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光の黒魔剣士は異世界で冒険します!  作者: 水定ユウ
第2章 王都の黒羽
35/39

群れ


洞窟のさらに奥へと進むと、中はより入り組んだ形状へと変化していく。


それと比例してなのかゴブリンたちの襲撃も厳しくなる。

最初洞窟の入り口で戦ったものよりもより戦略的に配置されたそれらは、奇襲戦を仕掛けてきた。

しかし、その全てをことごとく打ち払う。エルフィーの俊敏性に、リアの勘の良さそれからフレアの魔法とが見事に噛み合った次第だ。


「しかし、妙だな」

「何が、エルフィー?」

「この仕組まれたような配列だ。まるで私たちを相手にしているような気がしない。一応全て奇襲戦ということで、勝算はあるが…それでもここまでの順当性はやはり違和感を覚える」

「言われてみれば、確かにそうだね」

「私も同意見です」

「フレアも?」

「はい。私にもこれがゴブリン単体による仕業とは思えません。おそらくは、もっとより高度な知能を持つものの介入。それこそ、ゴブリンキングを超える種、ゴブリンロードが現れたか、数で攻め立てるクイーンが現れたのかですね」

「ロードに、クイーン」

「確かにその可能性も否定できないが、この場合はクイーンの線は消したほうがいいだろう。もしかしたら、またこの前のように『呪い』の影響かもしれないからな」

「あれか」


少し黙って考える。

確かにその線はないこともない。

しかしだからと言って可能性の範疇でしかない情報を放棄することはできないはずだ。


そんな風にして思考を巡らせていく一方で、一つわからないことがあった。ロードとは何か、クイーンの特徴はといったところだ。


どうやら、同じことを考えていたらしいリアは唐突にフレアに尋ねた。


「ねえ、ゴブリンロードとかクイーンとかって何かしら?」

「もしかして、リアさんご存知ないのですか?」

「うん」

「そうですか。わかりました。では、簡単にご説明させていただきす」

「願い」


こほんと一度軽く咳払いを挟むフレア。

エルフィーは大剣を構えて、周りに警戒の目を飛ばす。僕もそちらへと気を回すが、耳を傾けて聞いた。


「ゴブリンロードとクイーン。どちらも極めて稀な種です。ゴブリンロードは、ゴブリン種のオスのうち、約一パーセントの確率で出現する洞察力に優れた英雄と呼ばれるものです。クイーンは、通常ゴブリンとは他者の胎内で繁殖するといういかにも汚らわしい性質を持つのですが、約三割近くはメスなのです。その中で特に目立ったているのが、このクイーン種です」

「へえー。そうなんだ」

「なるほどね」


先にリアが関心を示し、僕もその直後に同じような関心を示す。

そんな僕の反応を見て、反応を変えた者がいた。

フレアは僕のそんな反応を見てか、目を見開き驚き知らなかったのだと知ったエルフィーもまた然りだった。


しかし、どちらもすぐさま本来の素に戻りエルフィーは大剣を背中に担ぎ直し、フレアもそそくさと歩き始めた。

僕とリアはそれぞれが、一旦顔を合わせまで合図を送り合いそしてフレアたちの後を追った。



◇◇◇



その後は奇妙だった。

突発的だったゴブリンたちの行動に変化が起きたのだ。まるで仕組まれているかのように感じられ、突如として襲撃が止んだのだ。その行動原理と概念はさほどよくわからないが、これを好機と見るそれとも警戒に寄せるかだと満場一致で警戒へと走った。

そしてリアがポツリと呟く。


「ねえ、静かよねー」

「だね」

「絶対にどこかに潜んでるよね、フェイ?」

「そうだね。確かに警戒を突き詰める必要があるね。だとすると、そろそろ見たほうがいいか」


立ち止まって魔法を使おうとしたのだが、そこでエルフィーに制止された。

右手を横へと突き出し、先に行かせないやつにするとともに「しゃがんで隠れろ」と言われた。

意味不明すぎる言動に聞こえたが、周りの岩肌を見てなんとなく察した。


「エルフィー」

「ああ、この先にいるな」


二人の意見は共に同じだった。


この先、岩肌が妙に薄く削れている。しかも触り心地がいい。

滑らかになった壁。つまり、そこから連想されることはこの辺り一帯で何者かが闊歩(かっぽ)し、かなり前から使われていることである。

そして間違いなくこの先にはゴブリンがいてそこが巣になっている事と、かなりの数がいると思われる事である。


「この削れ方を見るに、五十は軽くいるだろうな」

「だね。しかも、ここまでの間に戦力をあまり咲いていないことを考えると、統率力の高い何者かが率いている可能性がかなり高いね」

「ではやはりロードが…」

「それはわからないよ」


僕はフレアの考えには少し乗れなかった。

確かに話を聞く限りのロードの力は絶大だろう。

でも、何かが引っかかる。

ここに至るまでの先を考えても、ゴブリンだけの力とは思えない。でもしかし、なに一つとして根拠となり得る証拠はない。これはあくまでも僕個人の考えだ。でも、何故だろう先程から、感じたことのある強い嫌な感覚は。


