ゴブリンキング
「あれは、何ですかね?」
「あれは……厄介なことになったな」
そう、草原の端で僕とエルフィーは考察していた。
目の前には、ゴブリンの集団。群れだ。しかし、その様子はおかしい。
ゴブリンは、決して活発ではないことはない。むしろ、逆とでも言える。しかし、目の前に広がる群れには、そのような活発性は決して見られない。が、群れとしての役割はしっかりと果たされ形成されているが、ここからでも伝わってくる奇妙な攻撃的なオーラが表面化にではなく、内から染み出しているみたいにだ。そのぐらい静かで、怖かった。そのことについては、如何やらアルフィーも感じているらしいが、そのことに対してエルフィーは如何でも良いかのように、あとついていた。ただ、別のことを除いてだが。それれは、その先を見ていた。
「エルフィー?」
「これは、単なる依頼と違うようですね。あれを見てください。ゴブリンたちの中央を陣取る、一際大きな姿を」
僕は無言で遠くを見る。そこには、通常のゴブリンとはひときわ大きくて、全くもって違う種類がいた。
それは、ゴブリンロードとも違う、また違う亜種のようである。通常のゴブリンは体表が緑色なのに対して、それは真っ黒で、生々しい。そして、鋼の鎧を見に纏い、手には、凶悪そうな長槍が握られている。
背中姿だけだが、魔力の量が尋常ではなく、ミシミシとした暗黒のオーラが伝わる。それを直に浴びているゴブリン達は、おそらくその意思すらも喰われているのだろう。だけど、それが何なのかは、僕の知識だけでは見当もつかなかだが、ポツリと一言呟いた。
「ゴブリンキング……」
「えっ?」
僕には分からなかった。しかし、エルフィーは恐怖を感じてあるようでもある。その様子は表情から見ても険しかった。が、しかし何処か楽しそうでもあった。僕は、逆に聞いてみた。
「エルフィー?」
「面白い。ゴブリンキング、しかも亜種だ。あれは、呪いにも近い。周囲の同種を、操りその魂を喰らう。そして、自らの力に変えて、そしてやがては世界を終焉へと誘うもの。面白い……私の実力を知らしめるには、もってこいの間だ」
「エ、エルフィー?」
エルフィーの顔は悪かった。
別に悪気がある方ではない。むしろ、恐怖をはねのけて、そしで自分の力を知らしめるかのようにしてとても楽しそうであり、そして、その意思に従うかのようであった。僕はそのことに対し、怖かったが、それで僕のやることは変わらなかった。
「つまり、あいつにはもう意思なんてものはないと?」
「基本的には、悪魔に魂をを打ったも同然だ」
「悪魔ね……この世界の悪魔って、そんなに悪いの?」
「この世界?質問の意味がよく分からないが、確かに心優しいものも多くいる。が、その中でも悪い心を持つものだっているからな」
「そ、そっか……」
僕は心苦しい気持ちになった。
やはりどの世界でも、悪魔は嫌われ者なのかと。僕はそのことに少し悲しみを覚えたが、そんなことは関係がなかった。
理由ははっきりとしていたからである。
「エルフィー、行こう!」
「えっ?!やる気だな、フェイ。わかった」
そう言って、僕たちは駆け出した。
それはとても早く。駆けぬける風のようであったかのようである。
◇◇◇
「じゃあ、作戦通りに」
「了解した」
僕とエルフィーは、本当に短い間に作戦を立てた。しかし、それは作戦というにはとてもじゃないほどに、簡素で単純なものである。全力投下あるのみだ。
「風の精よ、集まれ……《ハリケーンジャベリン》」
そう短く呟くのと同時に、僕は走り出してた。
ゆっくりとして落ち着いた面持ちでそう唱えたエルフィーは、口添えしてそして敵の真上に巨大な魔法陣を描き出した。
「グルギャ?」
真上を診始めたゴブリン。そしてその瞬間、いく本にも及ぶ槍が雨のように降り注ぐ。
そしてそのどれにも風の恩恵が包み込み、そしてそれは嵐となって一旦の存在となった。ズバズバズバと、無数の槍。そしてそれが地面に到達する。
ズバ!ズバ!スバ!ズバ!シュパ!
