呪いの波紋
「人為的な呪いか」
エルフィーが何気なく提示したその言葉。それがとても引っかかる。何故かはわからないが、何となく嫌な予感がして仕方ないからだ。ここまで考えさせるだけのこの『呪い』は、僕の脳内を掻き出す。
「しかしですよ。私たちがここで立ち止まって考えていても仕方ありません。気にするのはいいことですが、それが原因で私たちの連携に乱れが出てもらっても困ります。こう言うことは、専門に任せるべきだ」
「専門?」
「そう。とりあえず、ギルドに持っていきましょう。しかし、どうしましょうか。この巨体」
「ああ、それなら何とかなる」
「はい?」
エルフィーは浮かない顔で、顎に指を当てる。
それに水を差すように僕が問いかけたのでエルフィーはやや、首を傾げていた。
そして僕はそれを気にせずに前へと出て、着ていた外套を広げた。
そしてそれをマジックにでも使う布のように広げると、それを既に死んでで動かないゴブリンキングを覆った。その瞬間。ゴブリンキングの死骸がまるで吸い込まれるようにして、消えてしまった。それを見ていたエルフィーは、驚いて「なっ!?」と声を上げた。
「よし。完璧」
「フェイ?」
「うん。何?」
「今のは一体なんだったんだ?急に死骸が消えて……それにそのコートは?」
「ちょっと待って!ちゃんと説明するからさ」
僕はそう、エルフィーを制した。そしてエルフィーにわかりやすく、とても簡潔に説明した。魔法の概念的な感覚問題がややあるが、エルフィーは比較的早く納得してくれた。しかし、やはり腑に落ちない点があるようでどんな魔法なのか聞いてきたが、生憎と僕はこの魔法についての知識を持ち合わせていないので、説明のしようがなかった。この魔法。いや、スキルなのか?【時空魔法】について、知っているのは当の本人だけなのだ。僕はそのことをひどく納得してもらいながら、このいま持っている外套を羽織る。
「さてと、じゃあ行こうか」
「はあ。全く規格外も大概にしてほしい」
「それを言うならエルフィーだっで、あの技術は大したものだよ」
「それを言うなら、フェイだってそうだろう。多種多様な技の数々。見事だ」
「ありがとう」
「いや、こちらこそ」
僕たちは話をしながら街へと戻るのだった。
王都のギルドへと向けて歩き出すその足取りはとても軽やかで、心地よいものだった。それにしても、槍以外の技も久々に使わないとなと心の中で唱えるのであった。そんな僕の心情表現だ。
◇◇◇
さてさて、王都に戻ってきてそしてギルドへと足を運んだ僕らは適当にゴブリンキングの死骸を取り出す。それを適当に放置していては、周りの冒険者からとても驚かれたのは言うまでもない。
この国の王都のギルドだ。どれだけのものか見てみたい。そんな気持ちを少し隠して本題に入る。
「すみません。実はこのゴブリンキング少し訳ありなんです」
「はい?」
「そうなんだ。このゴブリンキングは強力な呪いにかかっている。それを調べたい。調査を依頼できないか?」
そうエルフィーが言う。するとギルドの受付嬢は、その顔を見るなりハッと驚く。
僕はその顔色を見て、「どうしました?」と問いかけるがその顔は僕よりも若干背の高いエルフィーに向いている。
「あのもしかして、失礼ですがお名前をお聞きしても?」
「エルフィー・ミリオンシアだ。種族はエルフ。ランクはA」
「え、え、え、エルフィー・ミリオンシア!」
「Aランク?!」
僕と目前の受付嬢は、ほぼ同時に言葉を発した。
声が重なり合う。それはとても大きな声で、周りの注目を集めてしまった。そして、エルフィーの事を知っていそうな、とても屈強な男や、痩せた青年。でも、数々の修羅場をくぐり抜けてきたようなそんな風貌だ。しかし、その目の色は変わった。
「あれ?もしかしてあの大剣って…」
「嘘だろ!まさかあの噂の…」
そのような熱い憧れの眼差しを向けられる。
否、半分近くは分かっていなさそうだ。
それを見たエルフィーは、ため息を吐いた。そして、受付嬢に頼み込んで「兎に角。この死骸のことを調べておいてくれ」と言った。すると、受付嬢はやわ、わかりました」と小さく呟く始末で、見ていて唖然とした。
「すまないな。と言うことでだ、フェイ」
「いいよ。じゃあ行こうか!」
「本当にすまない」
とても神妙で、なんとも言えない空気が漂う。
それをすぐさま納得した僕は、申し訳なさそうな素振りを見せるエルフィーに、本当に何気なくそう接すると、エルフィーは和んだようにそしてとても申し訳なさそうにした。
それも軽く制して、僕たちはいそいそとギルドを後にした。
(ああ。今日はすごい一日だな)
と心の底から思った。
◇◇◇
「本当にすまない」
「いいって、気にしてないからさ。それにしても、エルフィーって有名な人だったんだね。全然知らなかったよ。彼ならなんて言うかな?」
「フェイ、やはり誰なんだい?その彼と言うのは」
「えっと、僕のとても大切な友人かな?」
「友人か。いいな」
「うん」
そんな風に簡単に説明した。
彼の事は何だろう?別世界の人間なのは確かだけど。戦闘好きではないし、あと何だろう?と心の中で思った。
まあ、そんなどうでもいい話はいいとしよう。僕はそう自分自身に言い聞かせる。すると、僕は唐突にエルフィーに質問を投げかけた。
それはさっきの有名人さだ。あんなに有名なのに、それを毛嫌いするかのようにしてあんな対応を取っていたことに少し違和感を抱いたのだ。
「エルフィーは、ちやほやされるのが嫌いなんだね。まあ僕もだけど……」
「ああ。他人からの名声は結局は他人から見ての単なる価値観でしかない。それに溺れてしまって、勝手に注目されるのは嫌いだ。決して、人前に出たり何かを成すことで誉めたたえられることが嫌いではないが、注目を浴びるのはもう嫌だからな」
「と言う事は、前にどこかで?」
「まあな」
そんな昔話を終えて、立ち上がるエルフィー。座っていたベンチを立ってエルフィーは僕の顔を見た。そしてこう言う。
「明日、君の仲間に合わせてくれないか?」
「えっ?!いいけど」
「私を紹介してくれ。君の剣技、惚れ惚れするものがある。是非、私もその剣と違えたい」
「はあー」
そんな言い方をしてくれた。
僕の剣は師匠からの習いだ。褒められてとても嬉しい。僕はそれに応えるように、大きく頷くとこう言う。
「わかった。じゃあ先に改めて。よろしくね、エルフィー」
「ああ、こちらこそ」
と夕日に向かってそう交わした。
6/2 昨日はあとがきを書いてなかったけど、いつも通りブクマお願いします!




