パーティを組みます
街に戻り、冒険者ギルドへと行く。そして、受付へと向かい採取したスライムの粘液の入った小瓶を渡す。すると、買取をしてくれるとのことなので、役に立つのかどうかは微妙だったが、買い取ってもらい銅貨2枚をもらった。
「それではこれで依頼達成です。冒険者カードを提出してください」
「はい」
僕は外套の外ポケットから、一枚のカードを取り出すとそれを石板の上に置いた。そして放出された光とともに、一瞬だけ淡く輝き、それを僕へと返す。
「はい。またのお越しをお待ちしております」
「ありがとうございます」
僕はカードを受け取るとこの場を後にした。
そしてギルドを出ると、僕は街の中を散策する。探すのは今日泊まる宿屋だ。
別にどこだって構わない。ただ、安い部屋を借りるだけである。
「どうしよう。ギルドで聞いてくればよかったよ」
僕は悩むようにして腕を組む。とりあえず、誰かに聞くために僕は近くで店を出していたお店を見る。それは屋台のようで、果物を売っていた。
僕はそこで一人商売をしている屈強な男の人に声をかけた。
「すみません、これをください」
僕は置いてあった赤い果実を手に取る。
まるでリンゴのように丸々としたそれは真紅の赤を帯びていた。
「おっ、兄ちゃん。それは銅貨2枚だ」
「えっと、はい」
僕は先ほどの買い取ってもらった銅貨を使って払う。
「あの、この果物はなんて言うんですか?」
「はっ?それは、『リンゴ』っていう甘い果物だぜ?何だ、兄ちゃん知らなかったのか?」
「あっ、あっ、やっぱりそうなんだ」
「変わってるな。こんな当たり前のことを……」
「ははは」
僕は笑ってごまかした。やっぱりリンゴなんだと。僕は一口かじると、まだ芯が残るが、甘酸っぱい芳醇な香りが伝わる。
僕は未だと思い、さらに聞いてみる。
「あのすみません。この辺りに安くていいので、宿屋はありませんか?」
「宿屋?何だ、見かけねえと思ったら兄ちゃん旅の人かい。そんなら、この先に【北風】っていう安くて、飯もうまいいい店があるからよ、行ってみな」
「はい。ありがとうございます」
僕はその人にお礼を言ってこの場を後にした。
そして人ごみを抜け、細い通りを抜ける。そしてそのまましばらく歩くのだった。
◇◇◇
大通りに沿った道を抜けると、少しだけ人混みも無くなってきた。そしてそのうち穏やかな道になる。僕は言われた通りに宿屋を探し、数人に聞いて宿屋までのルートを形成させた。それにより、迷うことなくたどり着いたのだった。
「ここが、北風の宿」
僕の目の前にあるのは、ちょっとした宿屋だった。赤みがかった屋根に、煉瓦造りの平凡な宿。それをみて、いいなと思った。
「すみません、誰かいませんか?」
「はい、お客さんですか?」
「はい、そうです。あの、『いい宿屋はないですか?』と聞いて、ここだと言われたんですけど」
僕がそう言うと、そこに立っていた美人なエプロン姿がよく似合った女性が、立っていた。その人は優しい笑顔で、僕に問いかけた。
「まあ、いい宿屋なんて。どうぞ、ただいま部屋は空いておりますので、一泊銅貨8枚朝食と昼食、それから夕食もついています」
「じゃあ、一部屋お願いします。お代は前払いでいいですか?」
「はい。うちは、前払いですので」
「それじゃあ……」
僕はポケットに入っていた1枚手渡した。
このお金は、この世界に来る前に手持ちにあったお金を換金してもらったのだ。しかし、世界によって貨幣価値は変わる。僕はあまり持っていなかったので、今は金貨2、3枚ある程度だ。それに僕は、お金の価値はわかる。
「えっと、金貨1枚……これなら一ヶ月は問題ないです」
「そうなんですか!それじゃあお願いします」
驚いたのはこの世界の貨幣価値が少しわかったことだ。さっきの果物に銅貨、銀貨と続いた。それによって何となくわかってきた……ような、気がしただけだ。
「あの、ちなみに銀貨って銅貨何枚分なんですか?」
「えっ?えっと、はい。銅貨50枚ほどで、銀貨1枚と同じ価値ですが?」
それを聞いて、この世界で僕が銀貨を提示したことで、何となくつかめた気がする。少しだけ、顔が曇る。焦りかもしれない。この世界での貨幣価値はやはり僕のいた世界とは違う。でも、それでもいい。他世界に馴染む。それが一番な近道だ。
「では、部屋を案内しますね」
「はい」
僕は二階へと続く階段を登る。
そして、奥の部屋を案内された。
「朝食は朝7時。昼食は12時。夕食は7時です。もし、必要のない際は、事前に連絡をいただけると幸いです」
「わかりました」
「それでは、ごゆっくりおくつろぎください」
そう言って、部屋の鍵を手渡すとトコトコと出て行った。そして、今晩の夕食はスパゲティみたいなのであったことを早めに言っておく。
次の日。僕は朝早くに目が覚めた。
そして、冒険者ギルドへと向かう。その際、出かけることと、昼食は必要でないことをここの宿屋のオーナーである、女性。名前を、『ノース』さんに伝えた。
◇◇◇
宿屋を出て僕が最初に向かうのは、当然のように冒険者ギルドだ。この世界で強さの定義を見つける前に、まずはこの世界になれる。そのためにも今は地形を知る必要性があるのだ。
昨日と同じ道を通り、同じ扉をくぐるとやはりそこには賑わいがあって活気に満ちていた。僕は、昨日と同じく何かいい依頼が貼り出されていないかどうか見に行った。
「最近、森の方がえらく静かだよな?」
「森っていうと、あれかい?あの東にあるあれかい?」
「ああ。何でも、大型のコボルトが縄張りにしてるんだと」
「マジかよ。この街でコボルトとか早すぎだろ。しばらく森に行くのは控えようかな」
「だな。俺らみたいな冒険者、命がいくらあっても聞いた限りの大きさのやつには勝てねえよ」
そんな意味深な嫌な噂が耳に入った。しかし気にしない。そもそも、森とはどこのことだろうか?人ごとには思えない、今はこの世界のことを学ぶことが優先だ。
「えっと、今日は…」
「ねえ、そこのあなた」
「えっ⁈」
僕が横を向くと、そこにいたのは一人の少女だった。
目が大きく、整った顔立ち。長い赤みがかった栗色の髪を、ポニーテールにしている。格好を見るに、スピードに特化した冒険者に見える。
「何?」
僕が優しく端的に聞くと、少女言った。
「私とパーティを組まない?」
僕は首を傾げていた。
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