいで。
乙女ゲームの中の乙女ゲーム……ややこしいから乙女ゲーム擬きと呼ぼう。
その乙女ゲーム擬きでそこまで設定考えるか?と言われるとないって思うし。
「うーん………?でも別に頭の中お花畑感ないんだよね……。」
まずそれが分かればお花畑ではないだろうけど。
でも恋は人を狂わせるっていうし……。
あ、好きなキャラに対する愛を語ったコメントみたいな反応をしてしまう、とか?
「…………まって、待ってっていうのもあれだけどこれもダメな気がする。」
誰もいないのに独り言!
いやでも自分の考えをまとめる時に口に出した方がいいって言うしセーフか……。
「わからない!何がどこまでぽいのかわからないー!!」
「姉さんうるさいよー!」
隣の部屋かは弟が怒鳴ってきてごめんと部屋の壁越しに謝る。
そういえば弟いるけど弟の姿見て既視感が!とかはないな。私の記憶にある立ち絵の中にいなかったはず。
…………うん、立ち絵無しのたまにヒロインちゃんの話とかで情報が出てくるタイプのモブだと思う。
「そういえば………これってヒロインちゃんは魔法学校の寮に入るとか書いてあったな……。
それに私来週から魔法学校通うんだった……。」
どういうパターンでくるのかなとは思っていたけど、乙女ゲーム擬きの方のヒロインちゃん、フィリアは一般人なのに魔力が高くて……というパターンのヒロインらしい。
貴族の庶子、特に男爵令嬢になってというのをよく見かけたのでそれだと思っていた。
そちらの方が多いから一般人にしたのかよくわからないけど、両親普通に生きてるし、弟もいる。
近所の人とかからよく似てるわねえ~って言われるくらいには似ているので、実はどこどこの国の!とか事情をさらにややこしくするような設定はないだろう。
…………いやわからないけど、わからないんだけど!
このゲームどこが出してたっけ……そこそこマイナーだったぞと思い出そうとするが全く思い出せない。
ブランドによって結構特徴があったりするからヒントになりそうなのに……。
でもそういうややこしい事情出てきそうになったら全力で潰す方向にいこう。うん。
「ふう………よし落ち着いた。落ち着いた?うん?」
混乱を繰り返してくると段々慣れて冷静になってくる。
とりあえずポジティブなこと考えよう。
ほら鏡見よう!さすがヒロインちゃん顔がいい!
「すっごい自分の顔って理解しても可愛いと思える顔だ……可愛い。」
ヒロインちゃんってすっごく可愛く綺麗に描かれることが多くて、原画家さんによってはこれ本当に人間か?SANチェック入らない?大丈夫?ってなる時がある。
それに表情もどこかモデルさんを見ているような……そんな風に感じてしまうことが結構あった。
特に繊細な絵柄、塗りのものとか。
でも実際にこの顔になるとわかる。
本当に顔がいいとどんな顔してもそれが崩れないから作り物っぽさが出るのだ。
なるほどー勉強になる。
何の勉強だよと自分でツッコミながら鏡の前で百面相する。
「これで微笑まれたら照れる自信ある……。
まあ今は自分の顔だからそんなことないけど。」
「姉さん、熱ある??」
ブツブツと呟きながら自分の顔に見とれていると、後ろから声をかけられ鏡越しに目を合わせる。
「あ、リル。いや、ほら、私って可愛い顔してるでしょ?」
そう言うと彼はあからさまに呆れた顔になって深くため息を吐く。
彼の名前はリル、私の、フィリアの弟だ。
女の子っぽい可愛い名前で中性的な顔だし似合ってる。
ずっとそう思っていたけど今思うとフィリアの名前と少し似てるので若干手抜きと思ってしまう。
目の色は違うけどそれ以外はほとんど似ている。
睫毛は私の方が長いけど、私を男にした感じだ。
そもそもこの世界、いままで軽く流していたがみんな顔のバランスが整いすぎている。
「リル、リルも顔良いよね……。」
「…………姉さん、何度もいうけど世の中にはお世辞というものがあってね。」
人の言うことそのまま信じないように、と注意される。
私が今の記憶を取り戻す前から、フィリアは自分の顔に自信があった。
というより一種の洗脳だったのだと今は思う。
毎日毎日鏡に向かって自分は可愛い、だから大丈夫と声を掛けていた。
可愛い。可愛い。可愛いから嫌われる。
可愛い。可愛い。可愛いから好かれる。
毎日毎日飽きずに繰り返していた。
今まで繰り返していたのはそうしないと不安になったからだ。
今はそんなことはなくただ単純に顔はいいと思っている。
これが現実的な、リアルなものだとまた変わったかもしれないけど私の目から見えているのは滑らかに動く立体的なキャラクターだからだ。
だから全く違う、気持ちの話にはなるが全然違う。
けどリルの目にはいつも通りに見えているらしいくいつものようにお世辞について話している。
お世辞を間に受けて自分のことをすごく可愛いと勘違いしてる、そう言われているのを聞いたことがあるからだろう。
「だから、友達欲しいならもう少し普通に、ふ・つ・う・に!するようにね!」
「そんな言い方しなくても大丈夫!」
今のフィリアは“私”という記憶を手に入れて強く、普通の感覚になっている。
私は任せてよ!と胸を叩いた後親指を立てリルに向かってパチッと片目を閉じた。