初クエスト
まだ日が高いので、僕は何か簡単な依頼が何かどうかクエストボードへと足を運ぶ。
そこにあったのは、大きな木の枠で作られた、ボードが壁に掛けられている。下を支えるようにして、中位の木が支える形である。
僕は、そこにたくさんの紙が貼られているのを見た。そこに貼られている紙には、依頼内容であろうまだ慣れない文字列や、赤く太字で押されたアルファベットが目に入る。
(この世界には、アルファベットがあるのかな?)
僕はそう思って、複数貼られているボードの中から、一番左にあるひときわ大きくて、たくさんの紙が貼られたボードを見る。そこには、白いきれいな紙や少し薄焦げた、茶色い和紙のような紙が目に入った。
「えっと、これがFランクの依頼……結構な数があるんだ」
僕は一瞬、驚嘆混じりの関心を吐いたのだが、それと同時にこの世界にも困ったことがたくさんあるんだなとどこの世界も同じだと思えた。
僕はそこから、適度な依頼を見つけようと目を交差させる。しかし、すぐにために止まったのは手を伸ばせば簡単に届く位置にあるものだった。
「これは……?」
僕が手に取ったのは、真っ白な紙に書かれた内容のもので、以下の通りだ。
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【討伐】『スライムを討伐して!』【報酬】銅貨5枚
最近【そよ風草原】にスライムが多数発生していて、困っています。倒してきてください!
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簡単なものだと思うのは、客観的に捉えてしまったからだ。だけど決して油断しているわけでも、楽そうとでも思ったわけではない。ただ、これで確実に魔物がいることだけは伺えたので、それだけがわかったからとりあえずかの依頼を受けることにした。それに、困っているのであればほっとけないし、報酬も銅貨3枚とかの世界の貨幣価値がまだわかっていない僕にもとっても、必要最低限であることは何となくわかったので、まずは少しでもこの世界に慣れて出来上がって対応力を養おうと思った。
(そういえば、パーティか……作れたらいいな……)
僕は心の中でそう思った。まあ、今日はいいかなと思いながらその依頼用紙を剥がして、先ほど僕が登録した受付へとその紙を持って行くのだった。
歩くたびにほんの少しだけ外套が揺れる。首から下げるペンデュラムも振り子のように上下するのを感じたのだった。
◇◇◇
「すみません、この依頼を受けたいんですけど」
「あっ!先ほどの…早速依頼をこなされるのですね」
「はい」
「それでは、依頼の紙と、契約金をお納めください」
「はい」
【契約金】それは、依頼を完遂することができなかった際の保障のために、事前に払っておかなければならないものである。仮に、依頼が達成されず放置すれば、【契約金】は帰ってこない。しかし達成すれば戻ってくる。この契約金は、パーティであっても一人分だけで良い。
僕は契約金を払うと、受付嬢は軽く一瞥して、向きなおる。
「それでは、どうかご武運を」
「はい。それと……」
「はい?」
「この【そよ風草原】とはどこにあるんでしょうか?」
「はあ?」
僕はこの世界の地理関係に対し、全くの無知といっても過言ではないのだ。だからおかしな質問かと思われたが、聞くしかなかった。
「【そよ風草原】はこの街のほんの少し行ったところにある、広大な草花の咲くところです。春になると、たくさんの魔物が現れます。冬には、一面が白い雪に覆われますよ」
「あっ、はい。ありがとうございます」
僕は質問の答えに対し理解をしてその場を去った。
しかし、武器も、防具も何もない。
(まあ、魔法で何とかするしかないかな。あと、体術とかで……何とかなるといいけど)
少し不安がよぎったが、まあその心配はいらないだろうと思うことにして僕はギルドを出た。
◇◇◇
【そよ風草原】。行ってようやくわかった。先ほど僕が通ってきたところがそうだったのだ。街を出ただけでも、一本だけ大きな大樹が目に入る。つまりそこまでの距離はないのだろう。
「それで、スライムはどこに?」
僕は周りを見渡す。遠くの方まで見渡すと、その先に小さな透明な物体が見えた。僕の『眼』はかなりいいはずだ。身体的能力値も、かなり高いと自負できる。一度捉えたその物体は小さく映るが、その姿だけはかなりハッキリと見ることができた。
「あれだよね?スライムって」
僕が見えたのは、ほんの少しだけ緑がかっていてだけど覆うようにして透明な丸い形をしたものが動いている。その動きはノソノソとしていて、時々ボールのように小さく跳ねる動きが特徴的だった。
「よし。倒すか」
僕はその姿を見ると、気合を入れた。武器がないので、とりあえず魔法で戦うことにする。
軽く走る。風が気持ちいい。音はしない。音を立てずに走ることは、そこまで僕には困難ではないので黒い外套を揺らしながら、目にとまった一匹の緑色をしたスライムに狙いを定める。
「《シャドウナイフ》」
僕はまるでナイフでも持つかのように、右手の人差し指と中指を絡めるようにはらった。
すると、そこから放たれるのは漆黒のナイフ。刃先は短めだが、鋭く尖っている。
「キュィィ!」
スライムの悲鳴が草原に広がった。
僕はそれを聞いて、倒したことを認識した。しかしその前に僕は周りに警戒をしている。戦闘慣れしているせいなのか、僕の意識は敏感になっていた。
しかし久しぶりなためか、少しなれる必要があった。
「一匹ってわけはないよね」
僕の警戒態勢の鋭い意識は、まるで膜を張っているかのように周囲に拡散する。しかしそれは未だ殺気には遠く及ばないもので、意識の拡散だけでは敵の位置を把握しきることはできないのでいた。
「よし、《魔眼》発動」
僕は魔力を両目に集中した。すると、周りの魔力が溢れるように感じられた。《魔眼》夜間の修行は故郷にいたときからずっと鍛えていた。暴走しないようにするために、必要なことでもあったからだ。
「あっちにいるね。よし、行くか」
僕は再び軽く走り出す。
風を切るたびに、外套が揺らめく。ペンデュラムが揺れ、髪がなびく。
《魔眼》を解除しても、しっかりと標的を捉えることのできるところまで来たところで、今度は三匹のスライムを見つけた。僕は今度は空間自体に魔法陣的なものを展開し、再び《シャドウナイフ》を展開。今度はより鋭く。そして、手を軽くはらい投げ飛ばした。
「「「キュィィ」」」
音が拡散する。そして、絶命した。周りにはもうスライムの影はない。あるのは生き絶え、液状になったスライムの残骸だけだ。僕は討伐したことを表すための、スライムの体液を小さめの容器の中に入れた。救うことは容易であった。
「よし、これでこの辺りは終わり」
僕はビンの中に入れたそれを、外套のポケットにしまい込んだ。この世界では未だ見ないこの格好はこのせいでは目立つだろうことと、依頼達成への満足感を胸に。時間はそこまで経っていないことも踏まえて。
しっくりくるように書いていきます。