「とにかく、この先に敵がいるんでしょ!早く倒して、攫われた女の子達を助けましょう!」


とても元気な意気揚々とした言葉が、洞窟内の湿り気をなくす。陰気になってひたすら考えていた頭をからぽっぽにさせた。まるで太陽のようだった。

屈託のない笑顔と、瞳がそれを示す。

何人たりとも紛れ、変えることのできないような明るさはリアにとっての武器だろうと思いリアがいてくれて感謝をした。


「はあー…そうだね。無理に可能性ばかりを考慮していたら、手遅れになる。わかった、行こう!」

「確かにフェイさんの言う通りです。私たちの目的は攫われた人たちを救出することです。まずはそのために頑張りましょう」

「わかった。たとえ何匹いようと、フレアの魔法で何とかなるだろう」

「エルフィーの魔法も頼りにしてるよ」

「それはありがたいが、私は魔法が好きではないんだが」

「そうだっけ?」

「ああ。言っていなかったか。私は、いやエルフ族は弓術や魔法が高いとされるが私は魔法は好きではない。そんな当たり前の固定概念を覆し、私は近接攻撃に魅力があるのだ」

「でも……」

「わかっている。出し惜しみはしない」


苦虫を噛み潰したように表情を変えた。

エルフィーは覚悟が出来たらしい。


「その代わり、フェイも出し惜しみするなよ」

「もちろん」


堂々と宣言。

嘘偽りなどない。そのためにこれだけの武器を集めたのだと、僕は外套の中にしまい込んでいた武器の数々の先端を見せびらかす。

そして、フレアとリアにも合図を送り向かった。



◇◇◇



少しばかり小走りをした。


しかし、音はしない。


フレアの魔法、《サイレント》によるものだ。

この魔法は隠密に適している無属性魔法だ。

僕らはそうして走って、少し広いところに続くエリアまで来た。


そこを先を先導していたエルフィーが立ち止まり、中の様子を確認する。

僕らもエルフィーが罠の類がないかを探っている間に、あたりを確認はつけられていないことを確認した。そして僕もここで《魔眼》を使う。


魔力の波が見えた。それらはレーダーのようにあたりを識別して、赤い点を脳内に映し出す。

数は多い。平地の地面に幾つもの粒ができる。


「多いね」


独り言。

そして目線を飛ばして拡大し、さらに奥に大きな気配があることがわかった。これがこの村を率いるボスだろう。しかし僕はその気配に違和感を覚えた。

その違和感は明らかなもので、かつて感じた(・・・・・・)嫌悪の悪気(・・・・・)に似ている(・・・・・)


その恐ろしいほどの威圧感に気圧されそうになりかけたが、僕は堪えた。

逆に心の中で反逆の牙が剥き出しとなり、奇妙な興奮がよぎる。僕にとっては好都合だ。


また天井に意識を傾ければそこにも気配を感じる。

微弱な魔力だ。こちらには違和感はない。つまりはゴブリンだ。


「エルフィー」

「ああ、いるな」

「天井にもかなりいる」

「そうか。それは厄介だな」

「フレア」

「はい」

「何か手はない?」


聞くとフレアは即答した。


「ありますよ。私に任せてください」

「わかった。任せるよ」

「はい」


フレアに託した。

そして簡易的な作戦を立てる。


「目的わかってるよね?」

「もちろん!」

「攫われた人たちを救い出すこと」

「あわよくば、ゴブリンどもを殲滅することだ」

「そうだね。じゃあ、フレアとリアは先に攫われた人たちを助け出した。早くしないと手遅れになるし、人質として盾にされるかもしれない」

「オッケー!」

「わかりました。ですがあの数ですよ?」

「それはなんとか牽制しながら進んだ、あとはエルフィーに任せるよ」

「「うん(はい)」」

「わかった。やってみよう」


するとフレアが手を挙げる。僕はそれを促すと、こう告げられた。


「フェイさんは何を?」

「僕は敵陣に切り込むよ。そしてあの大きな魔力の影を叩く」

「一人でですか?」

「救出が完了してから、援護を頼める?」

「わかりました」

「じゃあ行こうか」

「わかった。だが、いいのか幾ら何でも一人で相手にするのは」

「大丈夫だった。だって、魔獣無双流はこういう時は無敵だからね」


そういうと、僕は飛び出したのだった。

少し長いです。

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