ゴブリンたちの体を貫く。
周囲一帯には、血しぶきで溢れる。柔らかな緑の草原には先ほどまでの安寧の時は既にない。見るも無残で、合戦上のように散布する。血塗られたその光景は、見るものにとってはひどい。残酷なまでにも振り下ろされる無数の槍が、その生々しい血を洗い流すかのようにして、空中に撒き散らす。
ぐちゃぐちゃに潰れて、砕け散る肉片は、ハリケーンの嵐によって、同じようにして空中に上げられ、そしてバラバラに粉砕され微塵も残りはしなかった。
ー しかしだー
「なっ?!」
僕はそう心から溢れた言葉。
それはその黒き巨人。ゴブリンキングがその場から一歩も動いていなかったことだ。降り注がれるやらの影響を一切受け付けず、振り下ろされた槍の一撃も、弾かれるかのようにして地面に落ちて消滅する。周りで繰り広げられる丸も無残な光景には一歳目も負けず、関心も持たない。事実、その瞳には悲しみは一切見られない。そして、その背中らはましてや偉大性すら感じられた。
「フェイ!」
「わかってる!」
僕は剣を鞘から抜き放って、抜刀した。そして、一気に飛び出した。
「行くぞ!」
僕は剣を使って、切り裂いた。
刀とは明らかに違う動きだが、僕は師匠に教わった技を使った。その名前は、「魔獣無双流ー三日月鼬」。鼬系剣術の内の一つであり、この技は、敵を剣一本で三日月のようにして胴体を瞬間的に切り裂く、一撃必中の技。鎌鼬の一刀流バージョンである。
シュパ!
(確実に入った)
そう、僕は確信した。
しかし敵は倒れ仲間だ。一撃発注の技なのに、一人つついていなかった。しかし確かな感触は手に伝わっていた。しかし、何一つとして破壊できていない。
僕はひどく唖然とした。しかし、それを見ていたエルフィーそして、突如として振り返ったコブランキングは、僕の方を振り向いた。僕が警戒態勢を取るが、ゴブリンキングは僕の方を向いたのに対して、一切の興味関心がない。しかし、その瞳には先ほどとは明らかに違う闘志がメラメラと灯っていた。
だが、何故か。僕にはどうにも攻撃は入ったとしか思えなかった。
「フェイ!」
「魔獣無双流剣術ー『刺突ー一角』!」
僕は剣を突き立てた。そして、確実に心臓に入った。が、まだ動く。まるで、肉体が既に失われた人形のように静かだ。その瞬間、僕には心臓の鼓動が聞こえた。生きてはいる。が、なぜ動ける。僕がそう考え出した時、突然エルフィーが僕の前に立った。焦ったようではない。むしろ、楽しそうだ。
「大丈夫かフェイ?」
「エ、エルフィー!」
エルフィーは、僕の前に立ち自分よりも大きな身の丈のある巨大な大剣を刀身を横にして待つ。
何故かはわかる。ゴブリンキングが攻撃してきたからだ。しかし、だ。その攻撃は、とても重そうでそれを容易くエルフィーは受け止める。僕はそれを見て、正直力では絶対に勝てないと思った。
「エルフィーこれは」
「何、フェイのおかげだよ。あいつの呪いのような鎧を打ち砕いてくれたおかげだ。ありがとう」
「で、でも」
「後は任せてくれないか。すぐに倒してみせる」
そう言って、ゴブリンキングの攻撃をはねのけた。そして僕の体を片手で支えて持ち、一旦後ろに下がる。
僕はそれを素直に受け入れて、そしてエルフィーは何事もないかのように楽しそうに戦場へと向かったのだった。
ちょっと長くて、久々にいい出来です。




