魔法の勉強
「と、言うわけでエルフィーだ。みんな、仲良くしてあげて欲しいな」
「エルフィー・ミリオンシアだ。気兼ねなく、エルフィーと読んでくれて構わない。よろしく頼む」
そんな感じで自己紹介をした。
つい昨日のことだ。僕とエルフィーは一通りの戦闘を終え、ギルドを出た後。エルフィーから仲間を紹介して欲しいとのことだったので、今日紹介をした。
突然の事で、リアもフレアもとても驚いていたが、納得したようで今二人の自己紹介に入っていた。
しかしフレアの様子を見ると、リアと違ってどこか考えているような節がある。当のリアは、とても愉快に話をしていた。こう言う時の彼女の明るさに勝るものはいないだろう。
「私のことは、リアって呼んでね」
「そうか。ではリア、君の腕……見るからに鍛えているね。いい筋肉をしている。後で、二人で打ち合いでもしないか?」
「いいわね。賛成よ」
「では頼む」
そんなたわいもないとは言い難い会話で盛り上がる。
そんな話を聞いていると体が疼くのは、剣士のさがなのかもしれない。
走行している間にも、フレアは何かを考えてじっとしていた。普段からあまり喋らない無口だから特に気にしたことはないが、少し心配になって声をかけようとした時だ。突然フレアは声を上げた。
「ああっ!」
「どうしたの?フレア」
「いえ、今ちょうど思い出したんです。あの失礼ですが、エルフィーさん」
「エルフィーで構わない」
「遠慮いたします。えっと、エルフィーさん。もしかして、貴女はあの《緑風騎士》な、ミリオンシアではないのですか?」
「「《緑風騎士》?」」
僕とリアは顔を互いに見合わせる。
エルフィーはフレアからの熱い視線を浴びる。そして当の本人であるエルフィーはじっと黙っている。その沈黙の時間をただ呆然と眺める。そして先に痺れを切らしたのは、エルフィーの方であった。無機質なフレアの眼差しを浴びせられれば、誰でも最後にはこうなるのが末だ。
エルフィーは一度はあ、と息を吐く。とても深く。そして周りを確認して淡々と述べ出した。
「その通りだ。確かに私はそんな大層な名前で呼ばれていたこともある」
「やはり」
「ねえフレア?その何、《緑風騎士》って」
そう尋ねたのはリアだった。フレアはその質問に淡々とした口調で、例えるならば翻訳機のように機械が辞書を読み上げるかのようだ。
その光景はとても慣れ親しんだもので、落ち着きがあった。と言うか無機質だった。
「えっとですね、《緑風騎士》と言うのは、この方エルフィー・ミリオンシアさんの通り名です。もっとも、元々はとある国で騎士をしていた頃の呼び名だと聞きますが」
「騎士?」
「私もそこまで詳しくは把握していないのですけど、エルフィーさんはとある国で長年騎士をやっていたはずです。そしてその国で数々の戦いを繰り広げ、そして今ではそのような呼び名が通っていると言う伝説があります」
と、話した。それに対してエルフィーは何かもの言いたそうだったが、少し言い辛そうに見えた。
僕はそのことを確認したが、フレアは未だ説明を終えない。そして少し話がひと段落したところで、一度軽く咳払いをしたエルフィーが話し出した。
「確かに私はとある国で、長年騎士をしていた。その時の私の呼び名、この場合は称号として与えられていた名前が《緑風騎士》だ。だが、それももはや過去のこと。今はただの冒険者だ」
「エルフィー」
「と言うことだ。すまないな、話の種を枯らしてしまい」
「構いません。ですが、ちょうどいいですね」
「ちょうどいい?」
「はい」
そう一言フレアが言い、僕らは呆然とした。
フレアが何を言い出すのかと、僕らはしばし待つ。フレアがこう、自分から話題を振るのは少し珍しいからだ。そしてフレアが口にした言葉は、僕に向けてだった。
「フェイさん魔法の勉強をしましょう」
◇◇◇
「えっと、魔法の勉強ってなんでまた突然?」
「何となくですが」
「何となくって」
僕はそう唖然とした。
そもそもフレアはこんな風に突拍子も無いことを言い出したりはしない。今日は妙だ。
「前にフェイさんが「この世界の魔法について教えて欲しい」って言っていたことを思い出したのです」
「でも何で突然」
「丁度エルフィーさんという、とてもすごい方に出会えたのもそうですが特にエルフィーさんがかの珍しい『エルフ』だと言う点が関係しています」
「なるほど、そう言う意図か」
「『エルフ』ね……そう言うこと」
「えっ?!何のこと?」
リアはまだ話の趣旨が飲み込めていないようだが、僕はその一言で察した。他もそうだ。
エルフはどの世界であっても高い魔力を有する。
その上、様々な太古より存在する種族の中でも特に魔法力に長けている。僕の知り合いもそうである。そして何より、エルフは古代より伝わる古の魔法にも詳しいと聞くのが、僕の知っているエルフなのできっと世界の一端であるこの世界、いわば実次の世界なのでそのルールは現在のはずだ。
「えっと、じゃあ頼むよフレア」
