傀儡の呪い
ある日、僕らは揃ってギルドへと赴いていた。
理由としては別段変わったことはない。
僕達は冒険者なのだから、いたって普通だ。先の戦いを踏まえて、僕は少し成長した。そのはずだ。
その証として、Dランクに昇格した。これで過半数がEランク以上なので、より危険な依頼を受けることができるようになった。
「それで、何にするんですか?」
「そうだね。どうしようか?」
「またゴブリンでも狩に行くか。この前のアレは、本来のゴブリンたちの動きとは思えん」
「確かに。あれはこう、誘っている感じがしたからね。あれは」
エルフィーと言い合い、過去の体験を振り返る。
今思えば、あれは誰かの介入があっての動きだ。でなければ、あんな草原にゴブリンたちが何の対策もなしに居座るなんて不自然でない。
「ゴブリンって、あの緑色の小鬼だよね?」
「そうですね。比較的数が多い上に繁殖力も高い魔物ですね。しかも人間の女性を連れ去り、その胎内で自分たちの仲間を増やす。全く不愉快です」
「それにだ。家畜に積荷。あまや街まで進軍してくる貪欲さを誇る。まさに嫌われ者だ」
「へえー。でも、強いんでしょ?」
「確かに弱くはないです。あまり知能が高いとは言えませんが、それでも覚えはいい方でそれに加え集団になると無類の強さを見せます。前に一度狩に行ったのですが、その時もやはり数が圧倒的で……」
「なるほど。どこの世界も同じなんだね」
僕の口からそう溢れた。
フレアは人形のようにじっとして、エルフィーは考え込むようだ。それをリアはじっと見る。
僕はそんな光景に対して呆れることはなく、みんなのことを考えてだがあえてその依頼を受けることにした。
「すみません。依頼を受けたいんですけど」
「はい。って、貴方はこの前の」
「あれ?あの時の受付嬢さんですよね」
「はい。この間は大変失礼いたしました。えっと、私の名前はリズです。今後ともよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
とても誠実そうで真面目な方に見えた。
黄金色の毛先と海を思わせる青い瞳が心を奪う。そんな感じだ。
受付嬢のリズは、とても微笑ましくにこりと笑った。
そんな話の間を縫って今度はエルフィーが投げかける。話はこのあいだの頼み事だ。
「ところで、この間の死骸からは何か分かったか」
「あっ!エルフィーさん。いいえ、今だになんとも言えません」
「そうか」
「はい。もう少し詳しい材料があればいいのですが……例えば、そうですね。国の機関に連絡するとかですかね」
「国のですか?」
「はい。私達のものは、ギルドに提示された過去の魔物の資料や現存しているものから参照されるデータを基にして即座に割り出しますが。どうも強い呪いのようで、それが今だに手間取ってしまい」
「わかった」
エルフィーは、納得したのか早々に話を折った。
興味が失せたわけではなく、どうやら次のことを考えているようだ。僕らはそれを噛みしめるように同意し、こくりと頷くと一礼した。そして依頼内容を復唱した。
「この依頼はつい昨日入ったものですね。ここから数キロほど離れた村で女性を狙った誘拐があったそうです。時刻までははっきりしていませんが、どうやら緑の小鬼。ゴブリンの仕業なようです」
「わかっている。だが、この村までの距離を考えると、やはり洞窟か」
「ですね」
「では松明がいるか。それか別の灯りが」
「大丈夫です。私の魔法で皆さんを安全に導きます」
フレアは胸を張った。
僕らはとても頼りになる仲間を持ったのだ。しかし洞窟か。ゴブリンということは、今度こそ師匠の技の真価を発揮する時が来たらしい。この魔獣無双流はこういった場面で活躍するのだから。
◇◇◇
ゴブリンの現れたとされる村まではそこでの距離はなかった。
僕らはそれぞれが出来るだけの準備を行って、街を出た。しかし、向かうのは洞窟だ。狭い場所での戦闘において、長剣はやや不利。僕はある程度の装備を一式揃えた。まあ、全てそこまで高価ではないため武器屋で安価で手に入った。
そして今その目的地でもある洞窟の前にいる。
ここに車での間に、それこそ罠の互い位はいっぱいなかった。しかし、足跡はたくさん残っていたためそれを辿るとこの洞窟についた。けどここからは用心しなければならない。
このような洞窟に突入するのは、師匠曰く素人の考えらしい。まずは洞窟の出入り口を見て、罠の類やどれだけ使われているのかなどを明確に見極める。そして立体的に捉え、中の広さを把握し、予測する。そして煙であぶり出すのも手だが、今日はすでに何人かの女性が囚われているので使えなかったため渋々突入することにした。
「それでどうする?火を焚いて、松明にして進むか。それともランタンを使うか」
「だが、それでは光源が小さすぎるな。むしろ松明はいいが、ランタンは今日は持ってきていないぞ」
「だよね」
「それでしたら、私がなんとかします」
「フレアが、一体何をするんだい」
「見ていてください。ところで、どのくらいの範囲があればいいのですか?」
フレアに尋ねられた。
僕らは相談して、出来れば四方が明るい方がいいと宣言。するとフレアは軽く頷き返し、魔法を唱えた。《ライト》だ。しかも、相変わらずの無詠唱。
「このくらいでいいですか?」
「い、いいけど。凄いね、疲れないのフレア?」
その光は温かく。多少の熱量を有する。そのほとばしる明るい光に包まれ、僕はその光に対してかなりの魔力が使われていると、《魔眼》を使わなくてもわかる。当然、アルフィーやリアにも納得がいった。しかしフレアはそれに対して一言だけ。
「問題ありません」
と、答えた。
全く凄いとしか言いようがない。 最高の魔法使いだ。
そして顔を見合わせる。僕らはそれぞれが合図を送るように頷きあうと、洞窟へと入った。そしてそれぞれの技が冴えるであろうと思った。
少し脱線します。




