満月の夜に……
『クスッと笑えるシリーズ第3弾』です!
パターンとしては初めて試みた作品です。
どうぞお楽しみください!
「思ったより人多かったね」
「そうだね」
僕と恵梨香ちゃんは手を繋ぎながら夜道を歩いていた。
地元の夏祭りの帰り道。
さっきまで焼きそばやわたあめを食べながら、盆踊りを楽しんでいた僕達は、こんなに夜遅くまで二人きりで居るのは初めてだった。
「一人君。今日も送ってくれてありがとうね」
「いいんだよ、別に。僕は恵梨香ちゃんと、少しでも一緒に居たいと思ってるだけだから」
恵梨香ちゃんは頬を赤らめて、喜んでいる様子だった。
「一人君」
「何?」
「ううん……呼んでみただけ」
僕は一人という自分の名前が好きだ。
一人の《《人》》として立派に成長するようにという想いを込めて、両親が付けてくれたのだ。
そう……《《人》》として……
「一人君の家ってこっちだっけ?」
「うん。途中までは一緒の方向だよ」
本当は真逆の方向だ。
「いつも送ってくれるから、そうなんだろうなぁって思ってた」
僕は恵梨香ちゃんにいくつか隠し事をしている……
「今日の一人君、いつもと様子が違う気がするけど大丈夫?」
「ど……どうしてそう思うの?」
「何か今日は、下ばかり見ているような気がしたから」
「そ……そんな事ないよ」
「気のせいだったら良いんだけど」
本当の所は、今日はあまり外に出たくなかった。
特に夜は……
でも二人きりで夏祭りに行けるチャンスなんて、なかなかないと思い、無理をして出て来たのだ。
満月なのにも関わらず……
その後はお互いに気を遣ってしまい、あまり会話が弾まなかった……
そして、今日の僕が俯き加減なのには勿論理由がある。
「今日、一人君と初めて手を繋いだけど、一人君って意外と毛深いんだね」
「ご……ごめんね」
毛深いのにも勿論理由がある……
そう……僕は普通の人間ではないのだ……
いずれは恵梨香ちゃんにも本当の事を言わなければいけないと思っているが、付き合い始めてまだ間もない事もあり、まだ本当の事を伝える勇気が湧かなかった。
冷静に考えても、僕の正体を伝えるのはもう少し先の方が良い。
このタイミングで伝えられても、きっと恵梨香ちゃんも困るだけだろう。また、別の機会に改めて伝える事にしよう。……そう心に決めた矢先だった。
「あっ!一人君、流れ星!!」
「えっ?」
しまった!!
恵梨香ちゃんにつられて、つい夜空を見上げてしまった!!
「ど……どうしたの一人君!?」
今夜は外に出るかわりに、絶対に空を見上げないと、心に誓ったのに!
流れ星を見ようとした瞬間に満月を目にしてしまった僕の体は、自分の意思とは関係なく変身を始めた!!
「ヴグゥゥ……え……恵梨香ちゃん……実は僕……普通の人間じゃないんだ」
「普通の人間じゃない?」
「じ……実は僕……満月を見ると…………に変身して……」
僕の体はみるみる内に毛むくじゃらになり、既に人の姿ではなくなってしまった!
「ま……まさか一人君、お……狼男!?」
「キャンキャン!!キャンキャン!!キャンキャン!!」
「って、チワワかい!!やかましいわ!!」
読んでいただきありがとうございます。あきらさんです。
ボケをたたみ掛けるパターンが主流の私の作品ですが、今回はフリを長くして1オチで書いて見ました。
思っている以上に難しくて、笑えるのか分からない作品になってしまいましたが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
今後とも宜しくお願いします!