「はい。任せてください!」
とても乗り気で楽しそうだ。
「おほん。ではまずは魔法の基礎知識からです」
「頼むよ」
ギルドのテーブルにつき、僕たちはフレアの話に耳を傾ける。
そしてフレアはゆっくりと百科事典で読み上げるように話し出した。
「この世界には遥か昔から魔法というものが存在していました。最古とされる魔法使いは、その力を神この場合は天使族。それから悪魔族から授かりました。魔法には魔力と呼ばれるものが必要不可欠とされ、それ等は自然のあらゆる場所に存在しています。ここまでは、よろしいですか?」
「うん。大丈夫」
「では続きを。魔力は日々体に取り込まれていき、いつしか誰しもが体内に魔力を有するようになりました。それが今から、五百年ほど前のことです。その力は当然他の生物にも受け継がれます。魔力を有するかもな。それこそが魔物です。彼らは、体内に魔石と呼ばれる器官を持ちます。しかし私たちのような人族や、それに通じるものはそのような器官は持っていません。だから無尽蔵に魔法を使えるわけではないのです。だから効率よく使うために多種から奪った魔石を使うのです」
「じゃあ私達は、魔石がなくても魔法が使えるのね!」
「はい。誰しもがそれを使うための魔物にはない特別な細胞組織をしています。そしてここからが専門的ですが、この世界には神の培った魔法の属性が六つほどあります。そして全ての生物はそれ等のいずれかに属します。そしてこの六つとは別に全てが持つ『無』の境地それこそが『無属性』なのです」
「なるほどね。それで、他のが火や水。それから風に土に光と闇なわけね」
「そうです、リアさん」
「えっへへ」
リアがとても嬉しそうに照れた。
それを見たフレアは淡々と話を続ける。僕とエルフィーはそれをじっと聞き、脳内に焼き付ける。
「では魔法について、さらに詳しく説明していきますね」
「うん。頼むよフレア」
そう返事を返すと、コクリと頷いて話が続く。
「あのそういえばですが、確かフェイさんの適正魔法は」
「うん。光と闇だよ」
「何?!それは本当か!」
「やはりですか」
「えっ?!なになに、何なの?」
リアは慌てふためき、そしてエルフィーとフレアは考え込む。どうしたのかと野暮な事を聞こうとしたが、その前に尋ねられる。
「フェイさんは、前に何度か闇属性と思しき魔法を唱えていましたが、光の魔法は何か?」
「ああ。えっと、例えば…そうだな、リア、腕を貸して」
「えっ?!いいけど、何をするの?」
「まあ見てて、《癒光》」
そう唱えた。
すると光のベールがリアの左腕を包み込む。そしてその光は全身を通うかの如く、眩い輝きを目一杯放ちそして仄かな温もりを与えて散り散りになって消え去った。
「えっ。あれ、腕が軽い」
「まあこんな所かな」
「なるほど、そういう事ですか。光属性はあくまでも補助的な意味を持ち、闇属性が主力なのですね。それにしても、やはりフェイさんは面白いですね」
「どういう事?」
僕は軽く首を傾げた。
すると、説明してくれたのはエルフィーだった。
「当然だ。私も驚いた。フェイ。君はこの世界の魔法知識にとてもじゃないが疎すぎる。冒険者ならば、もう少しは知っておいても不思議ではないはずだが」
「どういう意味?」
「簡単な話だ。私からの補足だが、魔法というのは先ほどのフレアの説明通り属性がある。そして、互いを相殺する属性も存在するのだ。相愛するものもあるがな。例えば、火と水。あくまで極端だが、炎は水によって鎮火される。それと同じだ。しかし、これはいたって普通にある事で、私も同時にこの属性を有する者を見たことがある。この世界には、一つの属性だけでなく、二つ以上の属性を有する者も中に入るからな」
「なるほどね」
「しかしですがフェイさん。貴方のように、光と闇。私がこれまであったこともない極めて稀な例は初めてです。先ほどの説明にもあった通り、相殺しあっう属性は中には存在します。その極めて稀な末端に位置するものこそが、光と闇。互いの力はとても強く。そもそも彼らを保持する人の方が珍しいです。それを同時に有するなど聞いたこともない。だから驚いたのです」
「全くだ。一体君は何者なんだ。まるでこの世界に溶け込んでいない。別の世界の人みたいな気がするな」
「ははは、まさか」
僕はそう笑ってごまかした。
そして話は進み、魔法のレクチャーは滞りなく進む。リアもいたって真面目で、コクコクと首を振る。きらきらとした瞳を輝かせ、それを仕切りに話を進めるフレアもいつも以上に軽快だ。
僕はその光景を見てとても微笑ましかった。そしてエルフィーは楽しそうに覗き込む。
そんなエルフィーはポツリと、
「全く。本当に面白いな、君の仲間は」
と言い
「まあね」
と、僕は返す。
そんな風に話は進み、ざっと小一時間ほど経った。
その間にも愉快な話は続々と垣間見え、この日はそんな談笑が僕達の輪を取り持ったのだった。
もう少しで十万文字です。




