殲滅する刃
洞窟の中は暗い。それが当たり前の世の中で、通常は松明やランタンなどといった灯りを灯す事により人間は視野を手に入れる。
対して魔物は、こういった空間に慣れ親しんだものが多く、それ故に魔物の目は暗闇に対して有効に作用する。
しかし。今はむしろ逆だ。
この洞窟内は、白夜の世界のように眩しいほどに明るい。
その根本たる要因は、フレアの発動した《ライト》の魔法だ。外の世界でも明るかったが、暗闇の中ではその明るさが一斉にほとばしり、暗闇の中に突如として咲き誇った花火のようだ。
「流石にこれだけ明るかったら、どこにゴブリンがいるのかもわかりやすいね」
「だな。フレアの魔法能力は異常なほどに高い。この数値は、一体どこから出ているのか知りたいものだ。こんな小さな子から」
エルフィーは、そう返答した。
同意見だ。フレアはそれを無視するかのように、前を見ている。しかしその道化のような眼には、何が写っているのかまるでわからない。しかしその心願には、きっと僕ら以上に鋭いものがあるに違いない。
そう思っていた矢先だ。僕のセンスが引っかかる。
僕は前に出て、左手を横にし静止する。
すると、全員が警戒態勢を取りつつ後退した。
目の前に見える岩陰。明かりが照らしきれていない本当に影の部分に見えたのは、緑色をした体皮だった。
その緑色をした姿に、破れた服に腰蓑。それから手には棍棒を持っている。それは小鬼だ。厳つい顔つきに、牙を生やしたそれがいくつかいる。
それは確かにゴブリンだ。しかし、明らかにこの前のとは違う。
怯えているわけでもない。無関心なわけでもない。むしろ好戦的と見える。
僕はその姿を確認すると、後ろへと気配を巡らせる。殺気のようなものを探知できた。ここに来るまでの間に脇道でもあったのだろうか?兎にも角にも、やるべきことは決まった。
「みんな気をつけて。後ろにもいる」
「らしいですね」
「だね」
「フレアは後方支援。リアはフレアをガードしつつ遊撃を」
「はい」
「任せて」
そう指示した。そして僕とエルフィーの攻撃部隊は、それぞれどちらを相手にするのか瞬時に決める。
目の前のゴブリンは、だいたい十匹。
後ろからは、十五は確認できる。
それを踏まえた上で、エルフィーに語りかけると、唐突に言った。
「私が前衛を引き受けよう。こんな洞窟だ。私の剣では刀身が天井に当たってしまう」
「わかった。後ろは僕に任せて」
「頼む」
そう返事をし、拳を合わせる。
武器を構え、それぞれが向き直る。と、同時に走り出した。
◇◇◇
振り向きざまに見えた光景。
それはエルフィーが、背中の大剣を真っ二つにして、双剣にしたところだった。
そしてその双剣を交差させ、刃と刃がぶつかり合いつんざくような音が洞窟内を反響した。
私は双剣を駆使して、目の前の敵を殲滅していく。
こんなにも狭い洞窟というフィールドでも、私は長年剣を降り続けてきた。だがら、そんなデメリットも関係ない。
「グギャァァァ」
目前のゴブリンが叫ぶ。
うるさい声を軽くあしらって、目前のゴブリンが手に持った棍棒を振るうよりも早く私はゴブリンの首を落とす。もちろん、魔法は使っていない。
それを皮切りに、私は目前より迫る大量のゴブリンたちを相手にした。
一匹一匹の力は弱く、ひ弱でだ。数を集めて大軍となれば、その勢いは脅威となる。しかし私はそれを相手に一切ひるむことはない。理由なんて簡単だ。何故なら…
「かかって来なよ。そして、その命で神に償え」
と、不敵な笑みを送り狂気の前歯を見せたのだった。
エルフィーは、不敵な笑みを浮かべた。
その後の光景は、吐き気を催すように見事だった。
迫り来るゴブリン達。それを双剣の刃でまずは二体。そして後ろより迫ったゴブリンを後ろ回し蹴りで撲殺。
続いて流し目に迫り寄る三匹を、振り回した剣で頭を次々に切り落としていく。
血糊が付いた剣は斬れ味が悪いが、それをも加味して撲殺していくエルフィー。
一方その頃で、フレアとリアはと言うと。
「いくよ、フレア!」
「任せてください」
元気に叫ぶリアと冷静なフレア。
冷静に分析するフレアと、好戦的で後先考えない無鉄砲なリアは抜群のコンビネーションを見せる。
「はあー、てやっ!」
リアは両手のガントレットをゴブリンどもの脳天へと叩き込みショック死させる。潰れた形は見事で、第二第三の敵をも、蹴りと拳を合わせることで、無敵に倒す。
どうやら、フレアが援護して《ブースト》の魔法をかけているらしい。それがなくてもリアは異常に強いが。
「落ちて、《フレイム・ジャベリン》」
さらにはフレア自身、自らを守る形で展開した炎の槍と天井から落とされていく、炎の槍とを駆使することで、ゴブリンの頭を潰して血液を散布していく。
そして間をくぐって棍棒を振るったゴブリンも、リアの拳で粉砕。向かう所敵なしだ。
「まったく、相変わらずやってくれるよ。これは僕も負けてられないね」
そう深々と宣言し、異様な笑みを浮かべた。そして腰の長剣を手に取り、鞘から抜いた。
◇◇◇
腰の長剣を抜いて、僕は一度呼吸を整える。
この不気味な笑みは、恐怖に怯え震えたわけでも血なまぐさくて、腹立たしい怒りの狂気に飲まれたのでもない。負けてられないという感覚と、楽しいという不気味さが相待った結果だ。元々、僕の剣…いや、技は誰もが一人の時の方が使いやすいのだ。
「さあ、やろうか」
そんな一言とともに、繰り出されるゴブリン達の棍棒やら剣やら、槍やらの動きを全て見切る。
そしてカウンターで血を一滴たりとも垂らさずに殺す。こんなにもするのは、こんな弱肉強食のこの世界で生きるすべ。こんなにも無慈悲にできている世界ではこれが当たり前。そう判断した時もあったが、今では少し変わりつつある。何かをなすためには何かをしなければならない。そのために僕は戦っているのだ。
「見せてやるよ。喰らえ、魔獣無双流剣術ー『旋陽炎』!」
敵を殲滅するために、敵陣に突入しそれと同時に風のように切りつける。その動きに至っては、嵐のように現れては陽炎のように揺らめいた残像にしか映らない。そしてばたりと倒れたゴブリン。
鞘に収めて倒れるのではなく、振り向きざまに時間差で次々と絶命していく。
「さて、終わったか」
僕らは血液に汚れた服をフレアの魔法。水属性の魔法で洗い流すと、それぞれが顔を合わせ洞窟のさらに奥へと進むのだった。
今回はかなり読みやすいかと思います。これを維持したいです。是非読んでくださいね。




