魔獣無双流の使い手
今回もいい感じです。
僕はそう宣言し、伝えるともう走り出していた。
そしてゴブリンどもの目前へとやってくると僕は瞬時に剣を鞘から抜いた。そして斬りつけた。
グギャと鈍い声。
そして瞬間的に目を付け、次なる敵へと斬りかかる。乱れるように攻撃が来る前に次の敵を殲滅する。
川の流れのように流して切りつけて、小回りの各最小の動きで重心を移動させ、手首のスナップを効かせることで気付かれずに倒す。
ばたりと倒れていくゴブリンたちの死体の山。すでに動かなくなり腐りゆく道を辿る死骸たちだ。
そのことに気付いたのか、他のゴブリンたちの視線が痛いほどに集まる。それを好機と見て、僕はさらに近づいた。
魔法は使わない。縮地と呼ばれる武術の域の範疇で抑え込んで、瞬間的に適度な距離を一気に詰める技だ。
ギャァァァ!
途中走る中で愚策にも一匹のゴブリンが手に持ってきた棍棒を投げつけた。
それを難なく身を翻し躱すと、僕は先の戦いで使い物にならなくなってしまった血糊べったりの剣を叩きつけた。
「はあー!」
「グキャァ!」
ゴブリンを倒してその叫びが上がる。
それを遠い残響のように掠め聞き、僕は次のゴブリンを倒して頭をかち割る。そして周りのゴブリンどもを撲殺で一掃し、全ての敵意と視線を集めたもの。
その瞬間ーー
「今だよ、フレア!」
「はい。光の盾よ、我らを守護し敵を撃てー《プロテクト・オーブ》!」
その問いに唱え答えるようにして、頭上の天井の影より襲撃してきたゴブリンの大群を打ち滅ぼした。
まるで塵のようにして消え失せる。
爆発したかのような衝撃と閃光がほとばしり、一瞬にしていたかの空のように静かになった。その光の盾は長く続き、天井に向かって目を細めるがそこには怯えるゴブリンの群れと、光に閉ざされて消し飛んだと思われる浮遊物だけだ。あれはもう終わりとしか思えないが、そこに追撃としてバリスタの矢のような魔法の雨がこちらから降り注いでいった。
「終わりました。これで全部です」
「わかった。あとは僕に任せて!」
「頼む」
「お願いね」
「任せます」
そう頼まれたので、僕は堂々と「わかった」と唱えた。
そして、ゴブリン共に向かってこう堂々として言った。
「さあ、やろうか!」
僕の目は、悪魔のそれと変わらずに、剥き出しの好奇心と戦闘欲にかられていたのだった。
◇◇◇
僕は剣を構えた。
血液がびっしりとつきすぎていて、もう使い物にならない。
それはゴブリンにもどうやら分かっていたようである。
「グギャァァォ」
とても大きないびきのような鳴き声。
警戒して、使い物にならなくなってしまった剣を構える。
その一瞬の間をついて、ゴブリンどもの中でもいささか短気なものたちが先になって攻撃をさかけてきた。その間合いに合わせ、タイミングを見極める。
そして頃合いを見て、僕は後ろへと飛んだ。
そのほんの一瞬の間に自体は大きく動いた。
僕は腰のベルトより、四本の短剣を外套に忍ばせそれを指と指の間に挟んで、投げつけたのだ。
一瞬の間、全てが凍結して止まった。かに思えた。
その時何が起こったのかは本人しかわからない。当事者となった彼自身が、黒一色の外套に短剣を隠してそれを無象にもゴブリンどもの脳天へと命中させて絶命させたのだ。
「魔獣無双流小太刀術ー『四斬鴎』」
ばたりと倒れた。
その流れに乗じて身を任せ、僕はさらに追撃へと走った。
敵前の前で無駄なことはしない。命に関わるからだ。僕は一切の油断を排除して、目の前の的に集中した。その時は流れるようだった。まるで先が見えるかの如きだ。
僕は失った短剣を回収せずに踏み潰して、次の敵を殲滅しにかかった。使うのは先ほどの戦闘で死んだゴブリンの棍棒だ。それを振り回す。
遅いからゴブリンの集団を待ち構えて、一番前線に立っていた少し大きめの強そうな奴を狙う。
とてもがっしりとしたいい体格をしていた。僕に向かって攻撃してくるが、今度は魔法も交えた。
「《シャドウナイフ》の更なる応用編を喰らえ!」
影を束ねた魔法のナイフを、陰の中へと投げ捨てる。
陰の中へと隠したナイフは無造作に跳ね返り、潜んでいたそれを脱却してゴブリンの背中へと突き刺さる。
それに合わせるかのようにして、その間に僕は棍棒を振るう。しかし、届かないので少しジャンプさして、落下の勢いを味方につけた。
「喰らえよ、魔獣無双流戦棍術ー『鬼滅一閃』!」
この技には何のそれもない。
真に相手に向かって堂々として、真一文字を放つだけだ。でも、この技にもれっきとした応用編があり、それは今にわかった。
バキッ!音がした。
その音はとてもすぐ近くから聞こえ、そして間も無く弾けた。
バキッ!の後にバコーン!という良い音。
おそらく耐久性に難があったのだろう。
弾け飛んだ棍棒が追撃となって被弾。割れてとっても鋭い刃となって襲い掛かり、それが顔面に命中して視力を完全に奪った。
真っ赤に血塗られたその表情は読めず、顔に爪を立てて慌てふためく。それはわかった。
その間にも追撃の手を止めることはない。
その他にはゴブリンから奪った、短剣。
短剣の持ち主は、先ほどのゴブリンだ。倒れこむ寸前の隙をついて、暗殺者を思わせるように抜き取った。
そのまま、容赦なく僕はゴブリンの首元にそれを当てて、こう言ったのだ。
「悪く思うなよ」
容赦はしない。まるで吹き抜ける嵐のようにそして気流のように瞬時にして静かに襲う。そして僕の攻撃は休むことなくその場にいたい方ものゴブリンたちを殺して死骸を積もらせた。僕のその剣技とやいばの動きは交差して敵の首を掻き切って、倒した。
◇◇◇
一方その頃で、フレア達は。
「行くぞ、リア。フレア!」
「うん!」
「はい」
私達は呼応して、答えた。
即座にエルフィーは走り出す。リアも続いて、私は魔法で応戦した。エルフィーはエルフ族であるものの、弓を使わない。
リアも、揃って敵と対峙している。私は自分の周囲の敵を滅ぼした。別に特段苦労はしないし、疲れもしない。むしろ頼られることに快感と、純粋な好意を覚えていて私はとても生きがいを感じていた。しかしそれは、私の夢とかけ離れている気がしてならない。
フェイが必死になって稼いでくれている時間を無駄にしないためにも、私達は全力で走った。
私にはなんとなく理解出来た。
いくらあのフェイが強いと言っても、限界はあるはずだ。だから早く言って加勢しないといけないと思えた。
「止まれ!」
腕を振って走っていたエルフィーが急に止まった。耳をぱたつかせて音を探知して、こう言う。
「この先にゴブリンがいる。どうやら当たりのようだ」
「わかったわ」
「了解しました」
「では、行くぞ!」
そう言ってエルフィーは無造作にも飛び出す。
しかし私とリアが飛び出した頃にはすでに決着がつき、そこには血塗られた死体の山が作られるだけであった。おそらく、魔法 《アクセル》を使ったのだと思われた。その後からして、洞窟の地面が少し削られていることが伺えたが、真新しかった。
ゴブリンの死体の裏に木で出来た扉があった。
とても小さい。人間の子供の大きさ程度だが、ゴブリン達にとっては十分すぎる程だ。
その木の扉をエルフィーは問答無用で蹴破り、中に入る。リアは外で見やりをし、私も中に入った。中は意外にも広かった。そしてそこに広がる景色はとても腹立たしくて、歯を噛み合わせた。
見るも無残にボロボロとなった肌。
多数の傷口を持ち、そこから固まった血液を垂らして絶望に打ちひしがられた顔をする少女達。服は剥がされ、柔和な肌が見える。
裸にされて辱められたとしか思えないような絶望感。それが異臭とともに充満していた。私は不器用に笑いかけ彼女達に優しく声をかけた。
「もう大丈夫です。さあ、早く逃げましょう」
次の瞬間。
私が語りかけた少女の影から何かが見えた。薄くて鋭い残光。私はそれに向かって瞬時に切り替え、杖の反対側で思い切り突き刺した。
ゴブリンの脳天に突き刺さった杖を抜き取り、私は翻したマントでそれを拭う。
そして私はもう一度優しく語りかけ、慰めるとすぐに皆さんに声をかけてこの場を後にした。そして、少女達を誘導して洞窟の外へと走って出ると、私は結界を張ってか弱い少女達を外部から守り急ぎ洞窟の中へと入ったのだった。




